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魔法少女は父さんに任せなさい!第1話 【創作大賞2024 漫画原作部門】

【あらすじ】


全てのタイミングを逃した専門学生・海田満帆(かいたみつほ)は就職先が見つからなくて困っていた
何となく出したアンケートを元に案内された就職先はまさかの正義の組織
どうも地球外生命体が人類を脅かしているらしい
そして華やかな「魔法少女」を生み出す素質があると思われたのが満帆だった
そんなこんなで最終試験として魔法少女契約を結べと言われたが、現代社会で少女を勧誘するとか不審者極まりないせいで契約が出来てない
そのせいでここもダメになりそうだ
そんな悩みを父さんに打ち開ければ、父さんは胸を叩いて言った
「じゃあ父さんが魔法少女になろう」

【第1話 父さんは味方だぞ】

「進路はクリエイター?ならまぁいいんじゃないかな」

僕、海田満帆は面談でそんなことを担任に吐かれていた。

「別にすぐに決める必要は無いと思うんだよね。
働きながら原稿するのも難しいし、焦らずゆっくりやって行こう」

担任はそう安心させるように言いつつも目を逸らしている、期待していないのは明白だった。
僕はただ、聞き流しながら俯くことしか出来なかった。

専門学校の卒業の年、僕は未だに進路が決まっていなかった。

作家として活躍する父さんに憧れて、そして何より好きだから、創作を仕事にしたかった。そのために専門学校に入学させてもらった。ひたすら漫画の原稿を書いた。何度も投稿したし何度も持ち込んだ、しかしどこの賞にも編集者にも引っかからなかった。

何でも「明る過ぎて設定と展開が単調で幼稚すぎる」のだとか。
無理も無い、僕は子供向けの変身ヒロインアニメが大好きなのだから。
変身ヒロインの衣装デザインやアイテムのデザインをするのが昔から好きだ。
それは可愛いのは勿論だが、夢と希望を抱く前向きな生き物を見るのが好きだ。だから少年漫画や暗い魔法少女モノでは満足出来ないし描きたいものはそれでは無いのだ。

その好きを生かせる職種が今向かってる方向では無いことは分かっている、漫画は負の感情を強く引き出して感情移入させるものが流行りなのだ。綺麗事ばかりはあまり好かれやしない。
でも近い道が他に見つけられなかった。アニメの脚本家だってどうなればいいのか分からないし……。

ともかく、夢を捨てきれず足掻いている間に全てのタイミングと情報を逃していた。
就活の仕方や求人情報を知らないまま、卒業が近付いていた。

外は暗く、ずっと雨が降っている。
最近大雨が多いのも相まって、じめじめした空気が焦りを助長させる。
こんな空気の中でやる進路相談の面談が本当に嫌いだった。

「そうだ、企業からアンケート来てるから気が向いたら書いてポストに出しといて。うちの学校でなんか調査してるらしいから」

そう言ってプリントを担任から渡される。
それを受け取って、面談は終わった。

帰宅してぼんやりとプリントを眺め、埋めていく。
見慣れない会社の名前だが、内容は一般的な職業適性検査のような項目ばかりで頭が痛くなる。どうせただのアンケートなのだからあまり気にしなくていい、わかっているのに。出来ること、出来ないこと、好きなこと、嫌いなこと、が浮き彫りになっていく感じが気持ち悪い。

しかし、埋めていくうちにあまり見ない項目が出てくる。
大きな空欄の自由記入欄だ。

「あなたの好きな物について教えてください」

「あなたの好きな物を好きに書いてください
イラストでもいいです」

アンケートプリントにしてはやけにスペースがあるそれに頭を抱える。
埋める必要は無いのかもしれないが、埋めないと落ち着かない。

「あーもう何でもいいや!」

やけくそにシャーペンを走らせる。
気付けば空欄には変身ヒロインへの思いを書き連ねていた。夢、希望、愛、正義……そんな綺麗事ばかりだからこそ好きなのだと。そういった概念の象徴として好きなのであり、その象徴であれば性別年齢種族全てを超えて良いのだと。柄にも無く、熱弁してしまった。
さらにフリースペースにはオリジナルの魔法少女を描いてしまった。
何かがかえってくる訳でもないし、どう思われたって構わない。
どうにでもなれ、とポストに投函した。

……それでどうなるかが分からないのが人生だ。

「ええ……」

数日後、僕は届いたメールを見て頭を抱えていた。

『先日はアンケートにお答えいただきありがとうございます
アンケートを送らせて頂いた愛支紅流(あいしくる)カンパニーの者です

アンケートの結果、貴方は我が社での適性が高いと判断されました
イラストも拝見させていただきましたが、とても愛らしく素晴らしいものでした
貴方のように希望に溢れた作品を愛している人材が我が社には必要です
貴方の才能が最大限に発揮出来るよう全力でサポートさせて頂きます

よろしければ当社でお話だけでもお願い出来ないでしょうか

お待ちしております』

近所の住所が書かれている、オフィスビルの一角のようだ。
一応社名を調べてみたが「日常保全支援企業」というよく分からない文字列だけがあり、詳細は分からなかった。

詐欺かもしれない……。
そう思いつつも特に最近予定は無いし、何より書いたことを褒められたのが嬉しかった。
絵もそうだが、「希望に溢れた作品を愛している」ことが許容されたのが嬉しかった。
そこ含めて詐欺かもしれないが、僕には行くあてもない。
藁にもすがる思いだ、と話を聞きに行く旨を返事していた。

「……来てしまった」

数日後のこと。
僕はオフィスビルの一室の前で立ち止まっている。
一般的なビルの一般的な扉の横には愛らしいフォントで「愛支紅流カンパニー」と書かれたプレートが差し込まれている。

酷い雨が降っているにも関わらず、どうしても気になって家を飛び出してここまで来てしまった。
会社からは別日に変えてもいいと言われたが、一度後回しにしてしまったら行けなくなる気がして。

行くのを決めたのは自分なのに、変に緊張してしまってドアノブを回すことが出来ない。
やっぱりやめようかな、そう思った時だった。

「もしかしてアンケートに答えて下さった海田さんですか?」

体格が大きいスーツ姿の男性が横に立っていた。
オールバックで目が見えないサングラスをかけたその姿は完全に漫画で見た裏社会の人間の風貌だ。

「自分は愛支紅流カンパニーの者です、社長から海田さんにお話するように言われていたのですが……間違いないでしょうか?」

見た目の厳つさに合わないくらい丁寧な口調でこちらに尋ねる。
僕は恐る恐る「はい……」と小さい声と共に頷いた。
それを見て彼はぱぁっと明るく口角を上げた。

「ようこそ来てくださいました、こちらでお話しましょう!」

彼は扉を開け、僕を手招きする。
僕は足を震わせながらもただそれについて行った。

応接室に通され、入ってみればそこは少し不思議な空間だった。
ピンクの壁にハート型の白いテーブル。
壁際の棚には可愛らしいアクセサリーやステッキが飾られている。まさしく魔法少女が身につけるようなデザイン。
おもちゃ会社なのだろうか……そう思って眺めていれば先程の男性は口を開いた。

「可愛いでしょう?これらはレプリカなので実際には使えないのですが」

そう言って彼は棚に飾られたアイテムを触る。
玩具として、なのだろうが、彼の真面目な話し方は本当に「使える」ことを指してるように錯覚させられる。
……いやそんな訳が無い、魔法少女は空想の存在なのだから。

彼はそんな僕の様子を見て微笑み、片手をひらひらとさせながら話を続ける。

「《使える》アイテムを作り、《使わせる》のが貴方に任せたい仕事です、海田さん。
貴方にはその能力があると我々は見ましたから」

彼がその手をくるりと回せば桃色の光と共にスマホによく似た携帯端末が現れる。
手品、いや、魔法みたいだ。
そんな、まさか。

「……使えるって、どういう意味ですか」

目を丸くしながら恐る恐る尋ねる。
僕の勘違いかもしれない。恥をかく前に聞いてしまった方が早い。
彼はふふ、と微笑んで携帯端末をタップする。
……そこには僕が描いていた魔法少女の姿が映っていた。

「そのままの意味ですよ、悪と戦う魔法少女を生み出すんです」

突拍子も無いことを言うが、彼の目は冗談を言う時の目に見えなかった。
彼はカーテンを開け、窓の外へ見やる。
相変わらず暗い空から大雨と雷が降り注いでいる。

「最近の異常気象は地球外生命体による天候操作が起因しています。ウソみたいな話ですけど、奴らは確かに我々の星を蝕んでいますよ」

そう言って今度はプロジェクターを操作する。
スクリーンには嵐の中で何も無い空間から引き摺り込まれ、消えていく人間の映像が映っていた。
映画のCGだと思い込みたいような、そんな凄惨な映像。

「この通り、奴らは地球のカメラには映りません。
目に見える痕跡は異常気象と多数の行方不明者……これだけだとただの自然災害くらいにしか思われないし、そういう風に扱われてしまうんですよね」

「報道されないのは大衆のパニックを防ぐため……というのはただの言い訳で、超常現象を信じさせるのが面倒臭いだけなんです。
カメラに映らない彼らが存在するエビデンスを用意するのが大変ですし、本格的に対策する費用を捻出するとなると様々なものを説得させないといけないですから」

「魔法少女が必要なのは奴らと戦う存在が必要なのもありますけど……何より一度に注目を集めて脅威を信じさせる存在として華やかであった方がいいんです」

彼は淡々と漫画のような話をし続ける。
それだけ聞けばインチキなオカルティストの発言にも聞こえなくは無いが、先程の端末の現れ方や映像、それが魔法や地球外生命体による脅威は「ある」と示しているように思えて仕方がなかった。

「我々は、愛支紅流カンパニーは所謂《正義の組織》です。
奴らの行動を探り、避難誘導や防犯対策をするべく地道なサポートをしていましたが……奴らの攻撃の激化が予測されます。そろそろ奥の手、魔法少女を使うべきだと思い、それが生み出せる存在を探していました」

それが貴方だ、と言わんばかりに彼は僕を軽く指差す。
突然のことに頭の回転が追いつかない、地球外生命体が攻撃していることも、それに対抗するための力を生み出せるという話も。
仮にそういう存在があったとして、それって妖精的な存在の役目じゃなかろうか……などとアニメの視点で考えてしまう。

「詳しい仕組みや我々の素性は機密になるので入社が決まってからになるのですが……夢見るソウゾウ力が無いと魔法少女は生み出せません」

「……我々はそれが失われてしまった、だから貴方を頼っている」

彼は少し低いトーンでそう言った。
その理由は気になったが、今聞くのはきっと野暮なのだろう。
どうするにせよ具体的な話を聞かないと分からない、僕はそう思って話の続きを促した。

「貴方に任せたいことは魔法少女のプロデュースです。パートナー妖精的な役目だと思ってもらえればいいです。この端末を使って魔法少女のイメージを読み込ませ、資格がありそうな人と契約を結び変身や攻撃に使うアイテムを発現させます」

先程の端末を触りながら彼は言う。本当に見た目はただの携帯端末にしか見えない。

「この端末はイメージを形にする力があります。メカニズムは秘密ですが、これにイメージを登録しておけば資格ある人物の前でアイテムが発現します。
今は仮で以前アンケートに描いて頂いたものを登録していますが、パソコンやスマホを介してこの端末に送って頂ければ新しく登録が可能です」

「魔法少女の資格を持つ条件は《魔法少女、そして未来に希望を抱くこと》です。
それだけ、それさえあれば年齢性別種族は問いません。
一番可能性があるのは小中学生程度の少女だと思いますけどね、同意はちゃんと取ってくださいね」

「今の段階では1人がやることの割合が大きいですけど、人員や出来ることはいずれ増やす予定です。そこに関してはまたおいおい話しましょう」

彼は冊子を2枚、僕に渡す。
片方は契約書のようで長い文がズラズラと並び、もう片方は端末の説明書のようだった。

「自宅でよく目を通しておいて下さい、この場で決めても焦るだけでしょうし」
「そしてあまり時間が無いですし、貴方の時間をあまり取らせるわけにはいきません」

「三日。入社を希望するのであれば、三日間で魔法少女と契約を結んできてください。
出来そうになければ他を探すので、この話はなかったことに」

彼は指で三を示す、日数の短さに僕は思わず声にならない悲鳴を上げた……。

そんなこんなで話が終わり、会社を去ってからというもの。
とりあえず貰った端末にアイデアスケッチを送り、下準備を進めた。
何だかんだで自分のアイデアが必要とされることが今まであまり無かった、だから、それを必要としてくれたこと自体は本当に嬉しかった。

……それがまさか本物を生み出すことに使われそうになるとは思わなかったけどさ。

問題はここからだ。
これに変身する人材を見つけないと話にならない。
お互いの時間を取らせないためとはいえ期間が短い、駄目元で挑戦する、と考えたらまだ気楽な方なのかもしれない。
契約するところまでが向こうの出した指示であり、「最終試験」と言ったところだろうか……。

週末、近所の公園のベンチに座り、辺りをキョロキョロと見渡す。
ここは住宅街が近く、子供が多い。
久しぶりに雨が降ってない日なのもあって、水たまりに構わず楽しそうに遊んでいる。

小学校低学年くらいの少女が滑り台の上で決めポーズを取り、変身ヒロインごっこをしている。あの子とかどうだろうか?
目をキラキラと輝かせ、まさしく未来と魔法少女に希望を抱く主人公のような人材だろう。

そう思って端末を持って立ち上がろうとするが、ふと水たまりに自分の姿が映り、目にとまってしまう。

どう見ても挙動不審な成人男性が一人。

……ダメだ、あまりにも不審者過ぎる!!

顔を真っ赤にし、そそくさと公園から去っていく。
無理だ、怖がらせるようなことはしたくないし通報もされたくなーい!!

僕がマスコット妖精みたいな姿だったらまだ良かったのかもしれないが、説明書曰くは「エネルギーの節約のために魔法少女が返信してる時しかマスコット姿になれない」らしい。つまり今は無理だ。
何故僕はこんな冴えない成人男性なのだろうか、己の性別というか種族というかをこんなに恨んだ日は無いだろう。

そうやって探しに行っては逃げるように帰るを繰り返して、宛を見つけられないまま最終日の夕方になってしまった。

……終わりだ、ここも駄目だったか。

よく分からない会社ではあったが、期待に応えられ無かったことにより罪悪感と悲しさが胸を満たす。
そもそもこれからどうすればいいんだ、また進路が振り出しに戻ってしまった。

今夜は父さんと二人で飲みに行く約束がある。
どうせ進路の話とか聞かれるのだろう。
この将来が決まってない状態を晒してしまうのはとても荷が重い。
父さんみたいな才能を持ってクリエイターとしての道が開けていればこんな風に苦しんでいなかったのだろうか。

……いや、努力が足りないんだろうな。

僕は叱られる覚悟をしつつ、父さんと待ち合わせている居酒屋に向かった。

「これからどうしたいとかあるのか?」

予想通り、父さんは進路の話を切り出してきた。

個室を予約していたのもあり、父さんは周りを気にせずのびのびとした調子で聞く。
健康を気にしているのか、ノンアルコールのビールを注文しながら。
僕には好きなものを飲みなさいとメニューを向ける。僕は半分ヤケクソになりながらカシスオレンジを頼む。甘い酒しか飲めないが、飲まないとやっていけない。

暫く俯いて何も言えずにいた、しかし父さんは特に急かしても来ない。僕が話し始めるのを待つかのように、のんびりと食事を進めている。
頼んだカシスオレンジの残りが半分くらいになった時、ようやく僕はぽつりぽつりと、自分の話をし始めた。

「……父さんみたいに、クリエイターに、なりたかったけど、上手く、いかなくて、それで、タイミングを、見失って」

口に出すと言葉が震えてしまう。
それでも父さんは茶化すことなく耳を傾け続けてくれている。

「やっと、声かけてもらえたと思ったら、上手くチャンスを活かせそうになくて。
ヘンテコで、嘘みたい会社だけど、僕はそこの役に立ちたくて、僕の好きなものを、好きって、言ってくれたから」

「……それってどんな会社なんだ?満帆が好きなものを認めてくれた、ってどんなところなのか、父さん気になるな」

父さんは真剣で、しかし柔らかな眼差しで僕に問いかける。
そんな優しくて、いつも寄り添ってくれる父さんを僕は尊敬している。だから、そんな父さんの血を引いているのに不甲斐ない自分が嫌で仕方がない。

それでも、いつも甘えてしまう。

僕は愛支紅流カンパニーでのことを全て話していた。

「……つまりお前が好きな魔法少女をプロデュース出来るチャンス、ってことか?」

僕の話が終わった時、父さんは目を輝かせてそう聞いた。

「あった、と言った方が正しいよ。
今日が最終日なのにまだ契約出来てないから、この話は無かったことになるだろうし……」

ため息をついて首を振る。
すっかり諦めた態度の僕とは対照的に、父さんは身を乗り出して胸を叩き、笑って言った。

「じゃあ、父さんが魔法少女になろう!」

自信満々なその言葉に反射的に「え?」と返してしまう。

「父さんが、魔法少女に……?」

漫画みたいな台詞を吐いてしまう。
あまりに情報量が多すぎて頭がついて行かない。

「だって年齢性別問わないんだろう?ならきっと行けるさ!
締切前以外なら比較的タイミングも合わせられるし……
それに資格だって、」

ノリノリで話を進めようとする父さんに手を伸ばして制止する。僕は必死に首を振り、声を絞り出した。

「そんな、無茶だよ!夢見る子供を探してって言われてるのに、たくさん大変な思いをした大人ができるわけが無い。
……それに、父さんに迷惑をかけるわけには行かないよ」

「……諦めるよ、今からでもちゃんと働けるところ、頑張って探すから。
だから、心配しないで」 

頑張って笑顔を作る、下手くそな気がする。ただの見栄っ張りなごまかしの笑み。
父さんはそれが分かっているようだった、でも、それ以上は言わなかった。
それからは何事も無かったように当たり障りのない話をして、飲み会は終わった。

店から出ると、強い雨が降っていた。
相変わらず天気がすぐに悪くなるのは、地球外生命体が迫っているからなのだろうか、それが分かったところでどうにもならないが。

気をつけて帰ろう、そんな話をしながら父さんと自宅へ足を進めている時だった。

──突然の轟音。

その方を振り向いてみれば、そこには巨大なクラゲのような生命体が地面を叩き割っていた。
……地球外生命体だ、見たのは初めてだが、それは恐怖をもって瞬時に理解できた。

衝撃で倒れていく建物、激しさを増す雨、落ちる雷、逃げ惑う人々、阿鼻叫喚。

夜の街が、壊されていく。

「満帆!逃げるぞ!」

父さんに手を引かれ必死に走ってその場を離れる。
後ろからは劈くような悲鳴が響いている。
大きな物音が直接目に入らなくてもその惨状を伝えてくる。

逃げるさなか、スマホの通話通知が鳴り響く。
切るほうにも頭が回らず、息を切らしながら出る。

『海田さん、地球外生命体の出現情報が来ました!今すぐ魔法少女と向かえますか?
こちらでも出来ることはやってますが、今回の規模は反撃して退けさせないと難しそうで……!』

……愛支紅流カンパニーだ。
急かすような口調は非常事態だということをこちらに嫌でも伝えてくる。

「現地の方にはいますけど、まだ契約出来てませんし……!」
「今すぐ契約を結べませんか?難しそうならともかく安全を優先して逃げてください!」

通話している瞬間にも襲撃の音が後ろから響く。
「言われなくても分かってますよ!」と言って勢いよく切る。

分かってる、彼らが言ってることが本当ならこの状況を打開できる鍵を持っているのは僕だけなんだ。
今すぐ資格のある子を見つけて魔法少女として戦わせないとこの状況は好転しない。

「でも、こんな時間に子供を街に、それもこんな危険な場所に連れて来れない、連れていきたくない!」

現実から目を背けるように、目を瞑って我武者羅に走る。

「そもそも魔法少女、僕は好きだし、それで役に立てるなら嬉しいけど」

「僕の夢を叶えるというエゴに付き合わせていいのか、わかんない、出来ない!」

僕は弱虫だ、巻き込むのが怖くて仕方がない。
でも、そうやって逃げてばかりいたらもっと多くの人を巻き込むことになる。

それは、少なくとも、僕が望んでる僕じゃない。

「せめて、時間を稼ぐ、へっぽこなりに責任を持ちたい」

走る方向を変える、得体の知れない敵に向かって走っていく。
そしてスマホでアラートを鳴らし、奴を引きつける。

「父さんは先帰ってて!」

そう叫んで雨の中を傘もささずに走っていく。
……これで少しでも時間が稼げたらいいな。
囮になるべく、少しでも街から離れた場所に向かっていく。
逃げ足だけははやいおかげでどうにか引き付けられている、でも流石に息が切れてきた。

僕ももうこれまでか、そう思いかけてた時だった。

「満帆!!」

父さんが追いかけてきた。
……帰ってて、って言ったのに。

「お前は十分、正義の味方の素質があるよ
優し過ぎるけど、それくらいがヒーローにお似合いだ!」

父さんは叫んで僕に手を伸ばす。

「そんな捨て身の息子を放っておけるわけがない、でもお前の勇気を否定もしたくない」

父さんの目は僕を見つめて離さない。

「父さんはお前が夢を叶えるところをみたい!
それが父さんの希望であり夢だ!それが資格にならないか!?」

そして確かに、僕の手を掴んだ。

その手の温かさ、優しい声が、僕に伝える。

時に頼るのが子供だと、全てを自分でやる必要は無いのだと。
覚悟は決まった、僕は端末を取り出し、叫ぶ。

「お願い、父さん!魔法少女になって!」

父さんは待ってたかのように満面の笑みで答えた。

「魔法少女は、父さんに任せなさい!」

端末から光が溢れ、ピンクの石が嵌められた鍵が現れる。
その光に敵は思わず後退りをする、今のうちだ。

「父さん、その鍵をこれに!」

端末を掲げる、それに父さんは現れた鍵を差し込んだ。

辺りが突如可愛らしい空間に書きかわり、父さんの姿がシルエットになる。
そして自分の姿がピンク色の小さなイルカになる。

……これは変身バンクだ!

アニメで見たような光景に興奮するが、今はそれに気を取られている場合では無い。

目の前に光のキーボードが現れ、僕はそれを身体全体で叩いていく。

「L O V E!」

それを打ち込めばピンクのハートが溢れ、父さんの身体を包み込んで桃色の髪を持つ少女のものに作りかえていく。

「H O P E!」

次にそれを打ち込めば、次は白いレースが包み込み、愛らしい魔法少女の姿に変わっていく。

「B R A V E!」

最後にそれを打ち込めば天使の羽根のモチーフがあしらわれたステッキが現れ、父さんの手におさまる。

そうして変身が完了した。僕の望んだ理想の魔法少女が目の前にある。
「うおおおお可愛いぞ!」と嬉しそうに跳ねる父さんを見てなんだか恥ずかしくなってしまった、思わず顔を背けてしまう。

「これなら父さん、無敵な気がするわ!」

父さんは自信満々な笑みでステッキを掲げる。
光が集い、ステッキは長い杖、スタッフに変化する。

「これが私達の、愛と希望だ!!」

それで敵を一突きすれば、平和を壊したその怪物は光の粒となって消えていった。
憧れた希望の変身ヒロインが、そこにはいた。

「これで進路決まったな!」

勝利のハイタッチをすればそれは見知った父さんの姿に戻った。
安心感があるような、少し残念なような、不思議な感覚だ。

勢いでやってしまったけどこれからどうしようか……。そんな悩みが浮かんだが、父さんの笑みを見て考えるのは後にしよう、ととりあえず思うのだった。

第2話

第3話

※こちらは設定の補完のため読まなくても大丈夫です

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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