見出し画像

極右が伸長するドイツ

■政治の地殻変動

ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を伸ばしている。反移民、反EU、反イスラムといった枠組みで語られる政党だ。今年に入って各種世論調査で顕著な伸びを記録しており、動向から目が離せなくなっている。
調査機関Infratest Dimapによると、2023年10月13日時点で、AfDの支持率は22%となり、中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」の28%に次ぐ2位に付けている。17%だったショルツ首相率いる与党・中道左派「社会民主党(SPD)」を5ポイントも引き離しているのだ。
わずか6年前に国政進出したばかりの新興政党が、なぜここまで支持を伸ばしているのか。

■AfDとは
AfDは2013年、ユーロ圏の解体など国粋主義的な政策を掲げて誕生した。新右翼の流れを引き継ぎ、ネオナチ思想を隠さないメンバーもいることから、既存政党からは際物扱いをされてきた。そんなこともあり、頭角を表す過程は、2016年の米大統領選当初時点で泡沫候補とみられていたドナルド・トランプ前大統領と重なってみえる部分がある。

AfDの歴史は、メルケル前首相(2005-2021)とともにあった。少なくとも私はそう認識している。
メルケル前首相が率いたCDU/CSUは保守政権でありながら、世論の動向を見ながら、いわゆる「左寄り」な政策を実行してきた。従前からSPDや緑の党など左派政党が掲げてきた同性婚合法化や脱原発などが挙げられるだろう。その結果、行き場を失った保守層はAfD支持に鞍替えしたり、協力を示唆したりするという状況が生まれてきたのだ。

中でも、2015~2016年のシリア危機に際して、メルケル首相が大量の難民を受け入れたことは顕著な例だったと言える。この2年間でドイツには流入した難民は100万人以上。その後もドイツでは移民や難民の流入がとどまることなく続いている。

その結果は統計で明確に表れている。ドイツ国内の外国人人口は、メルケル政権が始まる2005年の8.8%から、退任する2021年には13.1%となったのだ。

シリア難民危機の当初、多くのドイツ人が難民を歓迎し、支援の輪は広がりをみせた。報道でもドイツが示した姿勢に対して好意的な論調が目立ったのは記憶に新しい。

しかし今、様相は変わりつつある。

Infratest Dimapによると、今年9月の時点で、ドイツ人の64%が移民受け入れのデメリットはメリットを上回ると回答。60%が受け入れ人数を減らすべきだと考えており、2021年9月の調査から20ポイントも増えた。国民意識は、シリア危機の当初とはすっかり別のものになったのである。
さらに、ドイツの政治家が対処すべき問題として、移民難民問題が44%で1位となり、2位の気候変動(18%)を大きく上回る結果となっているのも注目に値する数字だ。

AfD躍進の背景には、こうした社会情勢の変化が横たわっているのは言うまでもなく、各政党の支持率の推移からも浮かび上がる。CDUの中からすら「メルケルがAfDを生み出した」として責任を問う声もあるほどだ。

AfDは2017年の国政選挙で、得票率12.6%にして94議席を獲得。2021年には得票率10.3%で84議席とほぼ横ばいだったが、その勢力図は旧東ドイツを中心に変化している。

■旧東ドイツでの躍進

顕著な躍進は、すでに旧東ドイツのテューリンゲン州で見られる。
今年6月、同州ゾンネベルグ群で行われた郡長選で、AfDのロベルト・ゼッセルマン氏がCDUの現職を下し、ドイツ史上初めてAfDの地方自治体首長となったのだ。得票率は52.8%。CDUをはじめ、全ての既存政党がAfD以外の候補に投票するよう呼びかけるという状況下だった。日本で言えば、大阪維新の会の候補に対し、自民党やその他野党が結託する状況に似ていたのかもしれない。いずれにせよ、人口5万7000人ほどの小さな町の選挙結果は、ドイツ国内に大きな衝撃をもたらすこととなった。

さらに今年7月には、ザクセンアンハルト州レグーン・エスニッツで行われた選挙で、AfDのハンネス・ロート氏が選出。今年10月に南部バイエルン州、西部ヘッセン州で行われた州議会選でも、AfDは得票で2位に付ける結果となった。

もはや、AfDの勢いは雪崩を打つようですらある。

■AfDのSNS戦略

複数のドイツ人ジャーナリストに聞くと、AfDは若者が多く使うSNSを駆使して存在感を高めているというのが1つの共通見解だった。ティックトックやインスタグラムで短い動画をいくつも投稿し、かつて典型的な極右のイメージとされた「スキンヘッドの怖いおじさん」ではなく、より現代的で知的なイメージを打ち出しているというのだ。
試しにフォロワー数を比較してみると、その差は顕著に現れた。

【X(旧ツイッター)】
①緑の党 64.2万人
②SPD 42.6万人
③AfD 22.3万人
④CDU/CSU 17.6万人
【ティックトック】
①AfD 31万人
②CSU 15.1万人
③SPD 8.3万人
④緑の党  ー

このように、若年層の利用者が多いとされるティックトックでは、フォロワー数がXと逆転する。あるジャーナリストは「これまで”ウオーク系”が多く使ってきたツイッターで緑の党のフォロワーが多くなるのは自然なこと。AfDはティックトックでクールなイメージの醸成に成功しているが、他の政党のそれはひどいものだ」と分析する。

■行方占う来秋の州議選

来年には、AfDの支持率が高いテューリンゲン、ザクセン、ブランデンブルクの各州で州議選が行われる。2025年の国政選で、AfDは首相候補を擁立することをすでに明らかにしている。既存政党はAfDとの連立を忌避してきたが、その協力なしに政治を動かすことができなくなるかもしれないー。
時期国政選挙に注目が集まるのは、そんなことを考えなければいけない状況が来ているためでもあるのだ。

■参考

AfDについては、旧東ドイツの現場を訪ねる予定なので、のちに詳しく記したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?