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"You came here in one piece!"(無事に来てくれて最高!)

アセアンを主戦場に異文化問題の解決支援をしている河谷隆司です。

ある時、一念発起して、当時、まだ訪問さえしていなかったミャンマー、ラオス、カンボジア、それに、ブルネイの4カ国をワントリップで回ろう!と決めたことがありました。これでアセアン全10カ国をカバーできるからです。

今日のコラムは、この4カ国でのビデオ取材を無事終えて膨大な情報、コネ、40時間に及ぶインタビュー動画を戦利品に、第二の故郷の17年を過ごしたクアラルンプール、マレーシアへたどりついた時の顛末です。

ちなみに、現地動画は私の研修の素材になる貴重な宝物。費用は全部自前ですがR&Dには一定の投資をしないと良い製品=フレッシュでライブ感のあるトレーニングをすることはできませんから、当然のことです。

さて、2週間ほどの4カ国ツアーを終えて、5カ国目のマレーシアの首都、クアラルンプールを訪問したとき、大失敗をしてしまいました。

翌朝は午前9時から地元の教育機関のカンファランスで「海外赴任者と現地社員の相互理解」について英語でkey note speech(基調講演)をして、さらにその翌日は、日本人商工会議所でランチタイムの講演でした。

私はいつものように翌日の予定を入念に確認して眠り、翌朝、目覚めました。すると、あろうことか頭の中で2つの日程が----入れ替わっていた----のです。

のんびりと朝食をとって部屋に戻ると、「まだお見えになっていないので心配しています We are concerned because you have not shown up yet.」というメッセージが携帯に! 

瞬間、手帳を見て愕然。インディアンのマサラティーなど食後にゆったりと味わっているべきではなかったのです! 

すべてを悟った私は、高速で会場へ急行すると、まず主催者の奥さまが私を視界に認めるや否や、私のところへ走ってきて、私に抱きつきながら何と言ったでしょうか?ーーと研修ならみなさんに聞きます。

彼女はこう言ったのです。

"I'm so happy to see you in one piece !" 無事に来られてとても嬉しい!

"in one piece "で、身体が壊れずに1つにつながっている状態、つまり「無事に」という意味を表します。万が一なら、two pieces などになっている訳ですから。

つまり、基調講演者が会議に遅れるわけがない。遅れたのは余程の事故か何かだろうと思っていた、ということが感じられます。そこへ、主催者の社長=ご主人がゆっくりと輪に入ってこられました。

皆さんへの質問です。もしあなたが私だったら開口一番何と言ったでしょうか? そして、それへの社長氏の返事は何だったでしょうか?

私はとにかく頭の中で悪魔が囁いたこと、日付が逆転してしまったことを、怒涛のごとくお話ししてお詫びをしました。I'm so sorry....I apologise. すると氏は凄いことを仰いました。

"Oh, I see. That can happen to anyone."

ああ、そうでしたか。それは無理もないですね。

そういう状況(4カ国で40人取材)なら誰にでも起こりうることですーーーなんという返事、なんというゆとり! その時、私の講演時間は終わっていてお茶タイムに入っていたんですよ。職業人生で初めて穴をあけてしまったのです。私は思わず返事しました。

"I will do anything I can to make up for the loss...if you give me another chance."

このたびの損失の穴埋めになることなら何でも致しますーーーもう一度チャンスを頂けるなら。

これが日本なら間違いなく、無視される、睨みつけられる、嫌みを言われるか、名刺だけで仕事をしている肝っ玉の小さい相手なら怒鳴るかも知れません。マネジメント・カンファランスで穴をあけたんですから。

怒鳴れば人間関係はそこで切れて、私は二度と呼ばれないでしょう。日本の型の文化、決まりの厳格さはそういうものです。ところが、マレーシアの社長氏は、あういう対応をしたことでどういうメリットを得たのでしょう。

私との関係を保つことで、日本人で英語講演のできる稀な講演者を確保したことです。その後、社長からは二度も講演機会を頂きました。基調講演者から穴をあけられた会社の信用ダウンのダメージと、私の確保を天秤にかけての瞬時の判断だったことと思います。

型の文化は私も外国人へいつも伝えていますが、様々な、考え方、判断軸の存在する異文化社会では、どこまでその特異な文化を通すかの判断は柔軟でありたいものです。

それもグローバルなリーダーの素養だろうと思うわけです。国際社会は一かゼロじゃない。組合せ combination なんです。組み合わせていかに最大の効果を醸し出すか。

英語表現に戻ると、実はこの表現。以前、ヤンゴン(ミャンマー)でも聞いたことがありました。

安全帽を着用するよう呼びかける安全教育について、"Please wear a safety helmet so that you can go home in one piece."(家に無事に帰宅できるように安全帽をかぶってください)と、警告よりも家族を強調すると、ヘルメット着用をみんなしてくれますよ、との助言でした。"in one piece "が家族の文脈で使われると、胸にジンときます。

ところで、私の失態は実は、私の到着を待つまでもなく、無事収束していたことを添えておきます。一体どうして? それは、もう一人の米国人の基調講演者が私の分まで長く話してくれたのです!笑 これで聴衆のざわめきもミニマムで終わり。

司会者がどんなジョークを言って注意を逸らしたのか気になります。もしかして ーー I understand there is a time difference of one hour between Tokyo and Kuala Lumpur. I hope he is not wearing SEIKO watch this morning. まあ、時間か道路事情のネタだったでしょうか。

こんなことで収束するんですよ。大事(おおごと)に見えても。あそこで怒鳴らない選択は十分にありだということです。一度決めたことでも臨機応変とはこのことです。もちろん、穴をあけたことでの損害賠償などが発生する事態では話は変わります。でも、決めた路線を外された時に、発狂するか、かたくなに無理なのを承知で守らせようとするか、土下座を要求するか。

わが日本の文化は、こと国際社会では更なる試練 test を経てもっとしなやかなものに脱皮させないといけません。そうすると、もっと日本ファンが増えます。日本の世の中が、もっとゆったりと、心温まる、愉快なものになっていくのにな~とこんなことがあると思いにふけっています。それが本来の日本だったのにな。国際的な時代にこそ我を忘れないようにしましょう。

河谷隆司の連載は、ジャパニーズ・イングリッシュ=自分らしい英語=Burning Messageの勧めをテーマに、海外での実話からお届けしています。毎月3本くらいのペースを目指しています。また次回をお楽しみに。

あっ、写真の左が奥様。右側が社長さんです。穴をあけた講演者に微笑むことのできる文化。彼らが先生、日本は生徒。

●アセアン異文化全10カ国・速習講座<基礎編>
https://www.udemy.com/course/10-onoku/?referralCode=7A31C8D458D9920A959C

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