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GWの読書メモ

GWで久しぶりにまとまった時間を読書に充てることができたので、備忘的に感想を書いておく。漫画や歌集も含まれており、コンサルタント然とした「意識高い系」ではないが、ご容赦願いたい。

1.アクティビストの衝撃(菊池正俊、中央経済社)

 ファームの先輩からアクティビストに関する勉強会をしようと誘われ、勧められて購入。「アクティビスト」の定義、その歴史、メインプレイヤー概説、日本における活動の現在地といったアクティビストを取り巻くユニバースから、株主提案の賛否、買収防衛策と株式持ち合い、アクティビストに狙われやすい企業の特徴といったコーポレートガバナンス関連の教科書論的な話まで、みずほ証券のアナリストが幅広く解説している一冊。

 正直なところ、戦略コンサルティングに従事していてアクティビストを意識する機会は乏しい(少なくとも個人的にはそうであるし、観察範囲ではアクティビストに関係するケースは殆ど無い印象)。ただ、何をするにしても「第三者」に留まることの多いコンサルタントとしては、リスクを取って株式を保有し、「企業価値(≒株価)」向上を目指したエンゲージメントを行う彼らには若干憧れるところがある。本書は、そんな想いが一層強くなる一冊であった。特に直近では中計策定支援をしているなかで外向けの「お化粧」と事業体の実態の乖離に気持ち悪さを覚え、「俺は何に貢献しているのだ」ともやもやしていたこともあり、正論を突き付けてガバナンス改革に乗り出す彼らが若干眩しく見えたのだった。(無論、コンサルタントが向き合うべきはクライアントのwillであり、アクティビストが言う「企業価値向上」なる切り口はその一側面に過ぎないのだが。私の青さを赦してほしい)


2.はじめてのジェンダー論(加藤秀一、有斐閣ストゥディア)

 「ジェンダー」は卑近なテーマながら基本的な概念もほとんど知らないなと思って購入し、積読したまま二年以上が経過していた。ジェンダー概念の基本理解から入って、男女を取り巻く(といっても女性視点がメインではあるが)身体的あるいは社会的事象について分析・解説している。著者は明治学院大学の教授。

 ジェンダーにまつわる様々な規範意識を解説していた前半部については、もともと自分が直観的に感じていた/考えていたことに名前がついていく納得感があり、改めて現実のジェンダー関連の事象に対する解像度が上がった感覚があった。また、後半部の男女を取り巻く誤解(神話)・ステレオタイプについて統計データや研究結果からその実態を解き明かしていく箇所では、自分の先入観が論理的に打ち破られていき、一種の爽快感があった。中身については各自読んで理解されたい。

 自分の仕事に無理やり結び付けて語るなら、コンサルティング業界も他の多くの業種と同様、日本ではまだまだ男性メインの業界だといえるように思う。HPで見ている限りではパートナークラスに女性がいない、あるいはいたとしてもパートナー全体の一割にも満たないファームがほとんどである。(戦略ファーム各社のHPをざっと確認すると、パートナー陣における女性割合が最も高いMcKで6/60であった)また、個人的な観察範囲ではマネージャー以上になるにつれて男性割合が高くなる印象である。(大前提として、コンサルティング業界は体力的にハードな業界である(と思われているし、それは一定事実である)ためか、そもそも女性の入社割合はどのファームも小さい傾向にあるが)

 加えて、コンサルティング業界は多くの女性が職場で直面する非合理なhard thingsが表面化しにくく、結果としてそうした状況に対する共感性を育みにくい場であるように思う。この世界の門を叩く女性は、他業界の女性比で肉体的/精神的にそもそも「強い」人が多い印象で、且つファクト&ロジックやクライアントバリューという金科玉条が共有されており、良くも悪くも仕事で価値を出している限りにおいて男女を区別する意識が薄い。

 いささかミクロすぎる視点だが、良質なコンサルティングサービスの提供およびそのベースとなる効果的なチームアップ/コラボレーションのためにも、女性を取り巻く環境について男性の側から理解を深めることやその仕組み化は改めて重要だと感じたし、主に外資ファーム各社がHP上に記載している女性向けページ(ex. McKinsey)もそういった目で見ると興味深い。


3.イシューからはじめよ(安宅和人、英治出版)

 言わずと知れた安宅氏の名著。入社前に一度は読んでいたものの、頭の整理も兼ねて二年目の今読み返してみて、改めて発見の多い一冊だった。

 本書の素晴らしい点は、アウトプットの作成を見据えた記述が非常に多い点であると思う。世にプロソルに関する名著は数多くあるものの、氏のようにイシューアナリシスだけでなく、ストーリーラインの組み立てからビジュアライゼーション、メッセージのクリスタライズの重要性等にまで多くのページを割いている本はあまりない印象だ(特に「絵コンテ」の箇所や「メッセージドリブン」の章などは、入社から一年たって改めて読んでみると唸るような記述が多かった)。2年目のジュニアが言うまでもないことだが、コンサルティングはソリューションの提示と顧客の行動変容がセットで初めて価値が出る。その実現のために必要なイシューアナリシスの基本動作からコンテンツのデリバリーに至るまで、実践的なエッセンスが過不足なく散りばめられていて、噛めば噛むほど味の出る傑作である。これからも何回も読み返したい。


4.水中翼船炎上中(穂村弘、講談社)

 穂村弘の17年ぶり(発売当時)の歌集。これも買って2年以上放置していたのでこの機会に取り掛かることにした。読み始めると1時間程度であっという間に読み切ってしまった。歌集はどう味わうべきなのかいつも悩む。どれも毎回1時間程度で読み終わって、気になったものだけ口ずさんでみたり、メモるだけになってしまったりする。今回はピンときた歌があまり無かったので余計に早く読了した。

 穂村弘の本を読み始めたのは浪人が始まる直前の3月とかだったような気がする。ジュンク堂で文芸コーナーを物色していて、「本当はちがうんだ日記」を手に取り、まるで自分のことが書かれているかのように錯覚し、そこから貪るように読んだ。高校の時の国語の資料集にサバンナの象のうんこの歌と、ブーフーウーのウーの歌(気になる人はググってほしい)が載っていて、何となく前衛的で訳の分からないことを歌にしているやつ、ぐらいの印象だったが、日常をこんなにユーモラスに切り取って言葉にできるのかと感動したのだった。(余談だが、後に彼が塚本邦雄に傾倒していたことを知ったときはその前衛的な作品群に対しても納得感があった。)

 閑話休題。本書の一番のお気に入りは「楽しい一日だったね、と涙ぐむ 人生はまだこれからなのに」。これありますねえ(CV. ベテランち)。今生の別れのようなテンションで「楽しい一日だったね」と話すときの妙な興奮、その状況をメタに見ている自分やそこに覚える気恥ずかしさを彷彿とさせつつ、「人生はまだこれから」という投げやりながらポジティブな飛躍。良歌だなあ。しかも、「楽しい一日だったね、と涙ぐむ」場面は意外と人生の様々な場面で起こりうるため、多くの人に敷衍できる歌ではないだろうか。そうしたインクルーシブな側面も含め、非常に印象に残った一首であった。


5.世界で一番すばらしい俺(工藤吉生、短歌研究社)

 工藤吉生のことは知らなかったものの、穂村弘が帯文を書いていたので読んでみようと思い購入した。「腰を打つ 仰向けで「アア!」「アア!」という 道路のうえで産まれたみたいに」、「久保さんの家がジャンジャカ燃えてたねみんなひとつになった思い出」、「人生をやっていることにはなってるがあまりそういう感じではない」等、全体的にシニカルさとコミカルさが同時に表現された、現代的な歌人だなという印象を受けた。

 これは個人的な感想に過ぎないが、歌のユーモアにクスリとすることはあったものの、穂村弘の歌集に比して感激するほど良い歌を見つけることはできなかった。それは氏の歌の目線が、あまりにも「今、ここ」に寄り添い過ぎていたからのように思われる。帯文で穂村弘は「高度な無力感が表現されている」と書いていたが、たしかに氏の歌では現実の非合理で如何ともしがたい側面が見事に切り取られており、「わかるなあ」とはなる。しかし、そこで感想が終わるのである。こうした作風は個人的には好みなのだが、短歌という非常に紙幅の狭いプラットフォームで日常に接近しすぎると、どうしても味が薄いなと感じてしまうのだ。エッセイで言葉を尽くして説明してみてほしいなあという気持ちになる。個人の嗜好でしかないが、寺山修司や穂村弘の超現実的な世界観が結晶化された短歌にドライブされていた身からすると、「もっと見せてくれ!」という気持ちになってしまう。


6.SPY×FAMILY(遠藤達哉、集英社)

 マンガ好きな後輩におすすめされ、現在までに出ている単行本をすべて読んだ。ネタバレになってしまうので詳細には書かないが、国家機密を扱うスパイ男性と民間(?)の殺し屋女性、超能力を有する孤児(女児)が互いの目的のために偽装家族を結成するという話。

 スパイと殺し屋が登場するものの、ストーリーは基本的にポップなテンションで叙述され、絵柄も可愛らしく、胸がキリキリとなるようなハプニングもなく物語が進んでいく......。ゾルディック家のようなシリアスな家族間のやりとりも特にない(凄腕の殺し屋であるはずの「妻」がいささかポンコツに描かれ過ぎているのも作品のポップな雰囲気に拍車をかけている)。なんだかまた棘のある書き方になってしまったが、英国ロンドンおよびイートン校等をベースにした街の風景、服装、学校文化等の描き方は読んでいて楽しかった。

 ただ、ハンターハンターや幽遊白書、チェンソーマン等、シリアスなストーリーテリングとバトル漫画が好きな自分には合わなかった(かも)。今後の展開に期待したい!




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