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豊島紀 ⑥天使の歌が聞こえる

前夜祭である。

ついに来た、『SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2022前夜祭』atフォレストテラス明治神宮。東京に25年住んでたけど明治神宮行ったことなかったからはじめて鳥居くぐった。なにこの森林……まっくら。

さて、いろんな業界の「ファン参加前夜祭」に参加してきた者として「将棋の前夜祭はいったいどうなのか」を見極める時がきた。……とか冷静ぶってますが「はじめてナマ豊島を見るどうしよう」というんで正気でいられず気がはやって二時間ぐらい前に原宿につきそうになり、いくらなんでも気がはやりすぎだろ!と思い代々木で降りてルノアールかなんかで時間つぶして、さて行くか、と思ったら道に迷って真っ青になりながら走って会場にいったらまだ開場三十分前で、まだじゅうぶん気がはやっていた…………

と思いきや、もうずらーっと並んでる、ファンが! 9割女ファン!

ぬかった..... _| ̄|● 
さいきんはぬるい現場か、あるいは席がガッチリ決まった現場にしか行ってなかったからぬかった。今回のこの前夜祭は「立食パーティー方式」だったではないか。客は会場に放流されるやいなや、会場のステージ前に置かれたロープパーティションの前にはりついて離れないんですよ! センター最前近辺なんか近づけやしねえ。あああ出遅れた。

とはいえ定員百人であって、はりつきファンは二十人ぐらい。とにかくステージに1ミリでも近い位置を取ろうとジワジワ詰めるが、「大きな荷物はこちらに置いてください」って入口で係員が叫んでたのにデカいバッグやらキャリーやら持ち込んでガッチリ要塞築いてて近寄れないんだよ!……とはいえそれは最前センターと二列目ぐらいの話で人だかりの後ろからだってじゅーぶん近いんですけどね。とにかく私は「オタの闘い」に初手から敗れたことを悟った。

それにしても将棋女ファン熱い。さいきんこれほど熱い現場にいなかったのでビンタくらった気分だ。自分がいかにぬるま湯に浸かっていたか思い知らされた。出遅れたとはいえここから先は最善を尽くすのみ。ステージ前下手のなるべく前に近いとこに場所を取った。私、センターよりサイドブロックのほうが好きなんです(負け惜しみと言うな)。下手に行ったのは賭けでありまして、ここに来る棋士は東西合わせて11名。

舞台上で「西の棋士」と「東の棋士」は上下(かみしも)に別れて並ぶはずで、「西が下手」に来るだろうと踏んだのだった。しかし私の賭けはばっちりはずれ、下手には東の面々が来ました……。

でも私は『将棋の日in関西』で見た棋士と、渡辺明と森信雄以外のナマ棋士は知らないから、目の前に初ナマ棋士が来たら興味深く見てしまう。

あ……目の前に羽生善治がいる……。

羽生先生が私のいる位置からいちばん近くていちばんよく見えた。舞台上の下手端。マイクは真ん中にあるから、サントリー食品インターナショナルCEO氏や渋谷区長氏や佐藤将棋連盟会長や棋士が挨拶してる時は客も舞台上もセンターを見る。でも皆さんセンターマイクに注目の中で一人だけ反対方向の羽生さん見てしまった。というのも、羽生さん、なんというのか、

キャラクター化してる

のであった。ずっと「何か企んでるマンガの登場人物みたいな笑み」を浮かべていて、同時にちょっとアゴをあげて中空をひょうひょうと見あげ、立ち姿もなんかペンギンぽく、ほんと「将棋のハブくん」みたいなキャラになってんですよ。絵やゆるキャラじゃなくて生身がキャラ。へええ、あの羽生先生がこういう感じになるのかー。もっとトシとったら加藤一二三みたいになるかもしれない。

……と、ここまでは前説である。

これから豊島(と藤井聡太)の話を書く。

前の『将棋の日in関西』の時と同様、この前夜祭の式次第とか誰が何を言ったとかいうことはまともに書いてない。私が書きたいことしか書いていません。前夜祭のレポートではありません。

たぶん、見るべきものを見逃し、見えないものを見てしまったりしている。たとえば上で羽生先生のキャラ化に感動してるが、その羽生先生が目の前にいる時って、もう壇上に豊島もいるはずなのだ。首を曲げればそこにいるのになんで私は羽生さんを見るのか。それは、「棋士の皆さんの入場です!」って、一人一人入場してきてついに豊島が登場したとたん正視できなくて地べたを見たのだ。

「う、やば、やばい、やばい豊島だ本物だ」

その時は写真撮影しちゃいかん時間なのでこの目で見とかなきゃいけないというのに。私は顔をやっと上げたが、豊島から目をそむけてしばらく羽生さんを見ていた。バカじゃないのか。こんなことをしていてはいけない。首をねじまげて豊島を見る。

み、見えない……

ぼーっとした人型の発光体がそこにある。

こう書いてて自分でもアタマいかれてんじゃないかと思うが、確かにそんなんだったんですよ! 目をバシバシさせて光に目を馴らして凝視してみたら(結果的ににらみつけていたと思う。なんか糸谷さんが不審げな顔でこっちを見ていたような気がするが気のせいだろう)、確かに私の知ってる豊島が光の中からぼんやりと浮かび上がった。

ここから書くことは将棋とは(ほぼ)関係ない話である。

前夜祭も佳境を迎え、サプライズの「抽選に当たった方は棋士とツーショット撮影です!」のコーナーが始まり、豊島将之と藤井聡太が、ステージ横で撮影待ちでスタンバっている時に(パーティー会場内。客がふつうに近寄れる場所)、二人並んで談笑……というとイメージちょっとちがうな、豊島も藤井聡太もあんまりガーガーしゃべるタイプじゃないし。まあとにかく二人で何ごとかしゃべっていた。何をしゃべってるのかは聞こえない。

藤井はにこにこして、豊島は目だけ笑ってる感じで、豊島が何か耳打ちしたら藤井が「あははははは」と笑ったりする。

「……なんだこの二人は」
アタマくらくらしそうになった。将棋の時はあんだけ殺し合いしてるというのに!

そしてこの二人が小声で談笑しているまわりに、ちらちらと光の粒? みたいなものが漂っている。

「……なんだこれは」
ボーゼンと見入ってしまった。……書けば書くほど色ボケでアタマがいかれたババアのうわごととしか思えないが、ここは言葉を尽くして説明してみる。

豊島将之は光っている。

これは「かわいすぎてキラキラ♡」とか「きゅんオーラ♡」とか「九段の威光」とかではなく、物理的にそうなっているという話です。

豊島は、体内に何らかの光源を持っている。

その光源が体を通してぼうっと白く光る。

それ以前に、豊島は最近やたら透明感が増していると思っていた。六段七段ぐらいの頃はまだ男の子の顔をしていて、棋聖を取った頃からいきなり男くさくなり、

将棋世界2018年9月号表紙の豊島新棋聖

その後の数年、とくに竜王名人だった頃の豊島の印象は
「童顔なのに男っぽい、でも男性性はあんまり感じない。なんだこの不思議な人」というもので、

むかし豊島のイメージ、というと私はこの写真↑がまず思い浮かんでいました。

今みたいに前のめりで見ていない、通りすがりの印象です。でも叡王戦の第何局か忘れたけど永瀬が離席してる間に豊島が盤前でプリン食ってたあの食べ方とかすごい男っぽかったじゃないですか! それがいつからか、男っぽさが漂白されたように薄れていって──女っぽいとかナヨナヨという意味ではない──どんどん透明になっている。生物学的におかしいだろう大人の男が、年とともに透明感を増してくって。

(↑「豊島の透明感がいちばんよく出てる」と思う動画。50分近い動画だがいったん見始めるともーダメ。最後まで見ちゃう。最後まで美しく透明であります)

ナマで見た豊島将之は確かに透き通っていた。そしてそれだけではなかった。光っていた。あ、光るんだこの人は……。

そして藤井聡太だ。

私は藤井聡太のことは好きでも嫌いでもなく、ただ「将棋が鬼のように強い人」ですげえなあと思うだけで(豊島と斬り合いをする相手なので敵であるが)、いくら若くて強いからってあそこまで女性ファンに人気あるのが解せなかった。

が。今回の前夜祭でナマの藤井聡太を見たら、

「あー……光ってる」

光ってるんですね。豊島と同じように。

豊島将之、藤井聡太、ふたりともいわゆる美形とか男前とかそういう人ではない。二人とも「一重まぶた」で「黒目が小さく」、そして「黒目が本当に真っ黒で、中に光があまり入らない」という共通点があり(カメラマンはポートレート撮る時、ぜったい瞳に光が入るようにする。それだけでその人がよく見えるから。キラキラ目というやつです)、それだけでもルックス的には相当不利なはずなのに、どうして豊島将之と藤井聡太には吸い寄せられるんですかファンが!(←逆ギレ)

光ってるからでした。

きら……きら…きら………

光っている人を見てしまうとわかる。ふつうの人間ではないのだ。二人ともふつうじゃない。むかしアイドルの現場によく行っていた頃、みんな基本的に可愛いがその中で「人間ではない」ような光を放っている子がいて、舞台の上に集団でいてもあからさまに「ちがう」んですね。スポットライト浴びてない時でも光っている。見た目で勝負するアイドルだから「光っている」ということが人気出ることとして当然の条件だろうと思っていたが、ルックス勝負じゃない将棋の世界で、体内光源で光っている二人を見て悟った。光るってのは、選ばれた人の印みたいなもんなのね……。

どういう基準なのかわかんないが、神様が気まぐれに「コイツに光源を仕込もう」と思って、それで「光る人」が生まれてくる。そしてある時から光りだす。そうなったらその人はもう「人外」。豊島と藤井聡太はそういう人だった。そして光源など持たぬ「ただのヒト」である我々は、灯りに吸い寄せられる虫のように、光ってる「人外」に引き寄せられる。

さっき(12月27日夜)藤井聡太が棋王戦の挑戦者に決定して、そのからみでこういう記事が出た。そうすると「やっぱ藤井くんはとよぴとの対局は特別なんだ」と湧き上がったり、それからここに描いた前夜祭における「豊島と藤井聡太の談笑」が、「尊い……」とうっとりされるとか、一部の将棋ファンには、

「豊島将之と藤井聡太には、余人に理解し得ぬ何らかの紐帯がある幻想」

がある。私はけっこうそれに批判的視線を向けていた。「豊島と藤井かよ。いいけどさー……なんか安易じゃん! 浅いんだよミーハーが考えるカップリングはよ」とか毒づいたりしていた(オマエがいちばんミーハーなくせに何言ってんだって感じですが)。けど反省しました。この二人は特別なんですもん。特別な二人が関わり合ったら「うひゃー……」となりますわ。そりゃ光りの粒も乱れ飛ぶというものです。

あーすごいもん見た。
そしてこの二人は『サイボーグ009』の『天使編』における天使(神がつくった「人間」があまりにおろかで出来が悪いから、天から滅ぼしにやってきた天使。超絶強い)みたいなものなのではないかと思い、

藤井聡太は白い天使で、豊島将之は黒い天使だ……というような妄想の世界にちょっと入ったところでこの話はいったん終わりにする。この調子で書いてたら翌日の『SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦」の本戦およびツーショット写真撮影会の話に行き着けなくなる。あ、でもその前にこれだけは言っておきたいのは、豊島将之と藤井聡太はBL的カップリングとしては成立しないと思います。なぜなら……というのはまた別のエントリーで書きます。

ああ、さきほど(12月28日21時8分)、豊島九段、今年最後の対局(第36期竜王戦2組ランキング戦 対佐々木慎七段)を勝利で終えられました。この対局中、私は怖ろしくて経過を知ることもできず、Twitterも5ちゃんねるも見られず、読書していたけど目がすべって内容が頭に入ってこず(すごく面白そうな本なのに!)、このままじゃいけないとTwitterを開いたら(このままじゃいけないと思ってやることがTwitterってのもどうなのか)
そこでいきなりこれを見た。

とよよ。ふう……豊島さんに菅井さん、よいお年をお迎えください。一月二日にとよよは名鉄百貨店一宮店で弟子の岩佐女流といっしょに指導対局とトークショーやるんですって。……一宮は遠いぜ!

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