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『一寸先の闇 澤村伊智 怪談掌編集』 とにかく面白い小説がここにある

『一寸先の闇 澤村伊智 怪談掌編集』 
澤村伊智 著
宝島社・2023年7月

 澤村伊智の書く小説の魅力。それは「面白いエンターテインメント小説を読む喜び」を十二分に味わえること、それに尽きるのではないかと思う。
 ストーリー、キャラクター、テーマ、小説に施した仕掛け、そういった要素が高いレベルで共存している。とにかく、先が気になってどんどん読んでしまう、そして読み終わった後には大きな満足感が得られる。自分にとって、澤村伊智はそんな作家である。
 
 さて、『一寸先の闇 澤村伊智 怪談掌編集』の紹介に移りたい。256ページの中に21編の小説が収録されている、形式としてはいわゆるショートショートである。一つ一つの作品は短いものではあるものの、ホラー小説を読む“怖さ”を十二分に味わうことができる。短い形式で書かれたほうが、長編よりも怖いという意味で優っているように思う。短いがゆえに、出てくる怪異や謎についてすべてを明らかにせず、謎のまま残しておくことで読者の想像力に委ねている。そのことが“怖さ”につながっているのではないか。
 
中でも個人的に面白いと感じた三篇を挙げたい。
「保護者各位」
 本文はすべて「学校から保護者に向けたお知らせ」である。そのお知らせの中から読者は怪異を読み取っていくことになる。詳しい説明がないぶん、読者は想像力を様々に働かせることになる。
「せんせいあのね」
 わずか2ページ程の長さであるものの、構成の上手さが際立っているように思う。優れたショートショートでありながら、優れたホラー小説にもなっている。
「さきのばし」
 日常の中から、自身の認識が少しずつ狂っていくような怖さがある。とにかく不気味で、出てくる登場人物たちも怖い、とにかくストレートに怖い内容である。
 
 ショートショートという形式は、手に取りやすい形式ではないだろうか。そのため、澤村伊智の小説が気になる方がいたら、ぜひとも気軽に手に取っていただきたい一冊だと思う。【終】


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