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大吉堂読書録・2024年3月

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(相沢沙呼)
ミステリ作家と霊媒の組み合わせによる連作ミステリ。
近頃は特殊設定ミステリも当たり前になっているからこそ、成り立つ構成。当たり前の意味が二重になり読者に迫る驚愕と快感。ラストの描写に更にやられる。
まさに全てが伏線のミステリ。面白い。

『ウは宇宙ヤバイのウ!〔新版〕』(宮澤伊織)
巨大隕石直撃人類滅亡から始まるスラップスティックSF活劇。
世界線は混淆し星間諜報員は女子高生となり異星人の艦隊が襲い来る。ドタバタの合間に挟まれるSF的解釈ウンチク。
ガチガチ骨太で柔軟筋肉にして頭脳明晰なSFの懐の広さを知る怪作。

『ひとつ火の粉の雪の中』(秋田禎信)
鬼を斬るものと鬼の血をひく少女の果てのない旅路。
独特のリズムと文体で語られる物語。独特が故に読み解きにくいが、一度その流れに身を委ねると、なんとも言えぬ心地よさと緊張感がある。
運命からの解放からから来るものか、終章の展開や描写が胸に染み入る。

『ルビーの一歩 私たちすべての問題』(ルビー・ブリッジズ、千葉茂樹・訳)
アメリカの白人専門学校に、初めての黒人生徒として入学したルビー。
当時の写真とともに語られること。笑いながら差別行為を行なう普通の人たち。
写真の力は恐ろしい。しかし差別に抗う人たちの姿も写真は伝える。

『ラフェールの末裔 喪神の碑1』(津守時生)
美貌の船長と愉快な乗組員たちのご機嫌なスペースオペラ、てな感じで面白い。
ノリのいい文体にグイグイ引き込まれる。滅びゆく超能力一族とそれを狙う謎の組織。時代を感じさせる部分もあれども、それもまた魅力かな。
頑張れ主人公! と言っておこう。

『怪奇猟奇ミステリー全史』(風間賢二)
欧米から日本に至るミステリーの系譜。
オカルト、エログロ、ゴシック、擬似科学、変態性欲などを切り口に、次々と書名を挙げつつ展開される博覧強記の面白さ。
どれもこれも読みたくなる。広義のミステリを扱うので、エンタメ小説の流れが見て取れます。

『27000冊ガーデン』(大崎梢)
高校の学校図書館を舞台にした連作ミステリ。学校司書と書店員が謎を解く。
「本好きの生徒を守るのと、増やすのが、学校司書の務め」との言葉が表すように、子どもたちへの心配りや学校図書館ならではの役割が胸を打つ。
実在の本が出てくる物語としても面白い。

『バスタブで暮らす』(四季大雅)
「人間はテンションが高すぎる」世界に違和感を持ち、生きるのが苦手なめだか。彼女は上司のパワハラにより心を病み、実家に戻りバスタブで暮らすことにした。
家族を核に世界との付き合い方を模索する。自分の気持ちに寄り添い、自分を表わす道を知る。
このテーマ、この題材(特に後半部)をラノベレーベルで描くのかという驚き。(というのが古い感覚なのかも)ラノベだから楽天的に欲望に満ち溢れたものである、なんてことはない。
これが今のラノベ、いやガガガの読者層の心に届くものなのだろう。
学生主人公ではないが、YAとしても推したい、届けたいと強く感じた作品でした。

『本で床は抜けるのか』(西牟田靖)
本好きにとっては切実で恐ろしい話。
本の置き場をどうするか。分散する、書庫を建てる、電子化する、処分する、寄贈する。様々な事例を挙げて、当事者に話を聞き、蔵書と生活の快適な両立を探る。
本に埋もれて生きていくのか。まさかの怖いオチに戦慄する。

『ドラゴン殺し』(中村うさぎ、山本弘、鳥海永行、小沢章友、荒俣宏)
挿絵含めて(因みにイラストは、米田仁士、安彦良和、西村博之、山田章博、天野喜孝、赤井孝美、という豪華メンバーです。しかもそれぞれカラー口絵付き!)豪華執筆陣によるアンソロジー。
テーマの切り取り方が様々にひと捻りされており、作家の個性が光る。
これはドラゴンの持つ多種多様なイメージの魅力でもあるだろう。これぞテーマアンソロジーの面白さ!

『つながる読書 10代に推したいこの一冊』(小池陽慈・編)
読むことに関わる10人による本のプレゼン。
本の内容だけでなく、読むこと書くこと考えること学ぶこと、そして生きることが浮き出てくる。
そのプレゼンを別の人が語ることで現れるもの。本は人とつながり本とつながり世界とつながる。

『ビブリオバトルへ、ようこそ!』(濱野京子)
小学校の図書委員会でビブリオバトルに挑戦する。
委員会メンバーの、本やビブリオバトルへの距離感や想いは様々で、だからこそ本の面白さが多種多様だと知らされる。
出てくる本どれも読みたくなり、本に興味を持ち始めた子に勧めたくなる一冊。

『踊るジョーカー 名探偵音野順の事件簿』(北山猛邦)
気弱で人見知りで消極的でネガティブな探偵と、彼を名探偵に仕立てようとする推理作家。この組み合わせに心踊る。
真相はわかりやすいが、それはミステリ的構造が美しいから。推理の筋道が整った本格ミステリ。何もかも好みでした。

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