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ヘゲモニーと怒り ─にじさんじSEEDs─


六月になりました。四月以降、にじさんじから3名引退者があり、すべてSEEDs一期からという結果でした。

昨夜は名伽尾アズマの引退配信が行われ、海外に移住するため配信が不可能になるとの説明がありました。

蛇足ではありますが、彼女の引退をめぐって、何が明言されなかったのかを少し書いてみようと思います。

引退発表から

5月15日にTwitter上で引退発表をしてから引退配信まで、内外のコラボを中心に多くの配信をやり遂げました。これは、ファンを十分に納得させるだけの筋を通したものと思います。途中だった恋愛シミュレーションゲームも放り出さず、夜通しプレイして見事クリアを果たしました。

引退配信は二つのコラボ配信に挟まれています。ひとつは、審査員として参加した緑仙ラップ選手権、もうひとつは、深夜の茶番でおなじみド葛本社オルタです。どちらも元SEEDsのメンバーによるものでした。

どちらの配信でも名伽尾アズマの引退に触れ、かたやネタにし、かたやストーリーにやわらかく織り込むという、SEEDsらしい雰囲気に包み込んで見送ることになりました。

ブラックコメディ

緑仙ラップ選手権は、夢追翔の手によって、この世に過って生を受けた緑仙ラップをリスナーが歌って投稿しようという、ゆるい視聴者参加型企画……のはずだったのですが、VTuberさんや楽曲提供者さんと、少数の超ハイレベルリスナーの競演という予想を超えたものでした。

この選手権には、実は、優勝者はいませんでした。47分前後の夢追翔のフリから茶番は始まります。前々から挟んでいた緑仙との結婚・寿退社ネタでオチ、と思いきや実は……動画をご覧ください。

この配信の終了1分前まで、面白い茶番として見ていたのですが、最後の二枚の画像を見たとき、グロテスクでシニカルな笑いにわだかまりを感じて、ただの小芝居なのか、何か意図があるのか分からなくなりました。

引退理由と少しの矛盾

前述の通り、引退配信において、海外移住を理由に引退すると発表がなされました。環境の変化という受動的ではありますがポジティブな理由が明かされて、ひと段落。

しかし、違和感を感じている方もいるかもしれません。何故なら、以下のツイートのように、能動的な、またはネガティブな引退理由を示す断片がいくつかあったからです。

別に、どのような理由だとしでも引退は無くならないですし、表向きに主張されたことを飲みこむのがOTN(おとな)。しかし、この記事の本当の問いは、緑仙ラップ選手権で彼らが表現したことは何だったか?です。

緑仙ラップ選手権の茶番において、契約更新という言葉が登場します。この設定はわざわざ考えたというよりは、実際ライバーも契約更新のタイミングで引退したと考えるのが自然です。契約更新の期日が引退のスケジュールを決めたのであれば、それが、海外移住が決まるタイミングと一致するという可能性は高くなさそうで不自然です。

「(八朔ゆずより)早くから決めていた」という言葉からも、強い動機をもって、あるいは短期間で、契約解除または解約したわけではなく、更新しないことを事前に決めていたのだと思われます。

もう、十分義理を果たしたし、いいよね?

穿ち過ぎかもしれませんが、受動的かつネガティブな理由であったのならば腑に落ちます。つまらなくなった、稼げない、やりたいことを全てやってしまった、別に何でも良いのですが。

にじさんじSEEDs

筆者は、いわゆるSEEDs箱推しの一人です。ですから、ここから先を書くのは怖く、できれば、もう少しよく把握している誰かに、補足かダメ出しをお願いしたいと思います。でも、一旦文章にしてみます。想像も多め。

にじさんじSEEDsはチャレンジ枠と銘打たれたりしていますが、その実態は技能集団です。既存のライバーと最も異なっていたのは、集団としてセルフプロデュースの能力を持っていたことです。枚挙にいとまがないので事例などは省略します。

まだ運営も小規模だった時期、彼らは自律的にコンテンツを創造してゆくことが可能でした。サポートの弱さについてライバーが愚痴などこぼしていたこともあり、SEEDsは運営と対立関係にある、などとみられることもあったようです。

SEEDsは自助・互助によって成り立ってきましたが、同時にそれは、スタートアップ企業という小さな所帯の中に、もう一つ別の組織が存在するようなものでした。このことは、エネルギーのぶつかり合いのような、上記の(おそらく存在しない)対立関係とは別種の、闘争状態を実際に引き起こしていたのだと思われます。

SEEDsは新たな文化をつくり、にじさんじという箱の多くの部分を塗り替え、この状況は、昨年十二月に行われたにじさんじ統合まで続きました。

統合は個別化でもありました。おそらくは、個々で採算(=数字を取ること)を立てるべし、という変更でもあったこの変化は、集団全体としてそれを実現すればよいと考えてきたSEEDsにとって、他のグループよりも非常に強い制約であったのだと思います。

現在は運営の能力も上がり、サポートの弱さなどは改善されているでしょうが、前記の闘争における、敗者の孤立化という、新たに生じた問題へのケアはやはり弱く、なおざりであったのだと思います。

企業のミッションを揶揄すること

動画に戻って、もう一度画像を見てみましょう。緑仙お得意の、フォントまで精密にコピーするネタです。

配信の最後にチャンネル登録をお願いすることは普通に行われていますが、しかし、企業のミッションをネタの題材にすることには少々棘があります。スタートアップにとって、企業理念やミッションは人生をかけるべく、頑張って考えたものだったりします。

また、見ようによっては、数字を取ることがミッションにすり替わってしまっているという揶揄にも受け取れます。筆者がCEOなら事務所呼び出しです間違いない。

見送って

ここまで一緒に読んでくれた方、どう思われましたでしょうか?

筆者が感じた抗議、あるいは怒りのようなものは、引退理由や、統合が会社やSEEDsに及ぼした変化と関係しているのかもしれません。いやいや、関係していないのかもしれません。

表現の中には、二重の受け取り方ができるようにわざとしてあるものもあります。それを発信していたのに、受け手が気づかなかった、という事態が万が一あっては悲惨です。もし「それが表現されていた」のであれば…と考えて記事にしました。

ここで書かれていることが的外れであれば、引退したライバーは別に幸せです。もし当たっていたとしても、彼らは既に一矢報いていたのです。完全勝利。

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