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大吉堂読書録・2024年2月

『少年少女のための文学全集があったころ』(松村由利子)
子どもの頃に読んだ児童文学の思い出。
翻訳についての言及が多いのが興味深い。それに伴い児童文学全集に於ける抄訳の意義や魅力についても語られる。
子どもの時に出会った作品は後の人生に大きく関わる。いい出会いがありますように。

『みどりのトンネルの秘密』(アラン・W・エッカート、山田順子・訳)
ボートに乗り暗い緑のトンネルを抜けたら、異世界への入口があった。
ナルニア国への敬意がたっぷりと詰まった冒険ファンタジー。不意に訪れるハードな展開にどきりとさせられつつ、物語にのめり込みます。

『少年名探偵虹北恭助の冒険』(はやみねかおる)
再読。商店街を舞台にした少年探偵によるミステリ。
日常から少し浮遊した謎の設定が素敵。恭助と響子ちゃんの関係性も素敵。お互いに相手に望むものがありつつ、相手を慮る気持ちも大切にする。それは信頼と好意の表れだろう。
初読時よりも楽しめたのは、20年前にはわからなかった面白さに対するフックが増えたからかも。
たくさんの本を読むことで、本を読む面白さの種類の多さに気づく。謂わば読書経験値。それがフックとなり、今までわからなかった面白さに気づく。これが多読の効果であり、再読の楽しみを増すものだろう。

『総特集 角野栄子 水平線の向こう』
「トビラを開けて違う世界へ行けるのが、本なんです。」
何とも贅沢な一冊。角野栄子を様々な人の言葉で、様々な角度から表わす。過去のエッセイや対談も収録されて至れり尽くせり。ページをめくるたびに大きく世界が開かれる。
映画も見に行きました。これまた贅沢の極み。素敵でした。

『シャングリ・ラ』(池上永一)
地球温暖化により炭素税が導入され、森林化した東京にそびえる空中積層都市アトラス。
僕にしては珍しく、他の本と併読しながらひと月以上かけて読みました。
オカルトとバイオレンスで編み上げた破茶滅茶SF活劇。ギャグと悪趣味の紙一重な濃厚な物語に圧死されそうになりながらも読みふける。これはもう面白いと言うしかない。

『まあたらしい一日』(いしいしんじ・文、tupera tupera・絵)
掌編とイラストの幸せな邂逅。
それぞれの作品が隣合わさることによりもたらされるもの。別々なのだけど別々でない。そんな特別な世界が、本の中に収められています。
何度も繰り返し本を開きたくなる。そんな一冊です。

『大人のための児童文学講座』(ひこ・田中)
児童文学作品を「家族」「子ども」を基に読み解く。大人になってから読み返すと見えてくるもの。
時代に沿って提示されるので、社会に於ける(社会が望む)家庭像や子ども像の変遷も見える。
さあ児童文学を読もう。面白さの切り口はたくさんある。

『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』(高島鈴)
生きづらい社会を生きづらいまま生きるには。
多数派の暴力的な思想に抗うためには、多数派の価値観自体を壊すしかない。
全てを理解し受け容れたわけじゃない。でも読むことで救われた何かがある。お守りのような一冊。

『星の大地』(冴木忍)
戦争、科学、災厄、人類の未来。なんと重いものを登場人物たちに背負わせるのか。
ただ運命に唯々諾々と従うのではなく、抗いあがきガムシャラに進む。その先にある展開に納得いかん!となりつつも飲み込まれてしまう。茫然自失。これもあの時代らしさなのかもしれない。

『となりのアブダラくん』(黒川裕子)
転校生はパキスタンから来たイスラム教徒の兄妹。
みんなと違うってどういうこと? 配慮するのは特別扱い? 合わせないのはワガママ? 
お互いガマンするのでなく、きいてみよう、伝えよう。知らないことは怖いこと。だからブラックボックスに手を突っ込もう。

『日向丘中学校カウンセラー室』(まはら三桃)
カウンセラー室でのなんでもないやり取り。謎が解けるわけでもなく、問題が解決するわけでもなく、そもそも何かあるわけでもない? 
でも、そんななんでもないやり取りができる場所や人が必要なのだろう。この本が何かのきっかけになるのかも。

『去年はいい年になるだろう』(山本弘)
24世紀から人類の不幸を取り除くため ロボットがやって来た。主人公は山本弘本人。実在の人物や事件を踏まえて展開する歴史改変SF。
大きな災害を防ぎ、結果として多くの人が幸せになるなら、多少の犠牲は仕方ない? 合理的ではない人間の幸せとは。

『10代のうちに考えておきたいジェンダーの話』(堀内かおる)
男/女だからやらないといけない。女/男だから仕方ないと諦める。そんな窮屈でしんどい社会を変えるには? 
誰かの決めた枠の中で生きなくてもいい。全て同じにすればOKではない。多様性を認め合うとはどういうことか。
さあ考えよう。

『煌夜祭』(多崎礼)
冬至の夜に語り部が集まり、夜通し物語る煌夜祭。
人を食らう魔物、島と島との争い、助けたい人、助けられなかった人。物語と物語が重なり合い、新たな面が見えてくる。
全てが語られた時に見えるもの、伝わる想い。物語に惹き込まれ、物語に魅了されます。
この作品が新たな形で発行されたことを喜びます。

『世々と海くんの図書館デート』(野村美月)
きつねの女の子世々は助けてもらった海くんに一目ぼれ。人間に変身して彼のいる図書館へ。
何とまあ甘々の恋愛ものです。読んでいて恥ずかしいー!となるのですが、キュンキュン楽しめる人も多そう。
しかもふたりとも、しっかりと自分の気持ちを相手に伝えて、相手の気持ちを確認しているのですよ。これは相手のことをきちんと尊重していることに繋がる、実に現代的な恋愛表現ですね。
その上で、相手に伝えられないことがあることにより物語を盛り上げる。素敵です。


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