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家賃0円ハウス|将来に悩む若者のために住まいを無料で届けたい

 こんにちは因島に住む作家の村上大樹です。おとなりの生口島・瀬戸田町で家賃0円ハウスというプロジェクトを開始します。9月29日から改装工事が始まります。

 家賃0円ハウスとは5人ほどが住めるシェアハウスのような場所です。ですが通常のシェアハウスとはまるで違います。この住居には家賃や光熱費が発生しないからです。この場所は20代〜30代中頃までの、将来に不安を抱える若者が1年間住むことができます。1年間、若い人たちに楽しいこと好きなことに集中してもらいたいです。

 昨今の若者をふくめた日本国内の自殺の原因のほとんどは、鬱など精神的な健康の問題です。続いて経済や生活面のお金への不安を多いそうです。わたしはまず若い人たちのお金の不安を軽減して、土にふれたり、やりたいことや楽しいこと(鬱の軽減効果のあるもの、病理を超えた創造的なもの)に集中できる場所に0円ハウスをしたいと強く感じています。

お金ゼロ生活は可能なのでしょうか?

 「生活コストをさげてより暮らしを豊かにする」のが家賃0円ハウスの概念(コンセプト)の一つです。コンセプトを現実にするために、この場所でこれからこんな活動をする予定です。

・自作のソーラーパネルによる発電

・カマド、ピザ窯、薪ストーブなど使った生活

・井戸水を飲む

・コンポストトイレ

 さらには食費もゼロにしましょう。

・畑で野菜をつくる

・お米をつくる

・狩猟した猪肉をさばいて食べる

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 これらふくむ手を使って生活を生み出すの活動は、光熱費と食費はほとんどいらなくして暮らしを豊かにしてくれます。ですが無理はいけません。この中でそれぞれの住人さんができること楽しいことだけを若い人たちにやってほしいです。入居予定の子たちはすでに「自作でソーラーパネルをつくりたい!」「アースオーブンをつくってみたい!」などワイワイ楽しく生活の希望に胸をふくらませています。

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 もちろんオフグリットや自給自足で完璧にまかない切れない費用もあるでしょう。まだオフグリッドの設備は全く整っていない状態ですので、電気ガス水道などの光熱費は当面、わたしが自腹を切って住人さんの替わりに払います。彼らにお金の不安を少なくして楽しく生活してもらいたいです。

底が抜けてしまった社会をサヴァイヴする

 0円ハウスにはリビングルームとギャラリーを併設とします。誰でも遊びに来れるようなスペースにする予定です。9月23日から入居しているマイちゃんは絵を描いたり縫い物で作品をつくっています。彼女は0円ハウスで古本と雑貨屋さんを始める予定です。1年間お金の心配をしなくていい時間を手に入れた0円ハウスのみんなが、ノープレッシャーで自分の作品の感度や技術を高めることに集中してほしいです。気が向いたらここで販売もしてみてもいいでしょう。バイトするより儲かるかもしれません。そうしたらバイトは減らしましょう。

 家賃0円ハウスは社会から完全に切り離された楽園にするつもりはありません。自分が楽しいことで気楽に社会とつながる方法を、いままでとは別のカタチで試す場所です。生を拡張する空間です。若い人たちにこの底が抜けてしまった社会をサヴァイヴする術を発見してほしいと願っています。この場所を若い人たちのセーフティーネットするべく、これからわたしは作家として行動します。

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この時代にとって作家(すべての何かをつくる人たち)とは一体何なのか?

 いま世界中が、衛生上の緊急事態に見舞われています。社会は底が抜けてしまったかのようです。フランスの哲学者ジル・ドゥルーズは緊急事態における芸術と権力の関係についてもっとも問いを深めていった哲学者の1人だと感じています。ドゥルーズが「創造行為とは何か」という講義でドフトエフスキーと黒澤明の映画についてふれた発言があります。初期の黒澤作品はドフトエフスキーの原作で何本か映画を撮っています。この2人の作家の共通点をジル・ドゥルーズは哲学の観点から考えました。

 彼らの作品に登場する人たちは「緊急事態」に見舞われています。それは疫病や天災であったり、貧困、行政構造の腐敗、宗教、気候変動、戦争などあらゆる緊急事態が人間を窮地に追い込みます。登場人物たちは恒常的に様々な緊急事態にとらわれている訳ですが、生死を問うこうした事態にとらわれていると同時に、それよりももっと緊急な問いがあることを感じているのです。ただしそれがどのような問いであるかは知らない。彼らはその問題が何であるかを知らないといけない。黒澤の『生きる』は、おそらく黒澤フィルムのなかでこの方向をもっとも押し進めたもののひとつでしょう。『七人の侍』において、侍たちは窮地に陥った農民たちの村を守ることを引き受けます。彼らもまた、フィルムの最初から最後までひとつの深い問いに悩まされつづけます。この問いが何なのかは、侍のリーダーが村から立ち去るフィルムの最後の最後で語られます。

「勝ったのはあの百姓たちだ、わしたちではない」

 と。領主はもはや侍を必要としてはおらず、農民たちももうじき自分たちだけで身を守ることができるようになる。そんな時代にとって侍とは一体何であるか? という問いを現した言葉です。

 わたしはいまのこの時代にとって作家とは何なのか? と問い続けています。

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 ドゥルーズはフランスの哲学者ミシェル・フーコーの哲学に共振していました。ドゥルーズはフーコーの哲学を一言で表すと「社会はいつも、がんじがらめである」と読み解いていました。フーコーの哲学を引き受けている現存の思想者の1人が、イタリアの哲学者ジョルジュ・アガンベンだと思います。アガンベンは社会が船であるとしたら、緊急事態とは船底が抜けてしまっているのに「船荷をどうするか?」という真の問題から目を逸らすための議論で人々はパニックになると考察するような哲学者です。フーコーは「いや船底は最初から抜けていない。船底は抜けていないにもかかわらず、船荷の心配から『船荷を守るためにわたしたちの自由を宙吊りにしよう』という監獄を意識に誕生させるのが人間だ」と考えたでしょう。

 どちらにせよ社会は最初から、がんじからめです。ですが社会は至る所に水漏れが起こっています。ドゥルーズは社会の至る所にある水漏れに「線」を発見しようとしました。その水が滴る線を辿って逃走することを。逃走線の線は、音楽や絵画の線に宿るとドゥルーズは問いを深めます。バイオリンの弓が弦の線にふれてヴァイブレーションを空気に起こすとき、逃走線は誕生します。絵筆の線がキャンバスの平面に有機体を生むときに逃走線が引かれます。その線を辿ってわたしたちは世界を拡張することができます。

 アガンベンはニセ哲学者(宗教家|統治者)たちが何世紀にもわたって繰り返してきた「わたしたちはどこからやって来たのか?」「わたしたちはこの先どこへ行くのか?」といった問いではなく、単に

 わたしたちはどこにいるのか? 

 という重要な問い立てました。バカンスのために飛行機を使って遠い国へ行くことが果たして良きことなのだろうか。大きなスーパーマーケットに依存するのではなく、近隣の商店でまかなえるものはあるのかと自問すること。

 「自分がどのように回答できようと、自分がどこにいようと、ともかくも言葉によってのみならず自分たちの生によってもわたしたちが回答を試みるべきはこの問いである」

 とアガンベンはわたしたちに語りかけます。

 わたしは畑で土を耕しながら、鉱石を砕いてつくられた岩絵具を湧水でときながら絵を描き、逃走線は手の中にあると実感しています。わたしたちの手によって創造されたものに逃走線は宿ります。手を使った逃走(創造/ヴァイブレーション)は、わたしたちがいる場所で生まれ続けています。

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 ドゥルーズは17世紀に生きたオランダの哲学者スピノザを「哲学者たちの救世主」と呼びました。スピノザは人間の感情の根源は「喜び」と「悲しみ」であると考えました。怒りや憎しみは悲しみが変容した感情であり、愛は喜びから発生するものであると思考したのです。人間の感情は「喜び」と「悲しみ」というシンプルなものに支えられていて、喜びの発生に素直になることが自由だとスピノザは感じました。自由とは権利や決定権の問題ではなく、この生に喜びがあることというのがスピノザの思想です。たとえ社会ががんじがらめでも、ワクワクしていること、楽しい気持ちになれたときに人間は自由なのです。さらには身体が触発され変様(アフェクト)させてくれるものとの出会いや関係が、わたしたちを自由にしてくれるます。自分にとって「いい」とか「わるい」という反動が起こるだけで「善悪」は存在しません。家賃0円ハウスは生が多様に変態(アフェクト)する場所にしたいです。心と体から喜びが生まれる空間に。

 いまの時代にとって作家とは何なのか? この問いに応答するためにわたしは家賃0円ハウスを始動します。本来は作家や芸術家とは作品に没頭することが大きな仕事だと思います。わたしも共同体などをつくろうとせずに、たった一人で作品をつくったほうが効率がいいことも十分に承知しています。ですが何かの良心なのか悪魔の囁きなのか、それとも大地の嘆きなのか、将来に不安を抱える若い人たちに何かをしたいという思いに駆られ続けています。言葉としての答えはまだありません。ですが手や生の中には大きな喜びを感じています。

家賃0円ハウスの入居希望者のこれから

 10月中旬までに3名が入居予定です。入居者の1人は、まわりの友だちや親を納得させるために社会的で結果を出すことだけが目的になって辛くなってしまった。いまは活動や仕事もやめてしまってしばらく家で休んでいるそうです。他には過去に色々なマイリティやトラウマを抱えて苦しい時期があった子もいます。いずれも過去に生きづらさを抱えていましたが、いまは家賃0円ハウスで楽しいことに素直に生きていきたいという思いが伝わってきます。

 9月23日からは改装前の掃除もできていな状態ですが、寝袋でテントをはってのサヴァイバル状態で女性メンバーのマイちゃんが住み始めました。たくましい。彼女が今後ここでどんな変様(アフェクト)を起こすか楽しみです。

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 メンバーには大工仕事にも興味がある子もいます。自作のソーラーパネルや、アースオーブン、養蜂、ヤギや動物を飼って暮らしたいそうです。ちょうど改装中に彼女も住み始めるのでそこで、手伝いながら技術を身につけたいそうです。身につけた技術を物々交換して生きていきたいと言っています。わたしが日当がわりにご飯を奢って、0円ハウスにアースオーブンや自作のソーラーパネルをつくってもらう予定です。そうすれば彼女も好きなことをやって生きていけます。他の子も格闘カウンセリング!? など面白いアイディアを次々と登場しています。今後が本当に楽しみです。

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さらに2名の入居希望者を募集します

 もともと5名の入居希望でしたが、住む時期を先に延ばしたいという子が現れたので10月以降から住みたい人を2名募集します。20〜30歳中盤くらい若者で将来に不安があるという以外にとくに条件はありません。まずはお気軽に下記の電話かメールにご連絡ください。

090ー6735ー5815         chiisaikaisha@gmail.com

 家賃0円ハウスの改装作業は9月29日からスタートします。施工は鳥取を拠点に活動する令和建設にお願いします。

※令和建設を主催する宮原翔太郎くんについては上記のリンクの記事を読んでください。

0yenhousePLAN1のコピー

※上記の画像は令和建設が考案してくれた家賃0円ハウスの改装プランです。個室4部屋、ドミトリールーム、広いリビング、ギャラリーなどが併設された風通しのよい空間になります。

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書籍『家賃0円ハウス〜楽しくデタラメに生きるための哲学』

 家賃0円ハウスの企画書として書いたnoteでの連載を大幅に加筆したものが1冊の本になりました。

 島にきてからの8年間。0円空き家の探し方など、ゼロ円生活を実践するために、わたしが試したデタラメに生きるための哲学を余すところなく書いた怪作です。

ぜひ読んでみてください!


さらに来年2022年からZERO PROJECTというオンラインサロンを本格始動します。

<活動内容>

・村上大樹の新連載「死たくなったときに読む本」をこのオンラインサロン内でのみ(第1回はサロン外でも公開します)読むことができます。今後の村上大樹のWEB連載や日記なども不定期ですがこのオンラインサロンでひっそりと深くやっていく予定です。

・0円ハウスの住人たちと「どうやって生きていく?」会議を月に3回ほどの予定で行います。この会議にサロンメンバーもオンラインで参加することができます。みんなで一緒にこの社会をどうやって気楽に生きていくかを話しましょう。

・0円ハウスの住人による日記がほぼ毎日読むことができます。

・0円ハウスの交流パーティーに参加できます。開催は月1回(変更の場合もあります)予定です。



 

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