2年B組 春

カシュ。
アルコールランプの火が消える音で我にかえる。
「みさき、大丈夫?」
「あ、うん。ちょっとぼーっとしてた」
少し焦げた匂いが鼻をかすめて頭を振る。

「手を止めぇー!」
大袈裟に黒板を叩く。
松木先生はいつもそうだ。
「わかったな、
 塩化ナトリウムも加熱すると融解して
 液体になる。ここテストに出るからな!」

キーンコーンカーンコーン…
「はい、号令」
話し声や椅子と床の擦れ合う音で
挨拶はほとんどかき消されてしまった。

「最近元気ないよね?どした?」
「そんなことないよ〜!」
そんなことある。
雄貴のことばっかり考えてしまっている。
クシャッと笑う雄貴の顔が頭を過ぎって
少し呼吸が早くなる。
「最近どうなの?雄貴と!」
思わず教科書を握り締めてしまう。
「順調順調っ!今度新しく出来る遊園地に
 行こうって話してるんだよね」
「いいな〜いいな〜!もう1年くらい?」
「5月で1年記念!」
心の中で復唱する。5月で1年。
半年記念に買ったお揃いのストラップが揺れて
「大丈夫」と囁いてくれてる気がした。

「げっ!次の授業に使う参考資料、教室に忘れたー!」
適当に進んでいた会話で休み時間が終わってしまう。
彩夏は教科書とチーズケーキ味のミントタブレットを
私に無理矢理託して走り出してしまった。

長い廊下。前も後ろも私ひとりだ。
水に浮かぶ油みたいに寂しさが
どこにもいってくれない。
歩くたびにシャカシャカと音がする彩夏のタブレット。
私なら絶対に選ばない味だけどな。

食べ物、映画、本、星座、一緒に居た場所、
同じことが嬉しかった。
でもいつからか それは自分の疑心に
打ち勝つための安心材料になっていた。

この心のモヤモヤも融解してしまえばいいのに。

遊園地 / aiko


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