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人類征伐・最終話 茶番

●③茶番
 「男女間の分断、世代間の分断、イデオロギーの分断、収入階層による分断、民族間の分断、人種の分断などあるゆる分断を促進すれば、人類征伐は我々が思っているよりも早く実現できそうだな」
ゴルデズは執務デスクの地球儀を回していた。
「人類は、むしろ分断することを望んでいるように、喜んで分断に突き進んでいます」
テミンゾ補佐官は軽く頬を緩めていた。
「権利や平等、独立だと言って、もっと煽ってやれ」
「惑星単位ですら、まとまることができない地球人類は征伐されるべき存在です」
「それと犯罪のグローバル化の方は、上手く行っているのか」
「はい。ネットを利用した犯罪を促進させていますし、拠点はボーダーレスになっています。またキャッシュレスなどのIT化を進めているので、一度サーバーやネット網をクラッシュさせれば、何一つ立ち行かなくなりつつあります」
「ところで例のチャットGPTの言いなりになって、人類が何も考えなくなるというのは、上手く行きそうか」
「あのぉ、そちらの方は、回答結果の正確性を疑問視する勢力があるので、まだ上手く行ってません」
「全てが正しいという触れ込みの画期的なチャットGPTでも作る必要があるな」
ゴルデズが言っていると、静かにテミンゾの部下が入室してきた。テミンゾは部下の報告に耳を傾けていた。
「ゴルデズ総司令官、一連の我々の行動はエイリアンの陰謀だという説を動画サイトにアップしている奴を発見したとのことです」
「ん、そんなことか。よくある根も葉もない陰謀説だろう。いちいち報告することか」
「私もそう思うのですが…」
テミンゾは不服そうに部下を見ていた。
「お言葉ですが補佐官、それが…我々しか知り得ない情報を含んでいるようなのです」
「具体的には、なんだ」
テミンゾは少し顔色を変えた。
「性的マイノリティーを主役にしたコンテンツ作りに協力した日本人は、撮影現場にチソニ宣伝参謀が書き残した変な文字が書かれたメモが証拠だとしています」
「あの時、チソニは田中と名乗っていたし、エイリアンとは飛躍し過ぎだ」
テミンゾはあくまでも軽く考えようとしていた。
「その日本人が陰謀動画をアップしたのか」
ゴルデズはテミンゾの部下に直接聞いていた。
「はい。その日本人は佐々木諒太と言います」
「しかし、人類にとって変な文字は読めないから、ただの落書きだとか絵だとか言えば、ごまかせるではないかテミンゾは、少しほっとしていた。
「テミンゾ、それは甘いぞ。チソニは56度銀河製のペンを使っているからメモのインクを分析されたら、地球外の物質があることが判明する。面倒なことになるぞ」
ゴルデズが言うと、テミンゾと部下はそれがあったかという顔をしていた。

一般的なグレータイプのエイリアン2体が、佐々木諒太が住むマンションの一室に忍び込んでいた。エイリアンたちは机の引き出しを開けたり、クローゼットの衣服のポケットに手を突っ込んでいた。
 佐々木が物音に目を覚ます。
「おぉ。お前ら何者だ」
佐々木はベッドサイドにおいてあったスマホを手にして110番通報をしよとしていた。しかしビーム銃で撃たれると動けなくなった。
「それは何だ。何をした、うっ動けない」
体が動かない佐々木の視線の先にはビーム銃があった。
「佐々木諒太、動画の証拠のメモはどこだ」
エイリアンの一人が言った。
「マジかよ。本物のグレーは人間と同じくらい背丈なのか…」
「メモはどこだ」
「出さないと、どうなるんだ」
「UFOに連れ去り、脳を分析して在り処を突き止める。できればそれはしたくない。お前を殺すことになるから」
「そんなことできるのかよ。どうせそれは被りものだろう。背中のチャックが見えるぜ」
佐々木は小バカにしたように言っていた。しかしエイリアンたちは佐々木の言葉に笑っていた。
「仕方ない。ベランダに出ろ」
「えぇっ、ベランダだと」
佐々木はもがくが、エイリアン2体につかまれ、ベランダに引きずり出される。ベランダの前の空間には一瞬にしてホバリングしているUFOが現れた。ベランダの手すりのすぐに横にUFOのハッチがあり、それが開いた。
佐々木は突き飛ばされて、UFOの中に入った。
 眩しい光が煌々と照るUFO内。佐々木はベッドに括り付けられる。
「おい、よせ。わかった。わかったよ。あのメモは、本棚の英和辞典をくり抜いた中にある。本当だ」
「確かめる。嘘だったらどうなるかわかるな」
「ほっ、本当だ」
佐々木の言葉にエイリアンの一人が姿を消し、数分後に戻って来た。
 「なっ、あっただろう」
「ないぞ」
「そんなわけないだろう。赤い英和辞典の中だぞ」
佐々木はあたふたしていた。
「こいつは、使えない」
エイリアン2体は、佐々木を食い入るように見ていた。
「…佐々木の部屋に誰か来た。こいつを戻そう」
エイリアンの一人が言うと、佐々木は意識を失っていた。

 「今、手が離せないので、ピザは玄関前に置いといてください」
エイリアンの一人が佐々木の声色を真似て言う。もう一人のエイリアンは、佐々木の体ををベットに横たえていた。配達員がドアの前にピザを置く微かな音がし、その後立ち去っていく靴音もしていた。
 「こいつは夜明け前には目覚めるだろう」
佐々木の寝ているベッドの脇に立つエイリアンは、玄関口にから戻って来たエイリアンに言う。
「はい。UFOに連れ去られただの、チャックのあるエイリアンを見ただの、支離滅裂なことを言ってくれるでしょう」
戻って来たエイリアンは含み笑いをしていた。
 エイリアンたちは、静かにベランダに出ると、一旦透明化していたUFOが再び姿を現した。ハッチが開くとエイリアンたちは吸い込まれるように浮遊して乗り、UFOは姿を消した。

 「テミンゾ、地球人にとってエイリアンの乗り物は、一般的にアダムスキー型と決めつけているようだが、こんな不格好なものに乗るわけないのにな」
ゴルデズはUFOの丸窓から夜の都内を眺めていた。
「ゴルデズ総司令官、しかし我々のシャトルをこのように擬装することで、エイリアンという意識を強く植え付けることができます」
テミンゾは操縦席に座っていたが、自動なので何もすることはなかった。
「それで、メモの入れ替えは済んでいるよな」
「はい。地球のボールペンで書いたものに取り換えています」
「後は、佐々木がUFO連れ去りなどを証言して笑いものになり、エイリアン陰謀説をアップして、バズろうとした売名行為でバッシングされるのを待つだけだな」
「佐々木が本当のこと言えば言う程、茶番劇になります。人は事実ではないと疑いの目を向けるはずです」
「しかし、しばらく我々は大人しくしているか」
「えっ、ゴルデズ総司令官、それでよろしいのですか」
「ここまでトリガーを引いたから、後は何もしなくても人類は何も疑わず、勝手に滅びに向かってくれるだろう」
「権利や平等といった意識に支配され、根本的な人口減に対する有効な手は打てないわけですか」
「そうだ。地球人類は多様性が大事だと言いつつも、それは表面上のことだけで、ある種の偽善でしかない。奴らには本当の意味での考え方や価値観に多様性はない。進歩的と自負する一部の人間たちが押し付ける、正しいとされる考え方や価値観の流れに対して、立ち止まり抗ったり振り返ることをタブーとしている。これを改めない限り、破滅的な未来を変更することはできないだろう」

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