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第15章〜明日から全員、営業です

ブラックウィークを乗り越え、2.5億円の増資により、事業を加速する準備が整った。まずパツンパツンだった目黒のオフィスから、五反田の広々としたオフィスに引っ越しをした。起業して4年目でやっと、立派なちゃんとしたオフィスビルに入居できた。時間かかりすぎただけに嬉しかった

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スタートアップのオフィス事情としては、渋谷がビットバレーと呼ばれていたころから渋谷(特に道玄坂)が中心地だった。渋谷再開発のため賃料が安い時期はあったが、その後高騰、東に向かって恵比寿、目黒は物件が少ないし高い、となると五反田、と東にスライドするか、代々木・六本木を選ぶ会社が多かったが、五反田が圧倒的に坪単価が安く、オフィスビルも多いため、いつからか五反田バレーと呼ばれるくらいスタートアップが集まる街になった(今ではさらに東に移動していると聞く)。僕たちのオフィスは居心地はとても良かったものの、1本裏路地に入ると治安が超悪いエリアということもあり、破格だった(あるある)。

オフィス移転はテンションがあがるものだが、オフィスを移転したからと言ってすぐ成長するわけはない。もうすでにその頃にはフリマアプリ関係の広告費は巨人達のGoBold投資により1アプリインストールごとの獲得単価が高騰してきており、シリーズA以降の重要ポイント、ユニットエコノミクスの合致が難しくなってきていた。C2Cなので採算性を気にせず投資しネットワークエフェクトを作りに勝負したほうが良かったが、いかんせん相手が強すぎて、1位、2位から大きく差をつけられた我々が真っ向勝負するのは最悪の戦略のように思えた。しかもFacebookプラットフォームに乗っかっていたWishScopeと異なり、フリマアプリとSNSの相性は最悪で、バイラルではうまく伸びない。誰も中古品を出品したり買ったことを友達に共有したくない時代だったのだ。どこかの偉いVCが提唱していた、初期はスケールしないことを全力ですることを考えた

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フリマアプリはとにかく良質な出品数がKPIのセンターピン。良質とは、人気があり、安くて、安心安全なもの。いかに他のフリマアプリではなくスマオクで出品してもらえるかが命題だった。ブランド品特化ということで、時には数十万円するバッグなども出品されていたが、いかんせん個人間売買で不安がつきまとう。そこで、オプションで鑑定できる機能を提供した。鑑定あり商品は一旦自社オフィスに届き、リスク判定したうえで取引できるという機能だ。

自社キャンペーン用商品の仕入れで訪れていた古物市場に来ているプロバイヤーに少しずつ、実は僕はフリマアプリを運営しているんですという話をしはじめた。当時はなぜかヤフオクは業者がメインで安全だけど、フリマは素人ばかりが偽物取引していて危ない、みたいな評価だったが、スマオクでは社内に鑑定士も所属し、偽物監視の徹底や鑑定サービスも提供している、しっかり向き合っているということを伝えると、最初は半信半疑だった個人で古物商をやられている人も、スマオクに出品してくれるようになった。個人事業主的に古物商免許を取って売り買いしているような個人が主だったのだが、その人達の商品が片っ端から売れ、出品数も大量だった。このような出品者が獲得できれば、良質な出品が増えてGMVのトップラインも増える。広告では刈り取れないターゲットだったため、どうやったら頻繁に売買する人を集められるか考えた。買い物をするお客さまにとっては、出品者が個人だろうが法人だろうが関係なく、人気商品を安く、安全に購入できればそこから買う。それであればC2Cにこだわりすぎず、法人が出品できても良いのではないか、とりあえずやってみよう、ということになり。テストを開始し、手応えがあったのでBtoCアカウントが稼働できるように裏側や規約を一気に作り直した(審査フローがとても大変だった)

彼らから街のリアル店舗の事業者の方を紹介してもらえることも増えた。それならば、汗をかいて直接営業してみよう、ということで何店舗かトライしてみると、店員が若い場合は、無料だしスマホ慣れしているのか、意外と契約してくれる。実は個人的には飛び込み営業は人生初だったが、やってみると外部からの見られ方や叱責には耐性があり、客観的にピエロを演じられる性格の自分には、営業は向いているように思えた。飛び込み営業は、即興演劇、しかもコメディだと割り切ったら楽しかった。

いくつかの演劇パターンを試した。世間一般的な王道のスーツでかっちり営業スタイルは業界の性質的に全く受け入れられなかった。私服でラフに、どうも〜と友達のように話しかけて入店、最初に3000円くらいの小物を買って(CPA回収可能ライン)まず店舗のお客さんになってから、「そういえば、スマホで販売しないんですか?スマオク使うと、在庫も一瞬で100%売れるんですよ、僕そこで仕事してるからブランド品好きなんです〜」と話していくと、こちらはすでにお客さまなので、心をひらいてくれて色々話てくれて、契約に繋がりやすいという勝ちパターンも見えた。こんな泥臭い、スケールしないことは競合はしていなかったと思う。それゆえに、このスケールしないけど、本質的にトップラインが伸びる施策に全バリすることにした。

明日から全員営業宣言をした。

一部のプロダクトを守るエンジニアとCS以外、全職種経験を問わずだ。社内は一瞬凍りついたが、チームで都内の街を担当し、買取店や質屋とお友達になってお手伝いしてくるゲーム、とご理解いただいた。なるべくその駅の美味しいランチ情報などを共有したり、営業の勝ちパターンを教えてたりして、楽しんで取り組めるよう工夫をし、全員で必死にローリングをかけた。

最終的には鑑定士と僕は、北は北海道、南は九州福岡まで、メジャーな都市で買取店・質屋が多いエリアについてGoogle Mapでマーキングし、全国飛び込み営業行脚した。地方に昔からあるような古い質屋では、入ってそうそうにリアルにペットボトルの水を頭からかけられたり、中学校の部活の鬼顧問かと思うほどの罵声を浴びさせられたり、お友達になれない系のお兄さんが奥から出てきたり、それなりに怖い思いをしたこともあったが、殆どは徐々に再編が進むリユース・買取事業に危機感を持っている店長さんが多く、変革のキッカケを求めており、多くの事業者が集まったのだった。

次回、第16章〜組織の拡大と崩壊
ニュータイプの修羅場が見れるぞ!

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