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【読む大ナゴヤツアーズ vol.1 前編/フリーライター・大竹敏之さん】名古屋の和菓子はすごい!

大ナゴヤツアーズの最大の魅力は、個性的で愛情あふれるガイドさん。これまでツアーでガイドさんの専門知識に触れる機会はたくさんありましたが、人物像や思いまで深くお伝えできる機会がなかなかありませんでした。

そこで「読む大ナゴヤツアーズ」では、歴史文化やものづくり、建築や農業など、ガイドさん一人ひとりの“その道への愛”をたっぷり語ってもらい、読みものとしてお届けします。それぞれの「好き」を深く知れば、ツアーがもっと楽しくなるはず!

記念すべき第1回には、名古屋の食や文化に詳しいフリーライターの大竹さんが登場! 純喫茶めぐりやはしご酒などさまざまなツアーでガイドを務めている大竹敏之さん。なかでも、「食べ比べやお買い物が楽しい」と評判なのが和菓子名店めぐりツアーです。

そもそも、大竹さんが“和菓子好き”になったきっかけとは? 名古屋の和菓子にはどんな特徴があるの? 和菓子めぐりの楽しみ方とは? そんなお話を聞きながら、2つの和菓子店を一緒に訪ね歩きました。

【今回のガイドさん】

大竹敏之さん/名古屋在住のフリーライター
『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店』『東海の和菓子名店』など名古屋の食や文化に関する著作多数。Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。コンクリート造形師、故・浅野祥雲の日本唯一の研究家を自称し、作品の修復ボランティア活動も主宰する。
このガイドさんのツアーはこちら

【聞き手】

加藤幹泰/大ナゴヤツアーズ代表


大竹さんの“和菓子愛”に迫る!

「母が作る鬼まんじゅうやぜんざいを食べて育ったので、子どもの頃から和菓子が好きでした」と話す大竹さん。鬼まんじゅうといえば、愛知県の郷土料理としておなじみ。和菓子店で見かけるのはもちろん、大竹さんのように家庭でおやつとして食べていたという人も多いのでは。

加藤「ライターとして和菓子店に注目するようになったのは、いつ頃からですか?」

大竹「10年ほど前からですね。昔は、名古屋が和菓子に特化した地域だとは知らなくて。とある店のレセプションで和菓子を研究している人と知り合った際に、『名古屋の和菓子はすごいんですよ!』と熱弁されたんです。その研究者の森崎美穂子さんと一緒に和菓子店の紹介本を制作することになり、取材でいろんな店をまわったらどこもおいしくて驚きました。それから和菓子がもっと好きになりましたね」

『東海の和菓子名店』(2015/ぴあ中部支局)

名古屋が“和菓子処”だと知っている人はどれくらいいるでしょうか? クオリティの高い店がひしめきあい、和菓子の消費量も全国トップクラスなのだとか。

大竹「名古屋で和菓子作りが盛んになった背景には、江戸時代からの茶の湯文化があります。尾張藩の歴代藩主が茶道を好み、庶民の間でもお茶がブームに。それにともない、お茶うけの和菓子がたくさん作られるようになりました。実はこれって、私が以前から取材テーマにしていた“喫茶店”ともルーツがよく似ているんですよ」

名古屋人の“喫茶店好き”にも「茶の湯文化起源説」があるのだそう。

大竹「江戸時代の茶の湯の流行以降も、戦前までは農家に野点(のだて)の道具があり、農作業の合間にお茶を楽しむ習慣が根付いていたといわれています。抹茶とお茶菓子で“いっぷく”する習慣が、現代の喫茶店でコーヒーを飲む習慣へと連綿とつながっているわけです」

庶民派代表! つきたてのお餅と素朴なあんこがおいしい「山田餅本店」へ

さてさて、本日1軒目の「山田餅本店」に到着! 地下鉄桜山駅からほど近く、名古屋市博物館の目の前にある和菓子店です。

大竹「庶民の和菓子といえばここ。和菓子店と一口に言っても、扱っている商品は店によって違います。山田餅さんはおはぎや大福なんかの餅菓子が多く揃っていて、鬼まんじゅうもおいしいですよ」

店内に入ると、さっそく鬼まんじゅうを発見! これは帰りに買っていかなくちゃ。

「いらっしゃいませ。どうぞ奥へ」と出迎えてくれたのは、店主の山田克哉さん。まずは、店舗の裏側にある製造現場を見学させていただくことに。

和菓子を蒸すせいろが並んだ部屋に足を踏み入れると、辺り一面に湯気が広がっています。

加藤「すごい湯気ですね……! 何を蒸しているんですか?」

山田「今は羽二重餅を蒸しているところです。うちでは羽二重餅を作るとき、一度蒸してから炊くんですよ。これは米せいろですが、まんじゅう用のせいろもあって、和菓子の種類によって使い分けています」

そう話しながら山田さんが先へと歩いていくと、姿が見えなくなるほど真っ白!

大竹「これは家庭の蒸し器では出せない威力ですね」

山田「強い火力のボイラーで蒸すと、ベーキングパウダーを使わなくてもふっくらと膨らむんですよ。茶碗蒸しを蒸すには、強すぎて失敗するくらいの火力です」

毎朝、杵でついているというお餅も並んでいました。この丸餅は、山田餅本店では「こまる」という商品名で販売しているそうです。

山田「餅米からじっくり蒸しあげて、つきたてのお餅を提供しています。その日に作ったぶんを店頭に出しているので、いつでもおいしいお餅が食べられますよ。保存料を使っていないから健康にもいいんじゃないかな」

年末年始には鏡餅など正月用の商品が店頭を埋め尽くし、地元の人たちがこぞって買いに訪れるのだとか。

大竹「私も年末にはここでお餅を買って、正月にお雑煮にして食べています。余ったらシンプルに焼き餅にしてもおいしいですね」

山田「年末年始にはだいたい、100俵分のお餅を使っています。1俵が60キロだから、6トンになりますね」

6トン分のお餅とは、想像もつかない量です……!

大竹「今日は『プチおはぎ』も用意してもらっているんですよね」

プチおはぎは、通常の商品より小さい試食用のおはぎ。ツアー参加者のために特別に作ってくれるものです。

山田「通常のおはぎは80 グラムですが、プチおはぎは30〜40グラムくらいのサイズです」

説明しながらも、慣れた手つきで餅米をあんこで包む山田さん。「作っているうちにだんだん大きくなってしまうこともあって……」と、ちょっとサイズオーバーのものも。試食用のプチサイズのはずなのに、販売用とあまり変わらないものが食べられるところにツアーのお得感があります。

加藤「おはぎのあんこは、大福用とは何か違うんですか?」

山田「大福用のあんこは柔らかいですね。おはぎは硬めのあんこを使っています。ちなみに、おはぎに使っている餅米には少し塩を加えているんですよ。餅米に砂糖を混ぜて甘くする方法もあると思いますが、うちでは餅米そのものの味を活かしています」

特別に、できあがったばかりのプチおはぎを試食をさせていただくことに。あんこの程よい甘さが引き立ちつつも、甘すぎずさっぱりしていて何個でも食べられそうな味です!

ツアーでも、こうして普段は入れない製造現場の見学や試食ができるチャンスがあるので、お楽しみに。

店頭でのお買い物も、ずらりと並んだ商品からどれを選ぼうかとワクワクする時間。最近では、若いお客さんも増えているのだそう。

山田「学校帰りに和菓子を買っていく高校生・大学生のお客さんも多いですよ。それに、和菓子はいまブームなんじゃないですか。洋菓子に比べてカロリーが低めでヘルシーなのも理由なのかな」

加藤「あんこブームもありますよね」

雑誌でもあんこ特集が組まれるなど、今、“あんこ王国・名古屋”の和菓子に注目が集まっています。和菓子名店めぐりツアーでも2022年に「あんこ好きだもんで編」を開催しました。

大竹「ツアーでは、なるべく個性の異なる店を組み合わせてコースを作っています。『あんこ銘菓がおいしい店』というテーマの中でも、山田餅さんはおはぎや大福など気軽に食べられる和菓子が充実していますが、尾張藩御用の流れを汲む『美濃忠』さんは『上り羊羹』など贈答用の和菓子が豊富で、味も製法も全く違います。毎回発見があって面白いですよ」

加藤「ツアーでハシゴしてみると、それぞれの和菓子店の良さを体感できますね」

大竹「名古屋では、庶民に親しまれるおやつ菓子から茶席でふるまわれる上生菓子まで、幅広い和菓子と出会えます。しかも、おやつ菓子も上生菓子も、両方作れる技術を持つ店も多いんですよ」

加藤「山田餅さんにも上生菓子がありますね。これって実はすごいことなんですね」

草餅にみたらし団子、あれもこれもおいしそう…… と迷いながら袋いっぱいに和菓子を買いました。帰ってから食べるのが待ち遠しい!

大竹「ツアーでも毎回、たくさん買っていってくれる参加者さんが多いです。店主さんから直接お話を聞くと、つい買いたくなるんでしょうね」

普段、和菓子店の店主さんは製造現場にいることが多いので、店頭でお話しできる機会はなかなかありません。店主さん自らの案内を聞いて、人柄に触れられるのも、楽しみのひとつですね。

大竹「一人では入りづらい店にみんなで入れるのも、ツアーだからこそ。和菓子店って、初めてだと入るのにちょっと勇気がいるときもあると思うので」

この後訪れるお店はまさに、大型店とは違った店構えもあって「入るきっかけがなかった」という人が多い和菓子店かもしれません!

後編へつづく


今後のツアー情報

次回の和菓子名店めぐりツアーは、2023年2月18日(土)開催です。
干菓子の“紅”を入れる作業を見学したり、できたてほかほかの手づくりういろうを試食したり、名古屋ナンバーワンお土産の裏話をこっそり教えてもらったりとツアーならではの特典がいっぱい。それぞれ特徴の異なる銘菓ばかりなので、たっぷりお買い物も楽しんで!

名古屋の和菓子名店めぐり 万年堂・菊屋・坂角総本舗 編
~できたてホカホカういろう試食!名古屋の茶の湯文化に欠かせない干菓子、お土産の大定番えびせんべい~

また今後、他の和菓子店でのツアーも企画していく予定です。さらには和菓子名店めぐり以外にも、名古屋の文化を愛する大竹さんによる魅力的な案内でさまざまなツアーをお届けします! 以下リンクから最新情報をチェックしてみてください。
大竹さんのツアー一覧はこちら


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