短歌企画「みんなでいちごつみ」に参加してみたら


 副題「自分の短歌の詠まれ方の感想とみなさんの短歌を見ての感想を書いたら、短歌の奥深さをまた少し知った件」。



 短歌って、最近ブームらしいですね。ブームかどうかはよく知りませんが、少なくとも俳句や短歌といった和歌に馴染みのない人のほうが未だ多いんじゃないだろかとは思います。大体、古典とか歴史を学ぶにつきものなのは「眠気との闘い」で、つまり退屈なんですよね。地味で面白みがなくて、シンプルにつまらなそう。それが従来のイメージかと思います。

 私自身も例にもれず、国語の教科書や俵万智でしか知らなかった世界を、とっくに学生時代を終えた今になって深く知り始める事になるとはやっぱり思いませんでした。短歌というものを詠み始めたきっかけは、この時からなのですが、全く人生何がきっかけになるかわからないものです。短歌楽しい。



「いちごつみ」とは

 Twitter上で「いちごつみ」という短歌界隈でのあそびがあります。前の短歌から「一語」を選び、その一語を読み込んだ短歌を作るというもので、「いちごつみ(一語摘み)」と呼ぶのですが、このたび私の相互フォロワーである綴さんが主催しその企画に飛び込んでみました。
 以前から、その綴さんともう一人の相互さんである、ふくやまももかさんとが私のタイムライン上で摘み合っている様子を見ていました。そのお二人の素晴らしい摘み合いが、私の日々の楽しみ以上の楽しみになっていた事が全ての始まりです。あんなに素敵でヤバイ短歌を次々詠むんだから、自分も詠んでみたいと軽率に思ったっておかしくはないじゃん?これはフラグですよ。

 「およそ10人くらいの希望者で」というような綴さんのアナウンスを目ざとく見つけ、「あっ、ハーイ!」と手を挙げて参加の運びとなったのですが、持ち前の軽率さとで無謀さを後から思い知り早々に不安を覚えました。だって、主催の綴さんからしてこちらを撃つ短歌を多く詠む方なので………うまくできるんかなあ…………。

 本企画はまず、摘んでもらう自分の1首を各自綴さん宛てに送ります。そして、再度こちらに送られた自分以外の人の短歌から、一語選んで詠んでいくのですが、最終的に私を含めた8人の希望者で詠む事となったので私は全部で7首詠むという事になりました。
 (禁止事項として、「選んだ一語の改変」「選んだ一語以外を詠む」「助詞または助動詞を選ぶ」の3点が予め挙げられています。)



 送られた7首が以下ですが、お名前を目にした方も何人かいて、どれもヤバイ短歌ばかりだったのでカオナシみたいな声しか出ませんでした。
 スラッシュ以下は詠み人のお名前(敬称略)です。


7首一覧


①瞼透く星の光に照らされて夢から覚める(覚めてしまった)/碓氷

②マフラーを編むことシチューを煮込むこと《祈り》は広辞苑にこう載る/独活部

③見送りを上手に済ませばかでかい空港に慰められている /鷹野しずか

④生ぬるい空気が冷えた口紅に触れて独りと思い知る夏/わらびもち

⑤ゴーストの出てた写真の真ん中であなたは伏し目がちに笑って/しま

⑥アウトロが流れて次がもう分かる予感は過去と手を繋いでる/風林

川底はとても静かで眠るのにいい場所ですと蟹が笑った/綴



 今見てもカオナシの声しか出ません。

 この7首から自分が詠んだ短歌を載せていきます。それぞれ「摘んだ(選んだ)一語」、「自分がどう詠んだか」、「元の短歌の感想」、そして「候補(ボツ)」の大体この順に記していきたいと思います。

 

①瞼透く星の光に照らされて夢から覚める(覚めてしまった)/碓氷


「自分には瞼がありませんから」と彼は乾いた瞳で焦がす

 摘んだ一語:「瞼」
 手始めに「透く」で作ってみて、思ったよりうまく詠めなかったのでやめ、次に「瞼」か「夢」かで迷いました。「夢」を摘んだ場合「さようなら 耳に聴こえない音を見て これは夢だとわかってしまって」が候補でしたが、もう少しねちっこい短歌にしてみたいと思い、最終的に「瞼」を摘んでこうなりました。ねちっこいというか、粘着質というか、「そんなに私のことが好きなのね」と目をハートにして見れない1首ができあがった気がします。
 ポルノグラフィティにそんな曲がありましたね、自分で今気づきましたが全くの偶然です。

 碓氷さんのこの1首は正直、どこを摘んでも短歌になりそうに感じていて、ちょっと困りました。念のため言いますが、「困る」に否定的な意味合いは1㎜も入っていません。
 「夢から覚める」で終わってもいいと思うのに「(覚めてしまった)」でシメるところが、より絶望感を際立たせていて好きです。しかもカッコ書きにする事で、本音を隠したか抵抗のようなものも感じます。夢から覚めるきっかけが「瞼透く星の光」という、朝日ではないんだという意外性もまた感じられて好きですね。

 

②マフラーを編むことシチューを煮込むこと《祈り》は広辞苑にこう載る/独活部


「愛を編むことなのね」って微笑んだ 二人の怠惰の果てだというのに

 摘んだ一語:「編むこと」
 どの一語にするかはあまり悩みませんでした。というより、ほぼ即決でした。イメージは天の川とそれに基づく言い伝えです。もうちょっと上手く詠めた気がしないでもないです。

 独活部さんは「《祈り》」を「マフラーを編むこと」「シチューを煮込むこと」にしたわけですが、どちらも作り手からの想いがこもりますよね。「マフラー」は形に残るけれど「シチュー」は消えもの。でもどちらも、あげる瞬間が一番緊張するやつ……そのちょっとの緊張感と「喜んでくれるといいな」というこの気持ち、「広辞苑」で引いてみたら「《祈り》」の解釈だったという展開が、私はとてもいいなと思いました。あくまで私自身の解釈ですが、日常に置かれた短歌という感じで、くすぐってくるんですよね。
 ちなみに私は、煮崩れされず形の残った具が好きです。

 方向性を変えて直接的な短歌も作ってみていました。「折り重なる肌の温度を高め合う 愛を編むこと、積み上げる夜」。あとは「二人きり 手に手を取って歩むのが愛を編むこと。誓いの朝です」。どちらも朝と夜で意味合いが違うなあと、作ってみて気付きました。ボツにしましたが。
 もうひとつの候補には「『愛を編む』二人の怠惰の結末を 好意的に取り彼女は微笑む」がありましたが、なんかちょっともたついたなという印象があってこれもボツにしました。とにかく「編む/編むこと」に決めてたみたいですね。


③見送りを上手に済ませばかでかい空港に慰められている/鷹野しずか


太陽がピカピカ笑顔で空に乗る 上手に生きろって呪いがかかる

 摘んだ一語:「上手に」
 これもふたつ迷いました。ひとつは「ばかでかい」、そしてもうひとつが「見送り」。
 「上手に」を摘もうと決めた時、「上手に生きろ」というフレーズがすぐ浮かびました。そこから「朝って嫌だよな」「だって起きなきゃいけないし」「ていうか私、生きるの下手くそだしもう生きたくないって思ってきたよな」と振り返っちゃってできた1首です。非常に自分自身に近いので、この1首だけだいぶ緊張してしまいました。
 「なに元気に照ってんだ太陽オメェはよ」とメンチ切る日もあるじゃないですか。生きるって何なんでしょうね。

 鷹野さんのこの1首も物語があって、友人か恋人か家族か、何にせよ主体にとって大切な人を空の駅から見送った、その前後の感情の動と静を感じられて好きなんです。実体験ともフィクションとも取れる身近な短歌に思いました。「空港」が擬人化されているのも良くて、共感の呼び方が上手いです。この「空港に慰められている」感覚って、この場所に行って一連の行動を取れば、大なり小なり感じる感覚なんですよね。
 決して元の短歌を引き継いで詠む必要はないんですが、こうも情景や感情を立体的にされると「もうどこ摘んでも一緒や」という気にもさせられてしまうんです。どっこい、そううまくはいかないのが短歌ですね(知った顔で頷く絵文字)。

 「ただ朝になったら起きなきゃいけなくて 上手に上手に生きるって呪い」とリフレインさせてみたものも作っていましたが、禁止事項に反したので候補どころか即ボツです。

④生ぬるい空気が冷えた口紅に触れて独りと思い知る夏/わらびもち


渡された謝罪の言葉を舌先で なめたらやっぱりまた生ぬるい

摘んだ一語:「生ぬるい」
 最初、「独り」と「夏」と「冷えた」でそれぞれ詠んでみていたんですが、どうにもパッとしなくて「生ぬるい」を摘みました。「独り」は作りやすい分似たり寄ったりで、じゃあ温度を感じる「生ぬるい」にしようとそんな経緯だった気がします。謝罪の言葉って、どうせ舌でなめるならちゃんと熱あったほうがいいんだけどな〜口先だけの「ごめんなさい」とか温度に例えたら生ぬるいんだろうな〜みたいな、自分の日常とちょっとだけ照らし合わせちゃった1首になりました。なので私自身は、実はあまり好きじゃないんですこれは(笑)

 わらびもちさんのこの短歌が持つ湿度が好きで、つまりこの31文字の中で救いはたぶんひとつもないんですよね。あるかもしれないけれど。この短歌にならうなら、「口紅」をつけた唇があたたかくなるには、自分以外の気配もないといけないわけで、本来なら色が必ずある「口紅」にも色を感じず、モノクロの空気を感じます。「独り」と口ずさんだかのような情景が浮かびますね。
 スピッツの「桃」という曲をふいに思い出したんですが、「唇」の語が歌詞にあるからかもしれません。桃、好きです。


⑤ゴーストの出てた写真の真ん中であなたは伏し目がちに笑って/しま


引き絞る弓持つ腕が震えてる 真ん中狙え 外せば失恋

 摘んだ一語:「真ん中」
 「ゴースト」を摘もうかなと思ったんですが、実体のある想いにするか死そのものとしてみるか、いろいろ考えてたらどれもうまくなくて、次に印象的だった「真ん中」を摘んでみました。そしたら、ちょっとだいぶチープな作りになってしまいました……なぜこうも上手くいかん……。「真ん中」以外を「失敗」と捉えてるところが、私の価値観の表れになってしまっていて羞恥ですね!ハハッ!

 元の短歌、しまさんのこの1首って一見した時に正真正銘の心霊写真ですよね。どこに「ゴースト」が写ってしまったんだ……と震えかけるんですが、「伏し目がちに笑って」がくる事で、主体の「あなた」への想いを感じられそうになった時、この「ゴースト」は主体の想いの表れなのかもしれないという、ちょっとトリッキーな印象を抱いてしまいました。

 候補には「笑って」を摘んだ、「悟られてしまったらそれが最期なの 笑ってほしいと密かな願い」がありましたが、もしかしたらこっちにすればよかったかなと今更ながら思います。こういうのも味。

⑥アウトロが流れて次がもう分かる予感は過去と手を繋いでる/風林


過去、君は振り返ることをされなくて かわいそうだな。大事にするよ。

 摘んだ一語:「過去」
 「予感」にするか「過去」にするかでわりと悩みました。「アウトロ」はインパクトが強くて扱いが難しい。並べたり声に出して読んでみたりした末に「過去」を擬人化する事に決めました。そうすると、フィクション色よりも私自身の「過去」への見方が表れてしまいました。偶然の産物、これもアリです。
 全く余談なので飛ばしていいんですけど、ここ最近この傾向は以前より弱まっている気配はしています。しているだけで、実際はまだそうじゃないのかもしれないし、「大事にするよ。」と振り返って手を取ってしまうかもしれないですね。大事にする過去としなくていい過去があるじゃないですか。「過去があるから今の自分がある」と認められるには、もう少し時間がかかりそうです。

 「アウトロ」って文字通り終わりだから、たぶん下の句最後に持ってきがちなところを、「アウトロが流れて次がもう分かる」という未来へ向いた語にしたところが、まずびっくりしたポイントです。「アウトロ」「次」「過去」この3つがシームレスに繋がっている印象を受けました。こういう、最初の一語が目に留まる短歌も好きです。
 


⑦川底はとても静かで眠るのにいい場所ですと蟹が笑った/綴


捕食するための小さな掌で 蟹よ私の舌を切ってよ

 摘んだ一語:「蟹」
 恐らく綴さんの事だから(「綴さんの事だから」って何だ)、これはご自身に基づいた何かだと思うんですが、それとは切り離して私自身の「蟹」を摘んでみると、「蟹といえばあのハサミだ」という安直なイメージが浮かんだんですね。タラバガニみたいなでっかくて美味しい蟹でもいいんですが、ここにおける「蟹」は沢蟹のように小さな蟹。彼らにとっては欠かせない掌ですが、挟まったら痛いくらいに力は強くてばかにできないですよね。
 そんなに目立って赤くはなさそうなその体で、そんなに痛そうでもない掌で、でも実際挟んで切られたら間違いなく血と痛みを感じられる掌で、この舌を切ってくれ、切られる理由があるんだ躊躇わずやってくれ、動物は人間の事情など考慮しないだろうひと思いにやってくれ――というような、長々とした背景があります。でも所詮動物だから、意のままにはならないんですよね。舌は切られる事なく、自分で落とし前もつけられず、彷徨う事になります。

 綴さんの短歌はタイムライン上でもよく目にするのですが、そのたび「こういう詠み方にするんだ〜!」という新鮮さを感じて好きなんです。必ず31文字ではなく適度な崩し方も好きで、大体ほとんどが綴さん自身の持て余した感情だったりするので、生々しさも感じてそこも好きなんですね。これは全体として静寂を感じる1首ですが、その一方で、ちょっと怖いですね。意図せず、死への誘いにも感じられます。いえこれは、私の個人的な好みでして……。

 同じ「蟹」で、候補としては「その蟹は朱色の体躯を広げ立つ 殺されなければ生まれない色」がありました。ちなみにこちらはタラバガニです。「殺す」が直接的で面白くないかなあと思い、ボツにしましたが、逆に直接表現がいい場合もあると思います。今回はボツです。



 みなさんの短歌がよすぎてもうここで喉が痛いんですが。


私の短歌がこの7人に摘まれると……


 さて、私の提出した1首はこちらなんですが、

辛いのと ジェットコースターとサスペンス
「好き」に刺激が多い私です


 自己紹介です。以上です。特に意味も解説もないんですよね、実は。
 この自己紹介短歌がどうなるかといいますとですね……。



選んでもいいなら地獄落ちの曲、ジェットコースターロマンスがいい/鷹野しずか


摘んでくれた一語:「ジェットコースター」
 
「選んでもいいなら」という控えめな登場から「地獄落ちの曲」という「えっ、そのギャップ何!?」と聞き返したくなる上の句。「ジェットコースターロマンス」という曲が実際にありそうに思えるくらい(本当に存在する曲だったらごめんなさい)、そして「地獄落ちの曲としてジェットコースターロマンスという曲名、なにこの曲聴いてみたい」とも思わせてくれる、たったの31文字でエキサイティングな印象をつけてくれるのが好きです。摘んだ一語にふさわしい気もしますね。
 クラブでしょうか、人生というジュークボックスの選曲でしょうか、それとも二人のこれからの未来を例えたりしたんでしょうか、本当にいろいろ考えられますね!

 追記(8日21時現在):大変申し訳ございません。「ジェットコースターロマンス」は「ジェットコースター・ロマンス」、Kinki Kidsの曲ですね……。当時しっかり聴いていました。その上、わりと好きな曲でもあったのにこの体たらくですよ。もう何も信じられない。鷹野さん、申し訳ありませんでした!各位に平謝りです。



ジェットコースターに指を立てようぜ我らエチケット袋同盟/綴


摘んでくれた一語:「ジェットコースター」
 
ジェットコースター再び。綴さんの「ジェットコースター」は普通にアトラクションのそれなのかなと思いましたが、「中指」としないところがミソですねえ。というか、わざわざ「中指」にしなくても「指を立てようぜ」でどこの指かわかるっていうのが面白いです。万国ほとんど共通ですよね。下の句の「我らエチケット袋同盟」というやんちゃなフレーズがクスッと笑える、この緩急が上手いなと思いました。
 「我ら」を5人くらいのいつもつるむ楽しい仲間にしてみると、またフレッシュですね。某ネズミランドにある落ちた瞬間に写真撮られて出口で買えるシステムのように、その写真で一枚詠んだ1首にも感じられてしまいます。躍動感と若さとスリルがあって。ジェットコースターには乗らなかったパターンも想像できますよね。


身体ごとしずむ夜には炭酸の刺激と沫を泪に変えて/わらびもち


摘んでくれた一語:「刺激」
 
これはですね、「身体ごとしずむ夜」という、もうどうにもならない夜が誰にでもあるよなと読んだ人に共感を覚えさせるところからもう勝負はついてるんですよね。強すぎず弱すぎないよくある「刺激」、好きな人は好きな「刺激」、「身体ごとしずむ夜」を夜のうちに忘れさせてくれるちょうどいい「刺激」、それが「炭酸」なんだなという、この落とし込みがいいですよね。そう思いませんか?炭酸水なんてセ〇ン〇レ〇ンでいつでも買えるお手頃じゃないですか、高くなって久しいけども。そのお手頃さで払拭したい夜があるんですよ、わかりますか、わかりますねえ〜〜〜。
 もしかしたら「炭酸で割った酒」かもしれないけど、要は「炭酸」という「刺激」である必要がある、この共感性が全てなんですよね。きっと。たぶん。私の1首から、そっと抱きしめたくなるような1首を生んでくれてありがとうございます!


鑑賞会情緒ジェットコースター記憶喪失10秒戻し/風林


摘んでくれた一語:「ジェットコースター」
 
3度目の「ジェットコースター」、いいな君、人気だな。
 この1首に関しては言葉いらないですね!鑑賞会ってこういうものです。もうみんなわかるやつ。でも「鑑賞会」なので、「ちょっ、今のところ10秒戻して!」なんてもしかしたら言えない時もありますよね。あるいは、記憶を失って10秒前の世界線から常に鑑賞会を続けているのかもしれません。とにかくバグってるんです、時間軸が。それだけ「情緒ジェットコースター」、えげつないですよね。ホント。いや〜このあるある、好きしかないですよ。
 それぞれの「ジェットコースター」の詠み方がどれも好きで……こういうの、いいですよねえ。


あんたには泣かされないと言い切ってとびきり辛いラーメン啜る/しま


摘んでくれた一語:「辛い」
 
この短歌の上に浮かぶ、曲のようなリズミカルさや切り取りは一体何でしょうか。私の1首の「辛い」が途端に心を持った感じさえありますよ。ただの「辛い」だったものが、「とびきり辛い」となって、その「とびきり辛い」のは「ラーメン」で、その辛さを受けているのは主体なんですよね。これだけでもう、辛さが鼻を通り抜けて目に痛い感覚。「あんた」が誰なのかを想像するだけでも、一気に奥行きが出ますが、ひょっとしたら「ラーメン」への挑戦状で「あんた」かもしれないですよね。辛さ10の「ラーメン」を制限時間内に食べ切ったら何かもらえるというよりは、「とびきり辛いラーメン」である事に意味があったのかもしれない。深読みでしょうか。
 「あなた」でも「お前」でもなく、「あんた」なのがまた良いですよね。蓮っ葉なような、よく言えば飾り気のないラフさを感じます。意気込む若さを感じます。もう少しドラマチックに読もうとするならば、この1首からは夜や新宿の街並みや失恋の匂いを感じられもしますよね。短歌って自由で深いな〜!


いつまでも実らない好きの2文字は来世で花を咲かすでしょうか/碓氷


摘んでくれた語:「好き」
 
「『好き』」の一語が、こんなにも重みと切実さを含んだものに早変わりするとは、ちょっと思ってなくてですね……。
 「好きの2文字」、これを口にするのにどれだけみなさん、老いも若きも男も女もそれ以外も、苦労した瞬間がどれだけあるんでしょうね。ポルノグラフィティにそんな曲がありましたよね。綴さんによって編集された形だと、選んだ一語がカラーリングされているので目にはカラフルなんですが、この記事中だと当然モノクロじゃないですか。でも不思議な事に、「好き」のこの一語あるいは2文字にだけパッと色がついて見えるんですよね。
 こういう事あるんですよね、言葉の組み立てだけで。


サスペンスドラマの犯人になった気分で断崖絶壁人生/独活部


摘んでくれた語:「サスペンス」
 
おもしろい!おもしろいけど、「サスペンスドラマ」の起承転結加減で人生が進むんだとしたら、そりゃ「断崖絶壁人生」という四字熟語(?)にもなるだろうなあ……。追う側の刑事じゃなくて「犯人になった気分」という、追い詰められ感がすごくいいですね。起死回生は図れるんだろうか、計画を練り直して次は成功するんだろうか、仲間割れはしないだろうか、一人で遂行するんだろうか、ウィークポイントの例えば何も知らない恋人はいるんだろうか……とか、ベタな想像を繰り広げてしまいます。ひと口に「サスペンスドラマ」と言っても、ただハラハラして終わっただけじゃなくて、登場人物に感情移入したり結末にうっかり感動したり、バラエティーに富んでますよね。劇中歌が気に入ってサントラを購入し、歩きながらイヤホンで流して気分は〇〇とかやりましたよね?私ですね。
 「サスペンスドラマ」で「断崖絶壁」が並ぶと、頭の中に船越英一郎が立ってますよ。こういう、一語の連想のしやすさや共通項はおもしろいです。



 この7首、たった一言にまとめるなら……みんな「ジェットコースター」好きだね!!??

 いやもう、本当にありがとうございます!7首すごく嬉しい。はぁ、すごいな。



 綴さんが素敵に編集、鷹野さんがポップにデザインしてくださったおかげで、こうなりました!



  ツイートにもあるように、ツリーを開くと全短歌が読めます。コンビニで手軽にできるネットプリントもございます。


 綴さん曰く、7/15(土)の15時頃までがプリント期限らしいので、手元に紙で欲しい方はお早めに!


総括

 摘み合った7人全員の短歌の好きポイントは1首ずつ挙げればいつものごとくおさまり切らないのですが、最も(私の中で)光り輝くポイントを挙げるとするならば……。

 独活部さんの「マフラーを編むことシチューを煮込むこと《祈り》は広辞苑にこう載る」から綴さんとわらびもちさんが同じ一語の「シチュー」を摘んで、それぞれ「じゃがいも」「メークイン」として、「じゃがいも」は溶けたのに対し「メークイン」は煮崩れせず、前者は「死ぬ時はこうなりたい」と願う主体で、後者は煮崩れしない=溶けない事で「僕」と「君」の関係性を浮き彫りにしたこの対比が非常に面白いと思うんですが、どうでしょうわかりますかね。

 あまりに面白くて、日光にうじゃうじゃいる猿みたいな声が出ちゃったんですが、自分の心を揺さぶる創作物に出会ったらみんなそりゃ猿になるでしょ?


 鷹野さんの「見送りを〜」で詠んだ7人の短歌は全部好きだし、わらびもちさんの「生ぬるい〜」で同じ「口紅」の一語を摘んで恋や強さを表現した4首も好きだし、「触れて」を摘んだ鷹野さんの過ちを感じる1首も、しまさんの「ゴースト」で「写真」を摘んで詠まれたまったくかわいらしい1首も、「伏し目がち」を摘んで「撫でれば平面 つるり」と擬音のリズムとおさまりが何ともくすぐって目を引く1首も、風林さんの「アウトロが〜」で「次」を摘んで詠まれたもどかしさや切なさも、綴さんの「川底は〜」で私と同じ「蟹」を摘んで色とりどりな4首も、早口で今挙げればこれだけは挙げられるけれどつまりそのくらいどれも素敵だったんですよ。ノンブレスだったので誰かお水をください。


 
 うまく言葉にできないのですが、初めて全貌を目にした時の感動と喜びと驚愕と恥じらいとは強烈でした。みなさんすごいです。「短歌ってこう詠めばいいんだなあ」というようなうたもあるし、それゆえ「私ならこう詠むかも!」と思えたりもして、どれも個性的で、交流した事もないくせに「らしさ」を感じもして、……みなさんすごいです。

 企画に参加希望を出した際、ちょうど、と言っていいのかわかりませんが、ちょうど短歌の詠み方がわからなくなっていた頃でした。「どうやって詠んでたっけな」と。「どうやって」のHowが技巧の事ではなく、もっとメンタルの部分でそうだったので、ものすごく苦労してしまいましたね。7首の提出期限は6月末日だったのですが、当時でたしかおよそ2、3週間はあって、「期限が問題じゃなかったんだな」と後々気付きました。
 それでも、試行錯誤の時間は間違いなく楽しかったです。間違いなくしんどくて、間違いなく楽しかった。「しんどいけど楽しい」と思う事って、本当に好きな事なのかもしれないですね。個人的には、もっとラフなスタイルで詠めたらいいなというのが課題です。
 
 短歌の31文字は、狭いようでいて実は自由度が高く、もっと遊べる和歌だと改めて思いました。地味じゃないのだよ。楽しい企画をありがとうございました〜!参加した歌人のみなさんもありがとうございました!できたらまた似た企画でも別の企画でも参加してみたいです。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?