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たった一つの岩

「ラジャー」
「…ピ、ピッ、ピピピ…」
「間も無く着陸態勢に入る…」

ドドドドドド

凄まじい音と共に、大気圏を突破した。

さあもう少しで、地上に降りたつ。
とその前に、ひとつ、我々のことをお伝えしておこうか。
我々は宇宙の偵察をしている。
随分と昔に宇宙空間を光速以上で移動できるようになり、
今はこの神秘的な宇宙を探索して、
我々の文明に更なる発見と感動、共栄をもたらすために、
調査をしている。

ある日、今まで観測されてなかった星を見つけたのだが、
その星からどうやら微量な生命エネルギーを感知した。
なので、
私たちは急ぎ足でこちらまでやってきた、というわけだ。

ほら、あっという間に地表が見えてきたぞ。

私たちは地表に降り立った。
凡ゆる計測器をこの星に合わせる。
「なるほど。我々は1500光年以上も移動したのか。しかしこの距離にまさか生命エネルギーを発する星があったとは。全く、我々も未熟な存在である。」

この星の時間に換算して、8年ほどを移動したようだ。

「しかし、なんだここは。」

地表はこの星本来のものとは思えない。何か加工されたような、ツルツルした物質に覆われている。
周囲は濃霧に包まれていた。有毒ガスである。しかし祖星のガスに比べたら呼吸は容易かった。
落雷や雹もひどい。だがその威力は我々の星の10万分の1程度であったので、平然と歩みを進めることができた。

「あちらに光が見える。向かってみるべきだ。」
隊の1人がそう呟くと皆そちらへ向かった。

この星は重力が軽い。かなりのスピードで進むことができた。
ものの数十分も歩くと、その光の正体が明らかになった。そしてその頃には霧も晴れていた。

「見えたぞ。まさか、あれは文明だったのか。」

目の前に巨大な都市が出現した。
故郷の星にある建造物とは全く様式が異なるようだ。
低く平らなものから高いものまであり、何かに沿ったような街並みをしている。
建物はほとんどが円環状や螺旋状をしており、空気抵抗を減らしているのだろうか。
一定の距離には高層のアンテナのようなものが配置されており、その周囲を機械仕掛けの生命体がウロウロしている。

しばらく仲間と面白がっていると、手足のある、か弱そうな生命体がやってきた。

「ようこそ。私たちの星へ。この星へやってきた異星人はあなた方が初めてですよ。」
いくつか分からないが丁寧な印象のある、おそらく男性が、そのように話すと、

「ですので、案内させてください。」
と申し出た。

我々は折角の機会なので提案を受けることにして、その生命体のあとを着いていくことにした。

男性は道をズンズンと進んでゆき、街の景観や仕組みなどについて次々に話しはじめた。
我々の星からすると到底低いレベルの技術力なのだが。

しかしランクD-3の星がまだこの宇宙に存在していたことに感銘を受けた。探検のしがいがある。

ところで、歩いていると、こちらに見向きもしない人たちがいることに気がついた。
我々に対して笑顔で手を振る者もいるが、一方で、頭巾を被って顔すら見せず、跪いているような仕草を見せている人々もいた。

私たちはとても気になり、そのことについて聞いてみた。
「さて、こうした都市は面白いですね。しかし町中にいらっしゃるあの頭巾を被った生物は一体?」
先を歩く男性は振り返り説明を始めた。
「ああ。あいつらですね。元は私たちの敵ですよ。それを、私たちが養ってやってるんです。」
「それはつまり?」
「ええ。ですから、まあ、あまり良くないですが、召使い、のようなものでしょうかねえ。
なので跪いているんですね。あいつらの種族とは昔、争っていたのですが、当時は色々なことがありまして。。」

男性は話を続けた。
「あいつらは本当に酷いことをしてきた。命を踏みにじるような残虐なことをしたんです。なのであのくらい、当然ですよ。」

我々は、酷いことをされたら酷いことをし返すことがこの星の常識なのかと思った。
「一体どのようなことをしてきたのですか?」

それは同種族間での暴力の歴史の話だった。
暴力以外にも、奪い合いや、競争の歴史も教えてくれた。

そうして自慢げに語る男性は、さらに調子良く、話を続けた。
「この都市も実は奴らの作ったものでしてね。当然、我々がいただきました。だって、争いに勝ちましたからね。」

どうやら我々の星の常識とはかなり異なるようだ。

「そういえば、私のお気に入りの場所があるんですよ!ぜひ、そちらもご案内したい。」
そう言われると、我々はいくつかプロペラのついた、ホバー式の20人乗りビーグルに案内され、移動した。

移動中、窓の外を見ていると、地平線が見えてきた。
故郷の太陽を思い出した。

「この星は一体どんな自然環境なのでしょうか?例えば、海や山、森と言ったものがあまり見当たらないのですが。」
すると男性は、少し俯いて、それから作り笑顔を構えて話し始めた。

「私も自然が好きですが、海や森など資料でしか見たことがないのです。かつては地上の海のそばや山の中に住めていたようですが、今は住むことができない。」
「それはどうしてなのですか?」
「かつての止まることのない争いで環境が壊れてしまったんです。それもこれもあいつらが悪いんです。」
「そうですか。じゃあ、あなたたちは止めようとしていたのですね。」
「いえ。当然、戦いましたよ。奪われてしまうじゃないですか。自分たちのためならどんなことでもします。たとえ、自然がなくなろうとも。」

そういうと、遠くを眺めて悲しそうな表情をしていた。その視線の先には、数千m級のガス壁が見えた。

「あれは一体なんですか。」
「地上に残されたゴミが燃え続けているものです。もう数百年は、燃えているらしいですよ。私も一度は地上の自然を見てみたかったのですがね。」

我々の星に来たら、毎日自然に触れ放題なのに、と心の中でつぶやいた。

「地上地上というのは、つまりここは?」
「説明していなかったのですが、ここのあたりは地表から8000m以上なんです。地上には降りられません。地平線に見えるものは、私たちが作り上げた、というか別の種族が作り上げた加工物ですね。」

随分と無駄なことをする者たちだなと感じたが、その気持ちにそっと蓋をした。

この星といい、住まう生命体といい、何やらおかしな性質をしている。
他の惑星ではほとんどみられない未熟さは、やはりランクDである。
男性の話や景色に夢中になっていると、目指していた場所に到着した。

「お待たせしました。こちらが、私のお気に入りの場所です。」

そこには大きな穴が空いていた。
そして、その穴から小さな、と言っても2mほどの、岩のようなものが飛び出しており、丁重に囲われていた。
周囲には一切の生命エネルギーを探知することはなく、ここは隔離されているようだった。
男性曰く、あまりにも貴重なものなので、一部の認められた者しか立ち入ることができないらしい。
同種族間でもそのような線引きがあるのかと、また驚きであったが、
目の前のこの岩のような物体のことも気になる。

「質問ばかりで、申し訳ありません。我々は初めてのことばかりでして。とても興味深く、素晴らしいものばかりなので、つい。」
この星ではへり下りが役に立つ。

「この場所も静かで素晴らしいですね。目の前にある岩のような物体は何と呼ばれているのでしょうか。」

男性は嬉しそうに、満面の笑みで答えた。

「ええ。私の大好きな所なんです。岩ですか?歴史書にはこう記されていますね。”エベレスト”」

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