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豊島紀 ⑱藤井聡太六冠達成の日に思う豊島将之と将棋のこれから

(まず)菅井さん叡王戦挑戦者決定おめでとうございます。菅井さんのタイトル戦は王位戦以来と思いますが、当時と菅井さんてルックス変わりましたよね。整形とかじゃなくて。肉体改造とともに顔もぜったい変わった。とにかくあらゆるものの張りつめ方がちがうというか。で、着物の着こなしなども自然とちがってくるのではないかと思われ、どんな着こなしで登場するかとても楽しみです。そして、ああいうわかりやすいファイティングポーズをとる人が現在の将棋界にはぜったい必要だと思うのでいろんなものを爆発させてほしいです。

勝利のあとの菅井さんの「どわー」と崩れた有様を見てたら「どんだけ力入ってたんだ」と感動しましたこういう人少ないからなあ

(次に)藤井聡太さん棋王位獲得おめでとうございます。

さて。

豊島将之を見ていると、「この人は何を目指して将棋をやっているのだろうか」と思うことがある。

「何やってんのかわかんねーよ!」って意味ではない。そうじゃなくて、豊島将之が「将棋に賭けている」ということは、ちょっと見ればわかりますから。賭けるって、真剣師目指してるとか言ってるんじゃなくて。

(でも『真剣師・豊島将之』が、地方の料理屋の座敷とかで、ちょこんと座って指してるとことか想像するとちょっとゾクゾクしますね。物静かで腰の低い真剣師。地回りのヤクザとかが「へっ、たいしたことなさそうなヤツだな」とあからさまに侮ってきて、その通りに序盤中盤押されぎみ(ココは計算ずく)、なのに終盤粘りに粘って形勢逆転、相手を攻めたてて「せんせえもう勘弁してくれえ……」とか言われるの。その間無表情。あーたまらん)

将棋に賭けているのはわかった。ではその「将棋に賭ける」のを「何のために」やっているのだろうかという話です。

豊島さんは「絢爛」って言ってもいいぐらいのプロ棋士人生で、元竜王名人で現在もバリバリのA級で、棋士レーティング3位だが、現在無冠である。豊島さんはこの状況に満足してないと思われる。

何が豊島を満足させるのか。「タイトルを再び獲る」こと?

どうもそういうものではないのでは、という気がするんですよ。初タイトルを取るまではともかく、今は「タイトルを獲るために将棋を指しているのではない」ように思える。単純に「勝ち続けたい」とは思ってそうなので(でもそれも目的ではなさそう)、勝ち続ければタイトルはイヤでも転がり込んでくるからそれを拒否するってことはないだろうが。タイトルについてくる賞金や栄誉にも興味は無い。現世の利益のために将棋をやっているようには見えない。こういう勝負の世界の人にしては「圧倒的に虚栄心がない」ように見える豊島さん。では彼は何を求めているのか?

ということをこのところずっと考えている。そこで出た結論は、

将棋というものがこれからどうなるのかを見ようとしている

のではないかということです。いや、豊島さんにインタビューしたってぜったいこんな答えは返ってこないと思うよ。なのでこれは私の「豊島将之の将棋から見えてくるもの」です。

AIが出てきて明らかに将棋は変質したらしい。変わったことに抗いたくてもその流れに乗らざるをえない、というのが今の将棋界だろうが、豊島さんはご存じのように「AIのほうが強いのでAIと研究します」と即決した。そういう人であるから、AIの性能がどんどん上がり、どうしたって人間との能力の乖離は広がっていき、そんな状況の中で「人と人が対決する将棋」がどうなるのかをじっとひとりで追究してるんじゃないのか豊島さんは。

そして将棋の行く末なんてものが人類に何の意味もなさないことだということも知っている。そこに凄みを感じる。

現世の利益とは無関係に将棋を究めようとしているのは、豊島将之だけではない。藤井聡太がそうである。金のためでも名誉のためでも虚栄心のためでもなく将棋を研究している。でもこの二人は明確に違うところがある。藤井聡太は「将棋に勝つ」ことしか目的はない。将棋の将来も人類にいかなる意味をもたらすのかも、考えたこともないだろう。地球に巨大隕石が落ちて人類が滅びたあと、砂漠のような大地にぽつんと将棋盤がひとつ。なぜか生き残った二人が盤を囲む。「ここまで来てしまった将棋はこれからどうなるのか」と思いながら指す豊島将之と黙って勝ち筋を読み続ける藤井聡太。風がひゅうひゅう吹き抜けていく。


またどうでもいい(いや、よくはない)話。豊島九段ファンの皆さんは、第81期名人戦、渡辺名人と藤井竜王、どっちを応援しますか。私は藤井竜王に勝ってもらいたい。それははっきりした理由があって、藤井聡太が名人になれば、

「来期の順位戦で藤井聡太と当たらなくてすむ」

うちの夫が「なんちゅー志の低さや」と呆れていた。では志の高い夫がなんと言ったかというと、「順位戦なら他の棋士が藤井に黒星つけてくれる可能性がある」。……それ志が高いのかどうか。というか藤井聡太と当たったら勝てないって前提かよ! ええ、私は基本、誰との対局でも「勝てないかもしれない……」から出発する人間です。しかし藤井聡太は藤井聡太と対戦しなくて済むってのはすごいアドバンテージだと思う。

しかしさっき、棋王位を藤井くんが奪取したのを見た夫が、「藤井くんに預けといたらええやん」とか言って、それぐらい大きな態度でいたほうがいいってことか。タブチくんも「オレから三振を取るなんてたいしたピッチャーだぜフッフッフ」とかうそぶいてたしな。

棋王戦お疲れさまでした名人戦の時になってみないとどっちを応援するかはわかりません


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