哲学科ってナニ!? ①哲学科ってナニを勉強するの?

今回は
大学で哲学を勉強したい!と思っている中高生に向けて
記事を書きます


私は東大の哲学科卒(正確には文学部思想文化学科哲学専修課程卒)です。大学院までは行っていないのですが、学部の勉強の雰囲気は伝えられると思います。
中高生が「哲学科を受験するぞ!」って思っても、ネット上にまとまった信頼できる情報がないと感じたので、この記事を書きます。


これから連載で以下のような内容を紹介する予定です。
1. 哲学科で勉強すること
2. 哲学科の受験
3. ブックガイド
4. 大学卒業後の進路
5. 哲学科の雰囲気
6. 東大の場合


1、哲学科で勉強すること


 まず、ありがちな誤解を解くところから始めましょう。大学で学ぶ哲学は「人生哲学」「成功哲学」「あの人には哲学があるねー」とか言うときの哲学とは異なります。「人生観」「価値観」のような意味での哲学とは異なるということです。そういう問題意識と学問としての哲学がつながる部分はあるのですが、それをそのまま研究テーマにはしないです。じゃあ学問としての哲学は何なのかと聞かれると、すごく困ります(笑)そこは人によって答えが分かれるところでしょう。とりあえず、ありがちな誤解を解くために言える範囲で言うと、大学で学ぶ哲学は、抽象的な概念を用いてすごく厳密に緻密に論理的に議論を組み立てていくような学問です。
 名言いったもん勝ちではありません。高校の倫理はそういう誤解を生みかねない。「「神は死んだ」とか俺でも言えるわ!」みたいなね(笑)ニーチェの「神は死んだ」も、その前後の文脈を含めた上でとても重要な議論なのです。
 そして、自分で独創的に生み出せる学問でもありません。部屋に篭って内省を繰り返した先に独自の哲学が誕生!なんてことはありません。真の独創は模倣から生まれるものです。まずは優れた先賢の思想を学ぶところからスタートです。だから、大学での勉強は著名な哲学者の文章を精読することが主になります。入試の現代文よりずっと精密に正確に読みます。これをやっているうちに、独創性が失われてしまう危険もあるので、難しいところなんでしょうけどね。
 自分なりの問題意識を失わないようにしつつも、哲学者のテキストを虚心坦懐に読むスキルを磨いていくことが求められます。
 ちなみに「心理学」も同じような誤解を受けやすい学問ですね。心理テストは心理学の主流ではないですよ。


ちょっと遠回りしましたが、大学で勉強することをすごーく大雑把に分けると以下のような感じになります。


* 通常の授業
* 英語+第二外国語
* ゼミ
* 卒論


1、2年生のうちは、一般教養の授業(=哲学以外の授業)や第二外国語の授業が多くて、3、4年生になると専門的な授業が増えていきます。これは他の専門分野でも同じですね。


A 通常の授業


 これは教室で受ける普通の授業ですね。高校までの授業に一番近いでしょう。
 どの授業を取るかは自由ですがある程度制約もあります。その辺の雰囲気は大学入ればすぐ分かるはずなので、詳細は省きますね。
 哲学科であっても哲学以外の授業も取ります。僕は文学部でしたが、教育学部や法学部の授業も受けていました。哲学科の授業は比較的楽に単位が取れると思います。良くも悪くも「昔ながらの大学」って感じの雰囲気が残っているのが哲学科です。
 大人数の授業はあんまり意味ないかなーというのが私の考えです。しっかり聞けばすごくためになるんですけど、内容を理解するだけなら教授の著書を読んだ方が早いので。まぁ、私自身が人の話を聞くのが苦手なだけかもしれません。
 とにかく授業と関係なく興味のある本をガンガン読むことが大切ですね。自分で本や論文を読むことが文学部の勉強です。


B 英語+第二外国語


 他の専攻と比べて、哲学科にとってはここが重要になってきます。英語と第二外国語は必修です。主に一、二年生の必修です。
 哲学者の思想をちゃんと理解しようと思ったら原典が読めないといけないのです。特に大学院まで行く場合は、原典が読めることが必須になります。英語だけでは、英米哲学にしか挑戦できないわけです(大学に入っても英語の授業はあります)。
 第二外国語は入学時に選択します。有名な哲学者はドイツ語圏とフランス語圏に多いですね。自分が好きな哲学者がいるなら、その人の母語を選べばいいでしょう。古代ギリシャ語やラテン語を勉強したい場合は、第二外国語としては選択できないので第三外国語としてさらに授業を取ることになります。


 哲学の勉強は語学が命なんです!意外かもしれませんが。哲学の大学教授は皆語学が堪能です。(余談ですが、駿台の英語科では東大哲学科卒の素晴らしい先生が何人も活躍してきました。)
 私は語学が大の苦手だったので、ここで挫折した部分があります。翻訳で楽しんでいるうちはアマチュアにしかなれないのです。


 学部生も原語で読むのは、東大など一部の大学のみらしいですが、基本的な単語を理解するためだけでも(例えばda-sein(現存在)がドイツ語でどういう意味なのか)第二外国語の勉強をしておくといいと思います。


 C ゼミ
 2、3年生から全学生が何かのゼミに所属することになります。言い換えると、ある指導教官に付くことになります。自分が研究したい・卒論で書きたいテーマを扱っている教授のゼミを選びます。
 ゼミは週1回ペースであり、哲学のゼミの場合、哲学書の輪読をすることが多いと思います。私はフッサールの『イデーン』を読むゼミに所属していました。1コマの授業で1ページくらいしか進まないこともざらにあります。東大の場合、修士や博士の学生も同じゼミに出席しているので、先輩方のレベルに圧倒されるばかりでした。テキストを精読するってこういうことか思い知らされました。時間が止まっているような不思議な空気がある空間でした。学部生は交代で議事録の作成を担当することになっていてこれが勉強になります。ゼミを録音して、翌週までに先輩のアドバイスをもらいながら議事録を作成します。
 ゆっくりしたペースで輪読するので、ゼミが1年で終わることはありません。何年もやります。だから多くの学生は、テキストの途中から参加して途中で抜けていくことになります。それでも、テキストの読み方の勉強になるのです。
 教授の専門分野は、東大には5人の教授がいて、それぞれドイツ・ドイツ・フランス・ギリシア・イギリスが専門でした。基本的に自分がやりたい分野で選べばいいですが、それがない人は教授の人柄で選んでもいいかもしれません。学生の面倒見が良く教育熱心な先生とそうでない先生がいるので。哲学科の規模が小さい大学だと教授の人数が少なくなって選択肢が狭まるでしょう。東大でも中世神学を専門とする先生はいません。だから、例えば東大で中世神学を勉強しようと思うと少しやりにくいです。もちろん、教授は知識豊富なのでアドバイスはそれなりにもらえますが。東洋思想をやりたい場合、別の学科や専修課程になる場合も多いです。哲学=西洋哲学という場合も多いです。東洋思想を勉強したい人は志望大学をよく調べましょう。



 D 卒論
 そして一番大事な卒論です。その名のとおり、4年の1月ごろに提出する、大学での勉強の総決算です。字数は20,000字であることが一般的だと思います。東大は40,000字でした。原稿用紙100枚!
 3年次にだいたいのテーマを考えて、4年の初めごろに絞って、それから調べまくって、最後の1ヶ月くらいで一気に執筆するのが理想的でしょう(研究を進めるうちに方針も変わってくるので、早くから書き始めても後ですべて破棄することになりやすい)。テーマは「ある哲学者のある本のある内容」くらいに絞ることがポイントです。私の場合「メルロポンティの『知覚の現象学
』における習慣の獲得について」というテーマで書きました。「幸せとは何か」みたいな広いテーマで書きたい人が多いと思います。私もそうでした。でも、これだと40000字程度では感想文しか書けません。テーマを絞ることで密な議論が展開できるようになります。テーマを絞ることが勝負と言っても過言ではありません。
 哲学の論文ってのは書いていて死にたくなりますね。教授の先生方は、学生時代を振り返って微熱がずっと出てたとか血尿が出たとかおっしゃっていました。私は意識がもうろうとして泥酔状態のようになったことがあります。前提なしで議論を進めていくので「これで何か言えているのか?」「論証になっているか?」「ただのまとめじゃないか?」「ただの感想文じゃないか?」などと考え出すと精神が崩壊してきます。
 ちょっと脅しすぎましたかね?実際は、ひどい内容でもお情けで卒業させてもらえることがほとんどです。もちろん大学院を受験する人はガチで書く必要があります。私は、それでも、卒論には全力を尽くすことをおすすめします。人文系の学部で学ぶ意義は本(学術的なもの)を読み、文章(学術的で論理的なもの)を書くスキルを身に付けることにあると思っています。それらを鍛えるためには卒論に全力で取り組むのが一番です。私は正直言って真面目な学生ではなかったので、授業やゼミの内容はあまり身に付いていないけれど
卒論は頑張って、そのおかげで力が付いたと実感しています(ゼミももっとまじめに受けていればよかったと後悔)。


今回は以上です!
次回は哲学科を目指す人の受験勉強について書く予定です!

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