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自分に出来ること

通勤時のAM7:00

いつも向かいの家のお父さんとお母さんが花にお水をあげていた

お父さんとお母さんといっても
自分のおじいちゃんとおばあちゃんと同じくらいの年齢
まだまだ元気いっぱいで、僕は毎日すれ違う時に

「おはようございます、行ってきます」

と挨拶をした。乗り気になれない会社への道のりを少しでも明かるくしたくて精一杯の笑顔と絞り出した声で

すると、お2人も優しい笑顔で

「いってらっしゃい、気をつけて行くんだよ」

と返してくれた。とても心が晴れやかで温かい気持ちになれた

そんな事を続けているとお2人のお家に招かれるようになった

お花のお話から、人生、人間関係、恋愛など
自分よりも半世紀以上長く生きている人の貴重なお話で、つい夢中になって聞いていた

そんな日々が1年ほど続いて
僕は遠くに引っ越しをすることになった
その報告をするために、お2人に会いに行った

このコロナのご時世、少し会うのが躊躇われたので
前回会った時から半年くらいが経っていた

メールでやりとりや電話もしていたが本当に久しぶりな感じがした

部屋に入るとお母さんは腰を骨折していて、その後遺症で
ほぼ寝たきりになっていた

体は辛そうだったが、顔や雰囲気はまだまだ元気だった

ただ、お父さんはどこを探しても居なかった
怖かったけど聞いてみた

「あれ、お父さんはどうしたんですか?」

一瞬間があってから

「死んだよ」

「えっ?!」
思わず声が大きく出てしまった



その後すぐに
「嘘だよ、今入院してるんだよ」

全く笑えない冗談で、思わず感情を出してしまいそうになったけど堪えた

今お父さんは、再生不良性貧血という病気になって入院している
骨髄中の血を作る細胞の種が減少してしまい、血が足りなくなるのだそう

これによって毎週のように
お父さんは輸血を余儀なくされているんだって


自分は知らなかった
そんなに高頻度で輸血が行われる場合があること
また、血液は高額であること

お友達のお医者さんから聞いた話だけど
その頻度で輸血をしているということは、もう先が長くないのだそう

お母さんは冗談混じりに

「もう早く死んでくれてもいいのに」


と言っていたが
その表情は100%本心で言っているようには見えなかった

確かにお家にお邪魔した時には
いつも言い合いというか、あまり仲良くしている感じでは無かったが
確かにそこに愛情はあると感じていた

難しい問題

本当にお父さんが死んでしまったら
お母さんはとても悲しむだろう

けれど
そのような状態で生かされているお父さん自体は
身体的にも精神的にも辛いのではないか

現実問題、輸血にかかる費用は、入院費用などもろもろ合わせて50万円ほどだそう

いくらか補助は出るのだろうけど
年金暮らしの2人には大変な苦労になると思う

このような状態になってしまっていたら
お父さんの明瞭な意思があり、なおかつお母さんがきちんと伝えたいことを伝えきれているのであれば、”安楽死”という選択肢をとるのもありなのではと思った

ただ、これはあくまで自分(他人)からの意見なので
家族、当事者たちからの視点で考えるとどう感じるんだろう

少し調べてみると
日本では法律上、他人による”安楽死”は認められておらず
それに加担した場合、刑法で裁かれるようだ

ただし
いくつかの厳格な条件を満たせば有罪には問われないみたい



久々にお会いして、お話したけど
状況が状況なだけに少し息が苦しくなるのを覚えた


帰り際、僕はお母さんの手を握った
お別れはいつも寂しいねって泣いてくれた


「またお会いしましょう」

って元気よく言ったけど
本当にまた会えるのかな

そんな事を考えてしまった
とても悲しくなるとともに、出会いの大切さを再確認した

挨拶に来れて、お母さんだけでも実際に会えて本当に良かった



治療費を渡すことは出来ない

せめて自分に出来る事をしよう

そう考えた時に思い浮かんだのが献血だった


学生時代、献血はよく行っていた
でも、身の回りの人が血に関して、実際に困っている人がいなかったので
あまりこれが誰かの役に立つんだって実感は少なかった

けれど、今回は違う
お父さんという存在があって、病気を知って、困っている人が多くいる事を知った


数日後、最寄りの献血センターで400mlの献血を行った

その日は確か日曜日だったと思う

献血センターに行って、一番最初に思ったのは人が多いなということだった
休みの日にわざわざ足を運んで、痛い思いをして献血するって、思いやりがないと出来ない行為だなと

みんな誰かを想って来ているのかなと思うと温かい気持ちになった

人が多かった事もあって自分の番が来るまでに30分くらい待った
今は献血も予約できるみたい
次は予約をしてみよう

検査を終えて、正常値を確認できたところで採血に入った


担当してくれた看護師さんと今回の経緯について軽くお話させていただいた

すると看護師さんは

「そうやって考えてくれて、来てくれるのは本当に素晴らしいことだよ、ありがたいね」

そして、こう続けた

「献血するにはまず自分自身が健康でいなきゃいけないよ

だから、まず自分の体を大切にすること、気にかけてあげることが一番大事だよ

自分の健康を気遣う事で救われる命があるの」

とても心に響いた

自分以外の他の誰かを思いやること
とても尊くて、素敵な考え方だと思う

その反面、自分自身は蔑ろにしてしまう事は多いように感じた

周りの人がどうか分からないが
日本人は特にそういう人が多いように感じる



一番身近で、自分に出来る事

それは

自分の心身を気遣い、健康を心がけること

ことかもしれない


もう一度、お父さんとお母さんに元気に、そして晴れやかな顔で
挨拶したい








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