「私はプロフェッショナルになれない」を目的論でリフレーミング(前編)

 リフレーミングという言葉があります。フレームを掛け替えるということですね。「かけているメガネを変える」というイメージでもいいかも知れません。

 ちょっと想像してみてください。あなたの前にプラスメガネとマイナスメガネがあります。プラスメガネをかけると、世界のプラスの側面だけが見えるようになります。マイナスメガネをかけると、世界のマイナスの側面だけが見えるのです。

 プラスメガネをかけて、今いる場所を眺めたら、どんな発見があるでしょうか。メガネを外しているのと、かけてみるのとで何が違うでしょう。ではマイナスメガネをかけて、同じ場所を眺めたら、今度はどんな風に違って見えるでしょうか。

 どんなメガネをかけるかで世の中全然変わるはずです。サングラスをかけていたら周りが暗く見えるように、マイナスメガネをかけていると世界が暗く見えるわけです。

 世界が暗いのではなく、暗く見えるメガネをかけているのです。そして私たちは、誰もが何らかのメガネをかけて(フィルター越しに)世の中を見ています。だれもが世界をありのままには見ていないのです。そして、自分のフィルターを通してみた世界が、実際の世界だと僕らは思い込んでいるのです。

 だから、あなたの見方(メガネ)が変われば、生きている世界は変わってしまうのです。それをするのがリフレーミングです。世界のどこに、どんなフレーム(額縁)をかけるかで、世界は違って見えるわけです。

 今回のシリーズは、2014年の公開セミナーでのセッションを題材に、目的論でリフレーミングをしていくということについて一緒に考えてみましょう。

 目的論=原因でなく目的に焦点を合わせるアプローチ。「自分は何を目的としてこの行動しているのか?」「本当の目的は何か?」を明らかにし、目的に向けて行動をとってもらうよう関わることを基本とする。


わたしはプロフェッショナルになれない

 クライアントは40代の女性。受容的で明るく、必要なときは全身全霊で向き合える大人気のコーチです。


宮越「自分の変わりたい部分とか変えたい部分って何かない?ってきいたら、なんだっけ、わたしはプロフェッショナルに」
CL「なれない」
宮越「私はプロフェッショナルになれないと思っているの?」
CL「はい」
宮越「びっくりしますね。本当に(笑)」

思い込み


「私はプロフェッショナルになれない」

 このメガネをかけて生きて行くとどうなるでしょうか。自分の仕事を正当に評価し、世の中にアピールしながら生きていけるでしょうか。

 もちろんそんなことしなくても構わないのですけど、自分のことを自分で認めることなく、他人に認めてもらって、他人に自分のことをアピールしてもらうことは難しいですね。だから僕は勿体無いと思うのです。

 なにより彼女は多くのクライアントから信頼を寄せられるプロコーチです。だとすればクライアントのためにも、謙虚さの美徳はわきにおいて、自分の仕事に自身を持ってもらいたいのです。

 
 そうすると、何とか変えてあげたいと思っちゃうわけです。「何言っているんだ」、「だって今までプロとして仕事してきたじゃない」「福祉の仕事だってしてきたじゃない」とか。「コーチとしてもがんばってるじゃない」って、知っていることでなんか言うのです。「クライアントさんでこの前喜んでくれてた人いるじゃない!」とかね。

 こういうこともリフレームと言えるけど、多分あんまり効果がないのです。だって、こんなこと言われただけで、メガネがかけかわって、人生は変わらないことのほうが多いでしょう。

 何が足りないかって言ったら、クライアントが本当に望んでいることに対してちゃんと寄り添うことです。相手の目的を明らかにしてそこに寄り添うことなのです。

 そこに寄り添いながら、そのプロセスのなかで、「あ、そうか私はこういうところができているんだ!」とか「もっとこうなりたいんだ!」「なれるんだ!」って気が付いてもらうことが大切なのです。


そういうちょっとした丁寧さが足りずに、無理やり「リソースあるでしょ!」「目的あるでしょ!」「やれることあるでしょ!」「助けてくれる人いるでしょ!」「感謝してくれる人いるでしょ!」ってやるから、本人にとっては受け付け難いわけです


 もちろんリソースはあるんですよ。例外や反証もあるんです。だけどそれを見ないようにしているのがメガネなのです。メガネを掛け替えてもらうためには、そのメガネに少し寄り添ってみるっていうのが大切なわけです。だからまずは相手のメガネについて話を聴いてみたいのです。

宮越「プロフェッショナルになれないっていうんだけど、どうしてそう思うの?」
CL「えーとですね。一つの同じことをずっとしてきてない気がする。」
宮越「あ~、ほんと。例えばどういうことですか?」
CL「えー…」
宮越「例えば何を考えたとき(にそう思うの)?」
CL「そうですね、なんか仕事も変わってきたんで、なんかずっと、それこそ同じことはやってきてないなと。なんかそれに気が付いたら、あー、私プロフェッショナルじゃないんだなーって。」
宮越「あー、そうなんだ、そうなんだ。OK、おもしろいね。」

メガネの話をきく



 この人のプロフェッショナルになるという定義の中には、「1つのことをやり続ける」っていうのがあるのかもしれないですね。

 では想像してみましょう。もちろん一つのことをやり続けるとプロフェッショナルかもしれないけど、じゃあね、それだけやり続けていればプロフェッショナルかっていうことです。同じことを、この一筋何十年ってやってたらそれだけでプロフェッショナルなのって言ったら多分違うじゃないですか。


 だから「じゃあね、10年、20年、30年、40年やりゃいいの?」って聴いてみると、そういうことでもないなって、少しこのメガネが揺れてくるわけ。

で、例えば「期間短くても、この人プロだなとか、素晴らしいなっていう人っているの?」とやってみてもいい。こういうのが有効になるのは、少しだけ丁寧に相手の話に寄り添っているからです。

 もちろん逆のこと言ってもいいんです。「最低限年々くらいやらないとプロになれないと思う?」からの「何年よりも短いけどやっぱこの人プロだなって思う人いない?」とかですね。

 例えばこんなことでもメガネはだんだんと壊れていきます。かけられないメガネになっていくわけです。フレームが緩んでくるというかね。そういう状態をつくっていきたいのです。

 そしてさらに本質的なことを言うと、彼女が「プロフェッショナルになれない」って言うのは、「プロフェッショナルになりたい」ということなんです。このクライアントは「私はプロ野球選手になれません!」とは言わないんですよ。別になりたくないからです。

 彼女は「プロフェッショナルになりたい!」っていう思いがありながら、「でも1つのことを長くやってこなかったから、できないんじゃないか」っていうメガネをかけているということです。

 だとしたら「プロフェッショナルって何なの?」「あなたはどんな存在になって、本当は何がやりたいの?」ってきいてみたらいい。そして「そのために今までどんなことやってきたの?」「これからどんなことやっていくの?」とかを問いかけて行ったら「あ、そうか。自分なりのやり方でプロになれる」とか「自分が望んでいることはプロフェッショナルって言葉で表現すべきものかどうか分からないけど、それを実現することはできる」っていうことに気が付いていくかもしれない。


 僕たちコーチがやりたいリフレーミングは「プロフェッショナルになれない」って言っている人に「あなたはプロフェッショナルになれます」とか、「あなたは既にプロフェッショナルです」って返すことじゃないんだと思います。

 自分にはどんな目的があるかに気がつく。自分には既にできていることがあることに気がつく。自分らしいやり方があって、そうしたらちゃんと人生の主人公にとして生きられる。そういうことに気づいてもらうことが大切であり、「プロになれる」って説得することがやりたいのではないのです。

 だとすれば単に相手に寄り添いながらコーチングすることがリフレームになってしまう。僕のところに来たクライアントは例外なく、新しい気づきを持って帰っていきます。でも僕はコーチとして関わっているだけです。

 ここがリフレーミングが苦しいものになるかどうかの分岐点です。相手にに対する説得術なってしまうと苦しい。だって説得になると「できてるじゃん!」とか、「こういう見方もあるじゃん!」って言うことになる。これは下手したら余計なお世話になるんです。

 そしてMちゃんは、実はプロフェッショナルになれるかどうかは関係ないんです。今彼女が求めている漠然としたものにプロフェッショナルっていうラベルを貼ってるだけなんですよ。

 そしてその確かかどうかわからないラベルに、思い込み(「長いことやらないとプロフェッショナルになれない」)がくっついてる。そのメガネが外せなくて、そういう世の中の見方しかできなくなっているということです。だからそこを揺らしていきたい

宮越「じゃあ、私はプロフェッショナルになれないって言ってみてください」
CL「えー、私はプロフェッショナルになれない」
宮越「ふふふふ。えー、本当にそう信じているのが10点だとして10点満点でどのくらい信じていますか?」
CL「そうですね~、信じてない度ですよね?」
宮越「いいよ。信じてるが10点でもいいし、信じてない度でもいいですよ。」
CL「信じてない度が、え~、そうだな~。4点くらい。」

スケーリング

 まずはスケーリングで例外(反証探し)ですね。信じてない度が4点もありました。プロフェッショナルになれないとは6点分しか信じてないということですね。そこですかさず 

宮越「4点くらいね。いいね。あの、プロフェッショナルになれる可能性ってどんなところに感じてます?」
CL「あー、そうですね。プロフェッショナルになれる可能性…まあ、このままやり続けていく。」

プロになれる可能性

 ぶっ込みますね。プロフェッショナルになれる可能性をどこに感じるか?

 もう、プロフェッショナルになれるのは前提なのです。ただしクライアントの答えは「このままやり続けて行く」でした。とは言えやり続ければプロフェッショナルになれるというところまではメガネがずれてきたのです。

 ここでさらに「どんなことをやると良いの?」「何を大切にすると良いの?」とかやれたら、それも良かったですね。

 実際は

宮越「あ~、今は何のプロフェッショナルになりたいですか?」
CL「そうですね~。コーチとしてのプロフェッショナルになりたいし、講師としてのプロフェッショナルになりたいです」
宮越「あ~、いいですね。あのさ、もちろんどっちもできるし、いいと思うんだけど、まず、どっちのプロフェッショナルになるってことを考えてみたいですか?コーチでもいいし、講師でもいいし」
CL「あ~そうだな~」

なんのプロになりたい?

 こういうのも非常にずるい問いかけの仕方ですね。「どっちもなれると思うけど、まずはどっちになる?」

 なれるかなれないかじゃなくて、どの順番でなるかだよ!って見方をしているわけです。でクライアントもだんだん引きずられて「そうか、どっちのプロフェッショナルになる方法について考えようかな」になっているんです。

僕はなれるかなれないかきいていないです。どっちになりますか?どうやってなりますか?と問いかけて、それについて考えましょうって言っているんです。
だんだん、クライアントの感覚が変わってきますから、それを見ていてくださいね。

宮越「どっちにします?はい。どっちでもいいんですよ」
CL「コーチです」
宮越「コーチね。はい。プロフェッショナルなコーチってどんな感じですか?Mちゃんの中で」
CL「大樹さんみたいな人」
宮越「あら~、ありがとうございます。え、どんなとこですか?茶髪にするとか?じゃあ、あなたもプロフェッショナルです(笑)」
CL「あー、そうだな1つのことに探求しているっていうか…あの~…」
宮越「例えば僕で言うとコーチングの中で何を探求している感じがします?」
CL「あー、そうですね。なんか、んー。コーチっていうかトレーナーとして、どうやったら人に分かりやすく伝わるかとか、はい、そこはすごく。」

プロのコーチって1

 具体化をしています。プロのコーチの具体的イメージを出しています。そして

宮越「例えば平本さんもいいコーチだと思いますけど、平本さんはどんなこと探求していると思います?」
CL「平本さんは、えーと、なんか、そうだな~。とにかく、なんかセッションをし続けて、はい、そこですね。」
宮越「セッションし続けてなんだろう?」
CL「し続けて、なんか、短時間でとにかく結果を出す。」
宮越「そうだよね、短時間で結果出すとか、後、おもしろおかしく見せるとかね。なんかそういうところを探求していますよね。いいね。なんか、卒業生のコーチ仲間を一人思い出してもらいたいんですけど。この人いいなとか、プロっぽいなとかね。一人思い浮かべます?」
CL「はい、いますね。」
宮越「うん、OK。じゃあ、その人はどんなこと探求してます?ちょっと思い出しててね。」
 

プロのコーチって2

 そして次は列挙していきます。そうするといろんなコーチのプロっぽさの要素が具体的に並んでいくわけです。これをつかってコーチ(僕)は話をすすめていきます

 次回に続く



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