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大吉堂読書録・2023年12月

『私が鳥のときは』(平戸萌)
中三の夏、蒼子の母が連れてきたのは余命僅かのバナミさんだった。
あの夏を鮮やかに切り取った物語。だからその外側のものが不意に垣間見えた時に、どきりとさせられる。
少女が少女であらんとする正にど真ん中の少女小説。

『ビブリオバトルガイドブック ルール改訂版』(ビブリオバトル普及委員会
以前ビブリオバトルに対して誤ったイメージを持っていました。公式のルールや意図するものから外れたものを見たせいです。
なので公式ガイドブックでルールや実践例を知れるのはありがたい。興味が高まります。

『悪役令嬢の矜持1』(メアリー=ドゥ)
物語序盤でクライマックス的ネタの開示が為され、種明かしと後日談で展開するのに驚く。なるほど本当に書きたかったのは、こちらの展開なのねとほくそ笑む。
望みを叶えるために敢えて我が身を捨てて悪役となった少女の物語。タイトルの意味が胸に響く。

『恐竜がくれた夏休み』(はやみねかおる)
子どもたちが見た同じ夢。そこに出てくる恐竜が本当に森の中にいた。子どもたちは、タイムスリップして来た恐竜を元の時代に戻そうとする。
登場人物たちの想いの流れが自然だから「不思議」をそんなこともあるさと受け止められる。それが物語の面白さ。

『はじめてのフェミニズム』(デボラ・キャメロン、向井和美・訳)
いやあ面白い。フェミニズムとは何かを英米の歴史を元に解説。
フェミニズムは一枚岩ではなく多面的構造をしている。切り口により目指すものも意図することも変わる。オシャレひとつでも、束縛なのか自由なのか意見は分かれる。
平等であるためには全員を同じ扱いにすればいいのか。同じでないから生まれる平等性もある。何より女性が性の自律的な主体であり、決して誰かの快楽や利益のために利用される対象ではないのが大切。
そこにセクシャルマイノリティ、社会的地位、貧困、人種問題なども絡め展開する論法に感銘を受けた。

『エスケヱプ・スピヰド』(九岡望)
戦闘兵器の少年と少女の出逢い。感情を欠落する少年が少女と過ごす日々を経て、戦う意味を得て強敵と対峙する。
こんなラノベが読みたい!という好みのど真ん中、王道のボーイミーツガール活劇。少し堅めの文章と設定、だからこそ幸せとは何かが強調される。

『中学生からの哲学「超」入門』(竹田青嗣)
中学生からのなのに難解で大変でした。おそらくこの分野の読書量が足りず、頭ん中が耕せてないのですね。だから今はどんどん読むのみです。
それでも哲学を宗教や経済を絡ませて多方面から語られていたので、興味は刺激されました。面白い感覚です。

『博物館の少女 騒がしい幽霊』(富安陽子)
明治初め、博物館の怪異研究所で働くこととなった少女の物語第2弾。
怪異現象と謎解きのバランスよく、どちらも腑に落ちる解決に至る展開。実在の人物を交えて、前作以上に生き生きと動き回る主人公イカルが魅力的。
児童書らしさと、その枠を越す魅力に引き込まれる。

『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)
上手に生きることができなくて、生きるための理由や支えが必要で。でもその支えが不意になくなってしまったら。その戸惑いがずしりと重くのしかかる。
推しのアイドルを解釈することに全てを捧げる女子高生。支えをなくした体は重い。きっとこの先に支えはあると信じたい。

『虹いろ図書館 半分司書のぼくと友だち』(櫻井とりお)
前シリーズが子ども視点でイヌガミさんも達観した感じでしたが、この初々しい様子もいいです。
そりゃ悩むし羨むし恋もする。でも後の姿の片鱗も見えます。
図書館と子ども(と親)の関係が描かれるのも素敵。

『移民の子どもの隣に座る』(玉置太郎)
大阪ミナミ島之内にある移民ルーツの子どもたちの支援教室。そこでボランティアを続けた著者の見たもの。
これもまた大阪の顔のひとつ。子どもの隣に座ることの意義と意味。支援する側とされる側ではない関係。マイノリティとマジョリティは正反対のものなのか。読み応えがありました。

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