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ねずみ男の道案内


今日は母の話。

3、4人以上で遊園地に行くと、
絶叫マシーンに乗りたい人、乗りたくない人、
パレードやショーを出来るだけ見たい人、そうでもない人に分かれると思うのだが、
お化け屋敷に行きたい人、絶対行きたくない人、
ここも意見が分かれるところだと思う。

夫はお化け屋敷 好き 派である。
仕事で富士急ハイランドに行ったことがあるのだが、(自由時間に)戦慄迷宮。と名の付いた世界最大級のホラーアトラクションに入れたことがいちばん楽しかったと、帰ってきて、いの一番に興奮気味に報告してきたくらい、好きである。
ちなみに、寂れたショッピングモールや、廃墟となった病院系がたまらなくいいらしい。その点、廃病院が舞台の戦慄迷宮は、設定として理想的だった、と、熱く語っていた。

私は苦手 派。
何でお金払って時間かけてわざわざ怖い思いするのか、意味が分からない。だからホラー映画も今となってはほとんど見ないし、ホラーゲーム(バイオハザードとか)も全く出来ない。あの、音効果でもう無理。
仮にも大阪在住なので、子どもができる前はUSJのハロウィンナイトで、ゾンビから逃げまくってキャアキャア言って楽しんだ(?)こともあったが、それももう10年くらい前の話である。

ディズニーランドのホーンテッドマンションみたいに、乗り物(今はアトラクションと言いますね)に乗って勝手に連れてってくれるならまだいいのだが、お化けの恐怖と闘いながら、ゴールを探して迷路の中を彷徨うとか、避けて通れるものなら経験することなく、穏やかに日常を送りたい。

身近にいる、私と似たタイプの人。
母である。


もうこの年なので、親と遊園地に行くこともまずないが、父はどちらかと言うと、よーしどれだけ怖いか、試してみようと、作り物を楽しむタイプ。おっと驚いてみたり、そう来たかとニコニコしていたり。基本いいお客さんである。
母はと言うと、作り物でも全力で怖がるし、一回一回驚き方が乙女。
私が「うわっ」と怖がるところを、母はサスペンスドラマのようにいちいち「キャーッ」と叫ぶものだから、一緒にいるとお化けよりまずその声に驚く。

自分より怖がっている人がいると、周りの人は怖くなくなってしまって「大丈夫だって」「今のただの風だよ」なんて落ち着かせる側にまわることになる。でも、全く計算せずに純粋に怖がってるので、恋人として一緒にお化け屋敷入るとしたら、母みたいなタイプが可愛いんだろうな、と思うし、例え友だちであっても見ていて何だか楽しい。
ま、本人はそれどころではないのだと思うが。

そんな母が今の私よりも若かった頃。
確か私が小学2、3年生の時。夏休みに家族で、今はなき、宝塚ファミリーランド という遊園地に行ったことがあった。
前日に観た初めての宝塚歌劇団は、演目が少し難しくてお話がよく分からなかったけど(ちなみにトルストイの「戦争と平和」だった。ドレスやショーは華やかで素敵だったが、小学生には分からない訳だ)、遊園地は楽しかった。

その年、と言うか、毎年恒例だったらしい、ファミリーランド 夏休み1番の目玉が、
「ゲゲゲの鬼太郎 大迷路」だった。

ゲゲゲの鬼太郎をテーマにしたお化け屋敷は、ランド内に三つほどあった。確か乗り物に乗ってまわるやつもあったと思う。
余談だけど、乗り物形式のお化け屋敷で、出口直前になって突然
「ありがとうございました」
と声が聞こえ、もう終わりだ!と思って安心し切っていた私はその声にびっくりして思わず泣いてしまった。
あれはずるい。ほんとこわかったー。

怖がりの母だが、私には5つ年下の弟もいるので、お化け屋敷にお母さんだけ入らない!という訳には行かなかったのだろう。大迷路には家族全員で挑んだ。
今の時代の戦慄迷宮とは比べ物にならないとは思うが、大とつくだけあって、結構長かった気がする。迷ってグルグルしたり、時々鬼太郎やネコ娘に出会ったり(鬼太郎たちは仲間ポジションだから、出会ってもそんな怖くなかった、気がする。忘れてしまった)。

ところで、ベストタイミングで人を怖がらせることができるのは、照明や装置よりも、人が演じるお化け(モンスター)が重要だと思うのだが、
あらゆる恐怖演出が計算されつくしている今よりも、むかしはその傾向が強かった気がする。
そしてまたお化けは、どのお客さんが怖がってくれるか、よく見て狙っている。

ターゲットは母だった。

迷路も後半に差し掛かり、家族が二手に分かれて歩いていた頃。ドキドキしながら歩いていた母を、突然、ねずみ男が驚かした。

キャーーーー!!!

パニックになる母。
先を歩いていた父と弟が、何事?と戻ってくる。

見ると、
あまりの母の怖がり方に、びっくりして戸惑っているねずみ男がいた。


さすがに「すいません」とは言わなかった(と思う)が、
しきりに、ある方向を指差して「コッチコッチ」している。
どうやらねずみ男は、父とはぐれて迷いそうな母(と私)に、ゴールが近いことを教えてくれていたらしかった。

しかし半分パニックの母にそれは伝わらない。
ねずみ男は喋れない。
ねずみ男が何か伝えようとすればするほど、焦って逃げようとする母。
ねずみ男は仕方なく、それ以上母が怖がって逃げ出さないよう、片手で自分の顔を隠しながら、もう片方の手で一生懸命、ゴールを教えてくれたのであった。

その後、母と一緒に、お化け屋敷迷路に入った記憶は、ない。



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