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ドラマ化とは原作をことごとくつまらないものにしていく作業

 「セクシー田中さん」の原作者である漫画家の芦原妃名子の訃報がニュースで取り上げられていた。芦原さんはドラマ化にあたって番組制作側に対し、繊細な心理描写で人間の持つ弱さと強さ、そして温かさを伝えたいという想いをドラマでも忠実に再現して欲しいと主張をしていたようだ。しかしその願いが叶わず今回のような事態に発展してしまったようだ。

 著書「映画を早送りで観る人たち」(稲田豊史 光文社新書)より、最近の映画やアニメ、ドラマは説明セリフの多い作品が増えているという。アニメーション映画「この世界の片隅に」などのプロデュース会社・ジェンコの代表取締役・真木太郎氏は、説明セリフの多い作品が増えた理由の一つとして、製作委員会(製作費を出資する企業群)で脚本が回し読みされる際、「わかりにくい」という意見が出ることを挙げた。
 作品は説明しすぎるとしらけてしまう。”わかりやすく”することは”おもしろく”することとイコールではない。

 他にも、「したいとか、したくないの話じゃない」(足立紳 双葉文庫)では脚本家について以下のように書かれている。「脚本を書くことの本当の恐ろしさは改訂作業にある。脚本というのは実は多くの人間との共同作業であり、脚本家が己の作家性を全開にして魂を込めて書いた第一稿を、監督、プロデューサー、俳優、スポンサーたちの意見でことごとくつまらないものにしていく作業なのだ。千回に一回くらい、その作業をへて面白いものになることもあるが、たいていは「分からない」という意見のもとに猿でも理解できるものに直されていくのだ。」

 漫画とドラマでは誰をターゲットにするのかが大きく異なる。漫画はその作品のファンだけに向けた発信をすることができるが、ドラマはテレビで放送するため、主婦、学生、会社員と老若男女問わず、多くの人が観て理解できるものを作る必要がある。そのため、原作者や脚本家の意向通りにドラマ作品を作るのが難しく、誰がみても分かるような、奥行きのないつまらない作品が出来上がる。

 もちろん「したいとか、したくないの話じゃない」は小説なので、事実であるかは分からない。しかし、今回の一件はまさに、分かりやすさを求めた制作側と、漫画を忠実に再現して欲しかった原作側との間で意見が真っ向から対立したことによって起きてしまったのではないか。

参考文献
「映画を早送りで観る人たち」(稲田豊史 光文社新書)
「したいとか、したくないの話じゃない」(足立紳 双葉文庫)
2/8 産経新聞

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