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教師の技|「失敗」を演出して、クラスづくり

概して大人は子どもを前に、待てないことが多いかも知れません。先回りして、失敗を回避させてしまう。教師のクラスづくりのケースでは、日直当番や給食の仕組みを、教師がお膳立てして「システム化」してしまうことがよくあります。

確かに教師が仕組みを作れば、失敗は少なくなります。生徒は、教師が用意した道をただ歩けばいいので、迷うことがありません。しかし、そのせいで生徒は失敗から学ぶ機会を失ってしまいます。もっと重要なのは、「クラスは自分たちで作るのだ」というオーナーシップが育たなくなってしまいます。

この投稿では、「失敗を演出して、クラスづくりをする」というアイデアをご紹介します。

なぜ、失敗が重要か

繰り返しになりますが、失敗は学びの機会になります。なぜならば、失敗は不快感情を伴うからです。この不快感情こそが、現状を変えたい、もっとよい自分(クラス)でありたい、という動機付けになります。

また、失敗に直面すると、生徒たちは課題解決モードに入ります。具体的な改善策を自ら生み出すようになります。目標や手段をクラスで共有し、(教師が言わなくても)行動し始めます。

そして、失敗によって浮き彫りになった課題が、見事に改善されると、彼らの中に達成感が生まれ、「自分たちのクラスは、自分たちで作っている」という感覚が育まれるのです。

このような理由から、教師はクラスづくりにおいて「失敗」を重視し、失敗を意図的に演出する視点が必要になります。

失敗を演出する

実際に、私の経験では、失敗をターニングポイントに、クラスが大きく変化しています。

例えば、中学校1年生の事例です。私は給食の当番のやり方を、細かく決めません。失敗をして、試行錯誤しながら生徒が決めればいいと考えているからです。4月最初は、人数だけ決めてスタートします。

想定通り、うまくいきません。ダラダラと時間が過ぎて、給食の開始時間に間に合わない。当番の生徒は決まっているのですが、配膳台は誰が水拭きするのか、給食準備室から誰がご飯を運ぶのか、誰がスープを運ぶかなど決めていないからです。当番以外の生徒も、ただ準備が済むのを待っているだけで、我関せずという態度です。

最初のうちは、中学に入って間もない彼らを担任としてサポートしますが、2週間ほど経ったところで、さっぱり手を引きます。傍観者になって、意図的に失敗を演出するのです。

「先生、どうして教室の端っこにいるんですか?」とある生徒が不思議そうに尋ねてきます。私は「給食当番の様子を見ているんだよ。」と平気な顔をして事実だけ答えました。

そして起きたのが、「食べる時間が5分しか無くなる」という失敗です。当番の生徒の準備が遅くなり、周りの生徒も何も声をあげない結果、生じたのでした。

ところがこの後、この生徒たちは、「給食の配膳に遅れる」という課題を見事に解消していったのです。4時間目の授業が終わると、当番の生徒はすぐさま手を洗い、給食コンテナを給食準備室から運びます。配膳の役割分担は、その場の状況で「私は牛乳配るね」、「じゃあ俺はお箸をやるよ」といった具合に、率先して行います。当番以外の生徒が手伝う姿も見られるようになりました。

どうやって失敗から学ぶか

彼らの中に、何が起きたのでしょうか。実のところ、私にも正確なことは分かりません。ただ、一つ言えるのは、失敗をターニングポイントにして、変化したということです。

「食べる時間が5分しか無くなる」という失敗に直面したとき、私がどのように生徒たちと接したか、お伝えします。

1  失敗していることに気づかせる。

生徒は、自分達が失敗していることに気付かないことがあります。まずは、失敗を認知させる声かけをしました。「今、どういう状況が生じているか分かりますか?」(間)「今、昼食の時間があと5分しかないことに気付いていますか?」この一声で、生徒たちは「はっ」となります。

2  自分たちにマイナスになっていることに気づかせる。

生徒たちに「先生が怒っている」と思われてはいけません。そこが本質ではないからです。むしろ、この状況が自分達にとって不利益になることに気付かせます。「こういう状況になると、あなたたちにどんなマイナスがありますか?」(間)「昼休みの遊ぶ時間はどうなりますか?」、「ゆっくり食べたい友達も、いるのではないでしょうか?」

3  絶対に叱らない。

生徒を叱ると、行動の動機付けが「教師に叱られないため」となってしまいます。生徒を従属的な立場に追いやり、自律を妨げます。むしろ、成長のきっかけになることを伝え、変化を促します。「失敗は歓迎です。よかったね、これでクラスが変わるきっかけができたね。もし、この状況がよくないと思うなら、具体的に行動を変えていこう。」

4 上から目線で褒めない。フィードバックする。

失敗の後、生徒達は見事に行動を変え、状況を一変させました。ゆとりをもって「いただきます」、「ごちそうさま」ができるようになった。ここで教師としては、もちろん嬉しくなって「凄いね」と褒めたくなるのですが、グッと我慢。生徒が帰り学活の中で、自分達で自己評価する機会を守ります。生徒の中から、「今日は給食の準備が早くできてよかったです。続けていきましょう」というコメントが出ることを待つのです。

教師が先に評価してしまえば、結局は「先生に褒められるために」が行動の動機になってしまいます。これでは、生徒の中に「クラスは自分達でつくる」感覚が育ちません。

私は、上から目線で褒めるよりも、評価抜きのフィードバックを心がけています。「あなたたちの自主的に行動しようとする心が、状況を改善したのですね。」

失敗を演出してクラスをつくる。そんなアイデアはいかがでしょうか。

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