逃走中の自首について語る

◯始めに

 逃走中。黒いスーツを身にまとったハンターと呼ばれる人物から、芸能人達が決められた時間内を逃げ回る企画番組だ。決められた時間を逃げ切れば賞金が貰えるが、途中で捕まってしまえば、賞金は無い。逃走者のフィジカルや知恵、運。ミッションに立ち向かう姿や消極的な者の、正直な感情が入り混じるこのゲームは、我々視聴者を楽しませてくれる。

◯自首

 逃げ切ることができないと踏んだ参加者が自首することがある。自首は、エリア内に設置してある電話で自己申告することで、それまで逃げ切った分の賞金が貰えるというもの。その後、自首が成立し逃走者はリタイアとなる。

 先述のように、ほぼ毎回と言っていい程自首をしようと考える者がいる。しかし、他の逃走者に諭されて自首を諦める者がいれば、そのまま自首する者もいる(中には逃走開始した時点ですぐに自首用の非常電話を見つけに生き、そのまま自首に成功した例もある)。そして、自首に成功すると参加者のTwitterやブログが視聴者達に叩かれて、大炎上する。これが恒例のパターンになりつつあるが、私は自首をして大炎上することが理解できない。

 理由はとても簡単で、自首はルール違反ではないからである。逃走者の人格も問われるだろうが、ルール違反ではない。寧ろ自首は難しい。その理由を後述していく。

◯自首は何故難しい?

 自首は難しい。何故ならば、初回から2020年8月30日の放送時点で、逃走成功者53人に対して、自首に成功した逃走者は僅かに19人しかいないからだ(ドランクドラゴン鈴木拓は2回自首しているがそれぞれ1人としてカウント)。心理的抵抗の部分の理由が大きいのだろうが、自首に成功した者は少ない事実がある。私は自首とはかなりリスキーな行動だと考える。

 まず自首をするには、エリア内に非常電話を探すところから始まる。この非常電話、エリア内に原則1カ所しか設置されていないため見つけるのが難しい。俊足のハンターが数人徘徊するエリアで、1ヵ所しか無い非常電話を見つけなければならないのだ。自分が自首したくても、この間に捕まってしまう逃走者が後を絶たない。本日(2020年8月30日)の放送でも、EXITのりんたろー。も自首を試みるが、欲が出てその場ですぐに自首ができず、その間にハンターに見つかってしまい確保されてしまった。非常電話を探す労力だけでなく、タイミングを見計らう判断能力も問われるのが、この「自首」だ。確保直後のりんたろー。の「自首しておけば良かったー!」という台詞が哀しい。欲とタイミングを見誤ると全てのゲームプランが台無しになるのだ。

 また、自首にはとんでもない運要素が絡む。自首は自己申告制だ。まず受話器を手に取り、番号を押さなければならない。電話番号を押すスピードが遅い者ならこれだけで2〜3分以上かかってしまう。電話が繋がり、自己申告すれば、自首成功となるが、ここまでの難易度が異常である。

 何故なら、受話器を手に取り、正しい番号を入力し、自己申告するまでの流れで1〜2分以上取られてしまうからだ。しかも電話が繋がるまでの時間にもラグが生じる部分も加味しなければならない。非常電話に張り付いているこの2〜3分間は、逃走者はその場を動くことができない。しかも、非常電話はオープンな場所にあるか、袋小路の逃げ場がない場所にあることが殆どなので、この間にハンターに発見されるとほぼ逃げられない(背後から忍び寄るハンターに気付かないまま確保されるパターンもある)。更に、自首を試みる者が同時に居合わせてしまった場合、先に自首する者が自己申告を終えないとそれまで自首することができず、ハンターに発見されて自首するタイミングを失う可能性だって十分にあるのだ。自分の行動速度から自首までの時間を逆算できないと痛い目に遭ってしまう。

 以上が自首が難しいと考える理由である。私には自首をした逃走者のTwitterやブログが大炎上することが理解できない。仮に逃走者の態度が悪かったとしてもだ。寧ろ、負けない戦略をとれることに私はリスペクトの気持ちすらある。

◯終わりに

 手段を選ばないという点では確かに人格を問われる印象があるし、実際に態度が悪い逃走者もいる。それが、この自首だ。だからといって自首がルール違反ではない以上、自首した参加者を叩いて炎上させるような真似をするのは愚行である。番組側にも話題性を広げるという狙いがあるので、まさに逃走者を炎上させて正義を振りかざした気になっている者は、掌の上で踊らされているようで哀れにすら見えてくる。

 自首は簡単ではない。逃走者の態度など関係無しに必ずリスクが伴う行動である。自首をするのが悪とバッサリ斬り捨てるのは私は良くないと思うし、寧ろ、自首をするまでのリスクに逃走者がどう立ち向かうのか、過程を見たほうが、この番組をより楽しめるのではないだろうか。

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