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読書感想文4 「ドーパミン中毒」

今回取り上げる本は、アンナ・レンブケ著「ドーパミン中毒」(新潮新書)である。

リンク先画像の帯にも書かれている通り、「快感に殺される!」本である。

今そこにある危機

この本の著者アンナ・レンブケ氏はスタンフォード大学医学部教授で、精神科医である。そして、この本では氏が治療に携わった依存症患者のケースが詳細に語られている。しかし、氏がこの本で伝えたいことは、時に死に至ることもある依存症の恐ろしさ、ではない。

この手の本は、症例の紹介や回復過程(もしくは回復しなかった結末)についての記述になってしまいがちだし、そういう本も確かにあると思う。が、この『ドーパミン中毒』が伝えようとしているのはそのような、ある意味当事者意識に欠けたというか、どこか遠いところで起こる名も知らぬ誰かの闘病記録などではない。

そうではなくて、むしろ「今そこにある危機」を抉り出そうとしている。有り余るほどのモノに囲まれた僕らの暮らしは、人類を、いや、あなたを、そして僕を依存症を発症する可能性の渦に投げ込む。もしかしたら、僕もあなたも自覚的ではないだけで、すでに依存症を発症しているかもしれない。もしそうでなくても、

あなたがまだお好みの ”ドラッグ”に出会っていないというのなら、それはお近くのウェブサイトに間もなく登場するだろう。
『ドーパミン中毒』p.4

ドーパミン経済

現代社会は僕らがモノを欲しがるように、次から次へと新たな商品やサービスを提供し続ける。そして、それらのモノを「欲しい!」と思う時、僕らの脳はドーパミンを放出している。ドーパミンが欲求を生み、それが行動を促す。例えば、ドーパミンが出ないように細工をしたマウスは目の前に食べ物が置かれていても食べようとしないらしい。「お腹がペコペコな状態」と「食べたい!という欲求があること」は、実は別の事柄なのだそうだ。

そして、このドーパミンの分泌異常が依存症をもたらす。脳が適切なドーパミン分泌のコントロールができなくなった状態が「依存症」である。普通は適切なところで満足して「これ以上はいいや」となるところが、ドーパミンがドバドバと出て「もっと欲しい!もっと欲しい!」と欲求が止まらなくなってしまう。

しかも厄介なことがある。脳科学者のアンデシュ・ハンセンなども指摘しているように、現代のゲームやSNSサービスなどは、脳神経科学の研究結果を応用して僕らの脳を「よりドーパミンが出やすい状態」にするべく設計されている。


オンラインゲームがやめられなくなったり、SNSのページから離れられなくなったり、そこに留まり続けたい!という欲求は脳内のドーパミンによってもたらされ、そのドーパミンはそのゲームやサービスを作った会社に雇われている脳神経科学者によって設計された仕組みによって誘導されている可能性がある。そうなると、ゲーム依存とかSNS依存などは意図して作られたものであって、そのように「作られた依存症」が身の回りにありふれている社会に僕らは生きている。

この『ドーパミン中毒』という著作は、そんな社会に生きる現代人たちが依存に陥らないために、またその状態から自分で抜け出せるためのヒントを与えるべく書かれている本である。

苦痛からの逃走が苦痛を生む

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