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『すべてのことばはメッセージ 小説ユーミン』 ため息が出るくらい、都会的で煌びやかな青春

『すべてのことばはメッセージ 小説ユーミン』 
山内マリコ著
マガジンハウス・2022年10月

 小説ユーミンとサブタイトルにある通り、松任谷由実の生い立ちからデビューまでを描いた一冊。松任谷由実の幼少期からデビューするまで、その時代の空気感を存分に感じることができた一冊だった。

 この本を読むと、松任谷由実は東京の文化的な環境で育ってきたことがよくわかる。
 八王子の呉服屋の次女として育ち、幼い頃から母親と様々な舞台を観に行く機会があり、ピアノや三味線といった様々な習い事もしている。さらに中学生・高校生になると、放課後に都心のジャズ喫茶に遊びに行くようになり、流行の先端をいくミュージシャンとの華やかな交流がある。そこに描かれているのは、都会で青春を謳歌するティーンエイジャーの姿である。

 この本を読み終わった後、松任谷由実の曲を何曲か聴いてみた。いままでは何となく聴いていた曲も、改めて聴いてみるとずいぶんと都会的な歌なのだと思った。
 例えば、「中央フリーウェイ」の中で「調布基地を追い越し」「右に見える競馬場 左はビール工場」という歌詞がある。こういった「調布基地」といった場所をさらりと歌詞に織り込むあたり、地方出身者とは違う都会的な感覚が伺える。例えば、福岡県育ちの椎名林檎が「丸の内サディスティック」「歌舞伎町の女王」といった曲を歌うのとは対照的だ。

 山内マリコが描く世界観だからこそ、「都会・東京」といったキーワードで読んでしまうのかもしれない。もしかすると山内マリコも意識的に「都会・東京」ということを書いているのかもしれない。

 地方育ちの自分にとって、この本で描かれている松任谷由実の青春はため息が出てしまうくらいに煌びやかなものに映った。【終】


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