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豊島紀 ⑭新世界で山崎隆之を考える

とにかく「そこに将棋イベントがあれば行く」ということで行きました『新世界通天閣将棋まつり』@スパワールド

スパワールド。世界の大温泉。ここには多少の縁というか、因縁がある。スパワールドの隣にマルハンとドンキホーテのビルがあるが、以前ここは『フェスティバルゲート(フェスゲ)』という、ビルの中にジェットコースターが走っている複合アミューズメントビルであって、そこが三セクの放漫運営でやがてさびれてテナントがほとんど撤退したあとに、大阪プロレスやアート系ライブスペースや劇団の事務所と稽古場とかが入った。その劇団に関係してたもんでほとんど毎日のようにフェスゲに行ってたんです。

在りし日のフェスゲ。今ドンキがあるとこ

それで事務所で徹夜して朝方ソファーにぶったおれて目がさめたら昼前、隣のスパワールドの露天風呂でおっさんがあったまってるのが見えた。全裸が見えるわけじゃないが。いつもフェスゲの窓から見てるだけの、近くて遠いスパワールド。その後フェスゲはさらにさびれ、劇団は撤退し、ついにフェスゲも取り壊され、大阪に行く時はいつも新今宮に泊まるしジャンジャン町のホルモン道場にも行くが、そのすぐそばにあるスパワールドは心理的にすごく遠いところのような気がして近寄れなかった。私は一生スパワールドに入ることはないと思っていた。

しかし将棋まつりとあればコロッと「行きます行きます」。人の気持ちなんていい加減なもんです。

会場は、スパワールドフロント階の奥にある宴会場。畳敷きの。温泉施設につきものの。客がカラオケやったり、大衆演劇がショーをかけたりする、そういう大広間。ステージ(15センチぐらいの高さ)にかぶりつきのザブトン席と、うしろに椅子席があります。私は常に一ミリでも舞台に近寄りたいからもちろんザブトン席を指定してチケットを取った。事前に「ザブトン」か「椅子」かだけ決まっていて、座る席は当日、受付で抽選で決まる。おー、HKT劇場のビンゴ抽選を思い出すぜ!と思いながら受付に行くと、机に置いてあるプラスチックの番号札(裏返してある)を取って番号の席に座るっていう抽選システムでたいへん手作り感にあふれていてよかった。子供会の抽選みたい。

子供会ではないがウサギの扮装の折田五段(瞑目)と冨田四段

しかし、なぜか「ザブトンでも椅子でもお好きなほうをお取りください。こちらがザブトン席、こちらが椅子席」って言われて「え、ザブトンか椅子か今選ぶのか?」と焦って、間違って椅子席のほうの番号札を取ったことに、会場に入って自分の番号のついた椅子を見て気づいた。なんでこういうことでいちいち浮き足立つのか私は。こういうのは取り換えてもらうべきなのかそれとも、と悩んだが椅子席の最前列ではあったので、ザブトン席で座って足がしびれるよりいいかとそのままにした。ザブトン席は前から5列ぐらいだし、椅子最前列は視線が高くなって前をさえぎるものもない。まあいいよね。

(なんて余裕ぶっているが、これが豊島の出るイベントだったらこうはいかない。「私はザブトンで申し込んでいる!」「ちゃんと椅子席とザブトン席をわかるようにして番号札引かせなかった受付が悪い!」「ザブトン席に替えろ!」とかねじこんで迷惑客になったと思う。豊島が出てなくてよかったです。ねじこむ場合、すごく下手に出て言うとは思いますが引き下がらないという気味の悪さを発揮するだろう)

豊島といえば、記録係の奨励会員くんが「豊島先生に似てる」と出演棋士から言われてた

で、会場を見渡すと、いつもの将棋イベントより男客はいくぶん多い。『王将』のふるさとであり、ジャンジャン町に古くからの将棋道場(そこは地方競馬場の客層とよく似ている)もある新世界という土地柄か。しかしやはり女客は多い。多くの女客はザブトン席でステージに迫ろうとしている。顔をおぼえてしまった人もいる。明治神宮でも名古屋でも会ってるから(さすがに名鉄百貨店一宮店では会ってない)。そしていつものように、女客の皆さんはけっこう顔見知りっぽく楽しく会話しておられて、こっちの孤独がきわだつ。話す相手もないし黙ってKindleで小説読んでたが悠然としてられるような性格じゃないので読んでても目が滑る。しょうがないから私の隣の椅子に座っている、スタッフ章を首からぶらさげてるが将棋連盟の人ではなさそうなおじさん(通天閣観光株式会社の社長さんであった)と、フェスゲがあった時代のこととか、昔の将棋まつりのことなんかをしゃべったりして時を過ごした。

そして『新世界通天閣将棋まつり』がはじまりました。いつもの通り、ちゃんとしたレポートではありません私が印象に残ったことだけしか書いてませんすみません。詳しいレポートはこちらでどうぞ(主催に丸投げ)。

いちおうレポ写真。冨田誠也四段による「ウサギが将棋を指している」絵

温泉の宴会場という場所のせいか「将棋なんちゅーもんはこの程度のもんでっせ楽しかったらええですやん」感にあふれた催しでした。(いい意味で)ゆるくて楽しかった。なんか懐かしい雰囲気。これはひとえに登場棋士の皆さんがかもし出すものから来たと思われた。とくに井上慶太九段ですよ!

小学生男子に手を振る井上さん

すごく大阪っぽい人である。って井上さんは兵庫の人だが。「正月の親戚の集まりではいつも子供に人気の大阪の慶太おじちゃん(母の弟)」て感じが全開。気さくで気軽、面白いし親切。そしてよく見りゃイイ男、こういうおっちゃんが親戚にいたら結婚式も葬式も法事もうまく回る、っつー人材ですよ! ザブトン席の最前列に小学生の男の子が来てたんだけど、「ぼく、どうや?」「おっちゃんのこと知ってるか?」「もーな、この子ニコニコしてるから見てまうねん!」「おい、わかるか?」「わからんわなあ」とか、何かというと声かけてかまってやってるんですよ。

去年の『将棋の日in関西』にも井上さんいたけどもっとコワモテというかビシッとしてたよな。あっちはウメキタでグランフロント、こっちは新世界で温泉の宴会場っていう違いもあるのか、とにかくこの日の慶太先生は「大阪の将棋指し」の魅力全開でした。だから井上さん加古川の人だってば。出身は芦屋だ!

が、今回書きたいのは慶太先生のことではない。山崎隆之氏のことです。

関西将棋会館宛てに棋士へのプレゼントやファンレターが送られてくる。大量に来る人にはその人の専用箱が用意してあって、藤井聡太箱、豊島箱、斎藤慎太郎箱、大橋箱と並んで山崎箱(やまざきはこで変換したら山崎ハコになった。代表曲『呪い』)があり、「なぜか根強い人気が続いてる」といって井上さんが笑いを取っていた。そういやSUNTORYオールスターでもファン投票関西3位だし、人気あるんだ。パンフレットを見ると、なんだか櫻井翔のニセモノみたいな顔で写っていたが、これはいつもの山崎さんの顔ではないです。ヘアメイク過多のように思う。ホンモノの山崎さんはもっと自然な感じに魅力的な人です。ほれこのように。

山崎隆之氏。ワイシャツの下に黒シャツを着用なさっている

その魅力の話なんだけど。山崎さんの魅力ってけっこう複雑ですよね。

豊島を好きになってからこっち、イベントで「棋士のトーク」を聞く機会が激増した。ごく一部の有名棋士(羽生、ひふみん、藤井聡太の3名)以外、棋士トークなんか聞く機会はふつうに生活してたらないですから。地上波で「棋士を見る」貴重な機会に日曜昼の『NHK杯将棋トーナメント』がありますが、あそこに出る棋士見てたらみんな緊張して台本読まされてるみたいなしゃべり方だし、たいがいむっつりしてるし(勝負だからそれはしょうがない)、終局後勝っても負けてもドス黒い顔でぼそぼそ言うばかりで、シロートがあれで棋士の魅力を見つけるのは困難だ(棋士の魅力を見せるための番組ではない)。だからといって佐藤紳哉みたいなことをみんなやってくれという話ではなくてですね……

ただふつうにしゃべってくれればいいんだ。でもふつうにするってのがなかなか難しいものなんですよ……とくにNHKのカメラの前じゃな。

将棋イベントで棋士のトークをいっぱい聞いて、今まで知らなかった棋士の人間的魅力を知った。話がうまい人、面白い人、面白いこと言うつもりはないのに面白い人、面白いこと言ってるつもりでそうでもない人、口下手なのになぜか聞かせる人、頭がいい人、頭がいいことをじゅうぶん意識してる人してない人。なんか感じ悪い人ってのもいる(私が誰か想像して言ってるかとか考えないでくださいねテキトーに言ってるだけですから)。もちろんイベントのトークなんてのは「お仕事」ですから、素のしゃべりではありえないが、やはりそこにはその人の性格が隠そうとしたってにじみ出てくるもんです。……何が言いたいかというと。

そうやって見てきた中で、私がいちばん面白いと思う棋士が山崎隆之なんですよ。

言うことが面白い。笑わせる。SUNTORYオールスターの時に糸谷哲郎とふたりで大盤解説やってる時の、「(サントリーの人に)熱戦を期待しますって言われて、おまかせください!と」や「(糸谷さんをじーっと上目づかいで見ながら)何言ってんのかわかんない」や「羽生先生永瀬先生、お強いですねえ!」には笑った。すげー笑った。面白いなあ山崎さん。

しかし、「面白い」と言われてる棋士はいっぱいいますが、そして山崎さんも面白いと言われてますが、他の面白い棋士とは面白いのが種類がちがうと思う。

いえね、はじめて山崎さんをナマで見た時に、「目が怖い」と思ったんですね。そんなこというと人聞き悪いな。すごーく冷静な、見透かす目とでもいうんでしょうか。SUNTORYの時にいろんな棋士といっしょにいるのを見ていて、この人ひとりだけちょっと他の人とちがうなーと感じた。温度とか。他の人より冷たい? 冷たいっていうとさらに人聞きが悪いな、冷たいというよりは低温というか。ちゃんと座持ちよくしゃべってるし盛り上げるのに受ける雰囲気が低温。印象的な高い声で、何かしゃべれば満場笑いに包まれてるのだが、低温。

で、この新世界通天閣将棋まつりで、トークに解説に対局に大活躍してる山崎さん、……面白いわー、低温なのに。ぼそぼそ何か言うたびに笑いが起きる。これは何なんだろうと考えながら山崎さんを見ていて、イベントが終わるあたりでやっとわかった。

山崎さんは別に面白いことを言おうとしてない。単に、そこにあるものをシニカルに批評してるだけだ。

シニカルな態度って往々にして、人のことを見下したりすることになりがちでやがて感じが悪くなっていくものだが山崎さんはそうではない。自分のこともまとめてシニカルに観察している。SUNTORYの時の「何言ってんのかわかんない」も、「糸谷さんがわかんないこと言う」ことと「さっぱりわかんない自分」をまとめて斬ってるので可笑しかったんだあんなに。その斬り方も「ぽそっ」という力の抜けた斬り方で、べつにかっこいいわけでもないんだが、剣の極意とはそういうものなのではなかろうか(大ゲサ)。

山崎さんの棋風は独特で「誰も指さない手を指す」とよく言われていますがきっと「変わったことをやってやろう」とは思ってなくて、今そこにある将棋をあのシニカルな視線で見て考えていると手筋が「誰もやらない」ようなものにねじくれていくのでは、と考えた。じつにテキトーな考えですが。あと山崎さんて、音楽でいえばバズコックスではないか? ああ誰かわかってくれるだろうか山崎隆之バスコックス説。糸谷さんはパンクロックを好むときいたがバズコックスを知っているかどうか……それ以前にほぼ需要のない考察……。そういえば山崎さんきのう誕生日ですって。おめでとうございます(って書いてるうちに時間がたって誕生日は一昨日になりました。そしてきょうは豊島せんせいの王位リーグ初戦です。長い一日が始まるぜ……)。

というような考えを深めた『新世界通天閣将棋まつり』。たいへん有意義な時間でした。そういえば私はこの将棋まつりの中でやった『阪田三𠮷名人クイズ』に全問正解して(三択式で正解バレバレみたいなクイズなので全問当たってもたいしたことはない)、賞品の【JAやましろティーバッグ】【三月のライオン米・根付駒セット】をいただいたんですが私のいただいた袋の中には【三月のライオン米・根付駒セット】が入ってませんでした……いえ、楽しかったからいいんです。

室田女流二段のトークのビシバシはたき落とす感じがなかなか良かったです

最後にもお楽しみ抽選会があって、「当選された方に豪華景品が配られ」ということで私はスポニチパートナー様より提供の「拡大鏡」(ハズキルーペみたいなやつ)が当たった。とにかくあとからあとから、酒や果物やチョコレートやら豪華景品がでてきて8割がたのお客さんは何かが当たり、それでも抽選にはずれた方には「通天閣カレー」も配られ(これがいちばん欲しかったかもしれない)、来た人全員が何かもらえた(小学生の男の子は最後まで抽選が当たらなかったので慶太九段に「カレー2個持ってき」と最後まで可愛がられていた)という、すばらしい催しでした。また来年もぜひやってくださいお願いします。

元祖・西の王子。今ふと思ったが山崎さんのマスク、でかくない? 顔ちっちゃいのか?

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