CBC㉑「東北道140キロ交通事故のトラウマ」
⑳からの続き
止まっていた物語を結末に向けて動かしていく。そこに何らかの暴露(エクスポージャー)が絡んでいること。
そんな風に、いろいろなケースをみてみて欲しい。
⑳で紹介した⑨や⑪もそう。他にも
⑬お母さんに息子はいないと言われて止まっていた物語
⑭お父さんが壊れそうなところで止まっていた物語
⑮殺したい気持ちを隠そうと止まっていた物語
⑯弟が話せないまま亡くなって止まっていた物語
⑰亡くなったおじさんへの怒りを隠して止まっていた物語
みたいに、どれも止まっていたプロセスを再度コーチと動かしているのです。
そして、そこでは不安や恐怖に向き合う(エクスポージャーする)ことが求められる。だからいかに安全にそれを行うか。そして勇気や希望の物語を紡いでいくか。が問われるのです。
勇気や希望の物語に関しては、僕が作ったコンテンツで『12の物語』というものがありますので、いずれnoteでも解説する予定です。YouTubeにもいくつかビデオが上がっています。
さて、今回はまずエクスポージャーの基本的イメージがわかるようなケースから。
ケース2◆交通事故のトラウマケア
※交通事故シーンの描写があります。怪我などの描写はありませんが、苦手な方はご遠慮ください。
学生時代。友達と3人で東京から仙台までドライブに行こうということになった。「仙台行って牛タン食おう」という、いかにも学生ノリのドライブ。
発売されたばかりのプリウスをレンタカーで借りて、運転できない僕は助手席。後部座席の友達はギターを弾いていた。
東北道。郡山インターを過ぎたあたり、運転手は追越車線を140キロオーバーで飛ばしていた。(※もちろん違反行為です。ごめんなさい)
突然、前のトラックが急ブレーキを踏んだ。ベタ踏みだ。
まっかなブレーキランプが光り続ける!!
もともとたいして取っていなかった車間距離。前のトラックとの距離が急速に詰まっていく。あぶない!!
その時、
運転していた友達は、何を思ったか、ハンドルを右に切った。
僕たちは中央分離帯のフェンスに突っ込んだ。
このとき僕はスローモーションの世界を体験した。フェンス脇に生えていた枯れ草が見えた。フェンスと車がぶつかり、ゆっくりとフロント部分が潰れていく様子。必死の形相でハンドルを握っている友人の表情。
ぶつかった衝撃で僕たちの車は水平方向に回転を始めた。時計回りに回転し、段々と進行方向後ろの様子が見えてくる。後ろの車が一斉にブレーキをかけている。車線変更を試みる車もいる。
そして、すぐ後ろの車を運転していたおじさんの表情。真剣だが、パニックになってはいなかった。その顔をみたとき。「良かった。。。助かった」と思った。
僕らの車はさらに回転をつづける。再び、進行方向に向いていく途中で。避けきれなかった、トラックが、助手席のドアにぶつかりそうになる。「やばい」と思った瞬間、トラックがぶつかり、軽い衝撃が走った。ぶつかったドアの状況も自分の左足が安全なのもきちんと掴めていた。助かった。。。
それからしばらく経って、車が止まった。
「異常が発生しました」
とカーナビが言った。
知ってるわい!と思った。運転手は、両手でハンドルを叩きながら「ちくしょー」と言っていた。後ろのギター青年は、ひっくり返っていた。驚くべきことに全員無傷だった。
車が車線を塞いで止まっていることに気づき、運転手は移動しようとした。エンジンが掛からなかった。仕方ないと外に出ようとした(※これも気をつけないと危険な行為です)
ドアが開かない。。。よくみたら、ドアが簡単に開かないくらい車体は歪んでいた。いろんなことに気づいていたようで、こんなことには気づいていなかったのだ。そして、自分の身体がすごく緊張、興奮していることにも、このとき気がついた。
誰かが110番通報をしてくれたようだ。すぐに警察がやってきた。運転手がつれていかれ、僕は車内で待っていた。そのとき
別の警察官が車をのぞきにきて、こう言ったのだ
「もってるねぇぇぇぇ!!!!!」
意味がわからずキョトンとした顔をしたのだろう。警察官は説明してくれた
・シートベルトをしていたこと。していなかったら即死
・誰も怪我をしていない。事故状況からは珍しい
・エアバッグが出ていない。エアバッグが眼鏡に当たり怪我することがある
・接触は後続のトラックのみで、それも軽いものだった
事故後で興奮している僕。なぜか興奮しながら「もってるよぉぉぉ!」と言ってくれる警察官。
この日から僕は「俺はもってる人間だ!!」と思えるようになりました。お巡りさんありがとう!!(思い込みのメカニズムに関しては⑯で解説。感情強度×回数で思い込みが作られる話を参考に)
ただし、この事件はそれだけでは終わりませんでした。
警察の取り調べも終わり、僕らは車をレッカー車にのせてもらい、郡山市内へと出た。郡山の支店でレンタカーを返し(全損でした。ごめんなさい)、駅に向かうために、タクシーを拾った。
タクシーの中で、僕らは変に浮かれていた。全員無事だったし、全損も5万円で済んだし、これはこれで思い出になったな、などと話していました(不謹慎な学生ですいません)。
高速も渋滞させてしまったし、多くの人に迷惑をかけた、そのことから目を背けたかったのかもしれません。
その時。信号が黄色に変わり、タクシーが減速を始める。前の車が赤いブレーキランプを点灯させる。
それを見た瞬間
猛烈な吐き気。叫び出したいような衝動。
怖い怖い怖い。。。降りたい降りたい降りたい。
子どもがジェットコースターから「やっぱり降りたい」と駄々をこねるみたいに。
僕以外の二人は普通に話している。。。。なんだろう。これは。。。。
そのときは「どうしたの?」ときかれて「ちょっと気分が悪い」と誤魔化し、駅前の居酒屋でビールを飲んで、新幹線で東京に帰った。
その日以来、僕は車に乗るのはOKだけど、ブレーキランプの点灯を見たり、車が減速するのを感じると、猛烈な恐怖心を感じるようになってしまった。どんなに安全運転をしてもらっても、ブレーキランプや減速の感じの怖さは拭えなかった。
このあたりは脳の困ったところですね。本当に危ないのはスピード違反や、車間距離を取らないことですが、それに対する恐怖ではありませんでした。なぜかブレーキランプを危険だと思い込んだり、減速を危険だと思い込んでしまって、3F(この場合は逃走)で対処しようとするわけです。※3Fは⑳を参照
困った。車に乗れない。どうしよう
このとき、僕はこんなことを考え始めた
なんとかしなきゃ。。。きっとリハビリが必要なんだ。事故のショックで、心がビビっている。。。リハビリプログラムをつくろう。まずは簡単な練習からしてみよう。。。
ところで、簡単な練習ってなんだ???
何が難しい練習かはわかる。
東北自動車道下り郡山付近。追越車線で車間距離は短め。140キロオーバーで走る車にのりつづける
これは、かなりハードな練習だと思う。
では簡単な練習って?
いまは都内の道をゆっくりとタクシーで走るのも辛い。何が辛いんだろう。周りの車が急に前に入ってきたりすることかな。時に運転手がスピード出すことかな。ではどうしたら?
田舎道でほとんど車が通ってないところはどうだろう。。。前に車がいない場所をずーっと走って、信号で止まる。。。これでは練習にならないか。。。
そんな風に考えて、出た結論は「片側1車線で交通量が少ない山道を前の車がやや遠くに見えるくらいで走ってもらう」というものでした。
前の車の様子は見える。カーブや信号などでは、時折ブレーキランプが見える。でも十分に距離があるから大丈夫そう。万が一車が混んできたら、止められるところで止めてもらおう。
行けそう!と思ったので、早速友達に頼んで、約束を取り付けました。(事故を起こしたのとは別の友人)
それでも、当日いきなり本番は不安で、何かやれることを探すことに。
外にでて、信号付近に行ってみる。歩道から、車が減速してブレーキランプが着くのを見る。。。ほんのちょっとだけ気分が悪くなる。。。少しだけ距離を取る。深呼吸をしながら、自分を落ち着けて見続ける。。。だんだん慣れてくる。克服した!!
イメトレもしてみた。ゆっくり走る車。前の車は遠くを走っている。信号の前で減速。ブレーキランプが点灯する。大丈夫だ!!
イメトレ第2弾。ゆっくり走る車。前の車はさっきより近い。信号の前で減速。ブレーキランプが点灯する。ややドキドキする。深呼吸する。車のスピードをもう少し、ゆっくりにしてみる。。。あ、これなら行けそう。。。大丈夫だ!!もう少しスピードを上げて練習してみよう。。。
こんな風にイメージしながら段々と練習の強度を上げていきました。そうやって自分で、対応できる範囲を広げていったのです。
当時はスケーリングを知らなかったので、ごちゃごちゃ考えましたが、スケーリングつかえばもっと簡単です。
認知行動療法などでは不安階層表と呼ばれています。
不安や恐怖の強さに応じて点数化
10点 高速道路。追越車線、車間距離不十分。140キロ
9点 高速道路。追越車線、車間距離普通。100キロ超
8点 高速道路。走行車線、車間距離十分。流れに乗っている
7点 見通しの悪い道。車間距離十分。急ブレーキあり
6点 一般道。車間距離普通。車線変更あり。やや急なブレーキ
5点 一般道。車間距離普通。車線変更あり。
4点 見通しよい一般道。車間距離普通。急ブレーキなし。
3点 見通しよい一般道。車間距離十分。急ブレーキなし。
2点 見通しよい一般道。前に車なし。制限速度内
1点 徐行。周りに車はいない
0点 止まっている車に乗っている
(他にも、どんな車に乗っているか、誰が運転しているか、天気や路面状況、混雑状況など、いろいろと影響しているものがあると思いますが)
このように階層表を作り、現状どこまでならクリアできそうか?どこからがリハビリになるかを考えていくのです。
僕の場合だと、この表では3はギリギリいける。4から難しくなる。そんな感じだったと思います。
だから3から、一段階ずつクリアしていくのです。僕がやっていたように、深呼吸などリラクゼーション法と併用するとうまくいきやすいです。
イメージの力を借りることもできます。イメージをするだけでも心が反応するようなら、まずはイメージの世界から、不安恐怖に段々と慣れていくのも有効です。例えば系統的脱感作と呼ばれるのがこのような手法です。
以上、交通事故体験から始まったブレーキランプ恐怖症のセルフケアの物語でした。リハビリプランを自分で考えて、安全確認しながら、克服していく。このように軽度な不安や恐怖を使って段階的に脳を、心を鍛えていくのです。
次回はさらにこれらを応用したケースについてご紹介します。使いこなせると、感情もそうですが、身体反応も変えていくことができるようになってきます。
続く。
以下のビデオはおまけ。10年前のセッション。クライアントは飛行機恐怖症の女性。飛行機のイメージをするだけで脂汗が出る状態で、仕方なく中国まで船で行ったことがあるといいます。クライアントのキャラクターもあって、とても面白いセッションになりました。セッションからしばらく後、彼女と一緒に飛行機にのりました!彼女は窓からの景色を楽しんでいました。
お気持ちありがとうございます。資料入手や実験などに活用して、発信に還元したいと思います。