来るべき震災に向けて。PFAの話

 南海トラフの巨大地震の危険性が高まったとして「臨時情報」なるものが出たりして、危機感を持つ人が増えていますね。他にも首都直下地震の危険性だってそれなりに高いわけで、日本で暮らしていくには日頃から地震への備えは欠かせません。

 今回の記事では、PFA(サイコロジカル・ファースト・エイド)と呼ばれるものを中心に、地震などの大規模災害の際に私たちコーチは何ができるのか、そんなことを考えてみたいと思います。

私たちの出番はまだ先です

 2011年3月11日14時46分。僕は表参道にいました。経験したことのない大きな揺れでしたが、僕が受けた被害は、帰宅困難となり事務所に泊まることになったくらいでした。

 翌12日は土曜日でプロコーチ養成スクール第6期のクラスが予定されていました。とは言え東京でも、余震は続いているし、交通網も運休が多く到底開催できる状態ではありませんでした。

 でも、クラスに来たがる人もいるんです。居ても立っても居られないというか。コーチって人の役に立ちたい人たちばかりなので、じっとしてられない。

 「近いから行ってもいい?」「一人でいても不安なだけだし。。。」「どうせ受講のために東京に出てきちゃってたので」などといってクラスに来たがる人たちが半分くらいいたので、僕も会場で待機していました。

 とは言え普通にクラスをやるわけでもない。何をすればいいのか、僕も決めかねていました。当時34歳。

 僕はホワイトボードに「僕たちにできること」と書きました。でも、いままさに起こっている震災に関してできることなんてない。だからクラスに来てくれた人の話をきいて、彼らに対してコーチとして関わるような時間になりました。

 単純に不安がってる人もいるし、現地の状態にショックを受けたり、何もできない自分に落ち込んでいる人もいました。

 午後になり、停電の可能性などが出てきて、クラスは中途半端な形で解散しなければならなくなりました。

 僕も落ち込みました。自分は何をやっているんだろう。。。

 翌日の日曜日には、平本あきおさん(当時のスクール代表)がオンラインで卒業生たちと話をするプログラムが開催されることになりました。

 未曾有の事態の中で、平本さんがどのようなメッセージを伝えてくれるのか、皆が固唾を飲んで待っていたわけですが、第一声は

 「私たちコーチの出番はまだ先です。ですからその時に向けてセルフケアに努めていてください。私は今日マッサージを受けてきました!」

 というものでした。「さすがだな」と思ったのを覚えています。

 この後の数年間で、僕は60回ほど現地に足を運び様々な形で復興支援を行うことになりますが、このとき平本さんが言った

 「コーチの出番はまだ先」

 は真実だったと思います。

何もできなくてもいい

 「出番はまだ先」も事実だし、かなり積極的に動かなければ「いつまでも出番なんか来ない」のも事実だと思います。

 だから、震災後、何もできないと言って悩むコーチもたくさんいました。

 でもいいのです。自分の日常を精一杯生きることだけでも本当は十分です。まずは自分の世話をする。余裕があれば、多少でも他者に貢献する。本来はそれで十分なはずです。

 とは言え何かがしたければ、

 「毎日お祈りをする」「少額でも良いから寄付をする、呼びかける」「支援している人たちを応援する」「SNSでの勇気づけコメント」「長期間忘れずにいて、なんらかできることがあればする」とか

 別に被災地支援でなくても、家族や知り合いの不安をきいてあげたり、励ましてあげるだけでも素晴らしいことだと思います。

  小さなことでもみんなでやることで大きな意味が生まれるのです。それを信じて、できることをやっていきましょう。

 コーチとして直接役にたつことができないと残念な気持ちになることはわかりますが、できることに意識を向けていきましょう。

 そして現代であれば、震災後でも比較的早くオンラインは復活すると思いますから、不安や悩みを聴くようなサポートをすることは、2011年当時に比べればかなり簡単にできると思います。

 ぜひその時々やれることをやりましょう。僕も東日本大地震後すぐは、現地に行ってもコーチングもカウンセリングもするチャンスなんてありませんでした。だから片付けでもなんでも求められていることをしながら、現地の人たちの話を聴いていました。そして少しずつヒアリングを進めながら自分がさらにできることを探していったわけです。

自分が被災者になったら

 まずは自分と身近な人の命を守りましょう。そして生活を守りましょう。べつにコーチだからといって、特別なことをする必要はないと思います。

 僕だって、被災者になったら、最初は命や生活を守ることで精一杯だと思います。あとはやれる範囲で、コーチングの原理原則に基づいて動きましょう。

 ・自分が少しでもいい状態でいられるように工夫をしましょう
 ・周りの人との安心感ある関係づくりを大切にしましょう
 ・周りの人の話をできるだけ聴いてあげましょう
 ・有用な情報は伝えてあげましょう
 ・彼らが自らの目的やニーズに気づき動けるようサポートしましょう

 「あなたが近所にいてくれてよかった」「あなたがいると安心感がある」

 そんな風に言われると良いなぁと思います。

 災害ユートピアという言葉があります。大規模災害の後に、人々の善意が呼び覚まされて、立場や境遇を超えて助け合ったり協力し合えるコミュニティが出現することです。

 このように災害時は助け合いモードになりやすいものですが、その中でも皆のコミュニケーションを円滑にするような役割をもったり

 もしくは、孤独に過ごしている人の話し相手になったり、僕たちコーチができることは様々あると思います。

PFAという指針

 あなたがどの立場で関わるとしても、被災者支援をする際に、大変に役にたつのがサイコロジカル・ファースト・エイド(心理的応急処置/PFA)です。

 僕も震災直後に現地入りしたときには、PFAを指針として援助活動をしてきました。PFAとは文字通り、こころのケガの応急処置なのです。災害のショックで人々は、恐怖や不安を感じたり、パニックになったり、打ちのめされたり、呆然としたりするわけです。そんな「こころのケガ」に対する応急処置がPFAです。応急処置と言っても、長期的にも効果が生まれるように工夫されています。

 そしてPFAは災害時に起こる「こころのケガ」の回復を助けるために、その基本的なやり方を、非専門家にもできるようにまとめているものです。

 PFAで実現したいことは

• 苦しんでいる人が安心したり落ち着けるように助ける
• ニーズや心配事を明らかにし、それを満たすことを手伝う
• さらなる危害から守る
• 社会的支援や必要な情報を得られるよう助ける

 要は、相手が落ち着いて、自らのニーズに気づき、社会的リソースを活用できるようにサポートするのです。

見る、聴く、つなぐ

 PFAの基本姿勢は「見る、聴く、つなぐ」です。

 現地に行き、現地の被災状況を見る。緊急にニーズを満たす必要がある被災者がいないか見る。相手にどんなニーズがありそうか良く見る

 私たちを必要としている相手が、自分から何が必要か語ってくれるとは限りませんから、まずはよく観察することが大切です。つぎに

 支援が必要な人に寄り添い、気持ちが落ち着いたり安心するように話を聴く。相手の必要なもの(ニーズ)や困りごとについて理解すべく聴く

 相手の話を聴く目的は、相手の安心とニーズの把握なのです。そして

 相手の基本的ニーズが満たされるようにリソースと繋ぐ。必要な情報と繋ぐ。コミュニティの人々や社会的支援のリソースと繋ぐ。 

 自分で問題に対処するためには、ニーズが満たされること。コミュニティや支援者とつながることが大切なのです。

 心理的応急処置と言いながらも、心の問題を解決するというより、生活の課題を一つずつ乗り越えるサポートをするというイメージかもしれませんね。

 このように、よく見て、よく聴いて、相手のニーズを把握して、社会的なリソースと繋げていくことで、本人が自分で状況に対処できるようになることをサポートするのがPFAなのです。

 そしてそのためには、相手に敬意を持って関わること。相手の自主性や相手の価値観を重んじること。決して無理強いせず、相手に合わせて関わることが大切です。

 この辺りは、ロジャーズの中核3条件をベースにした私たちの普段の関わりと通じるものもありますね。

セルフケアと情報収集

 そして、このような活動をする上で、まずはセルフケアが欠かせません。援助者としての私たちも被災環境からの影響を受けることを避けられないのです。また自分や家族などが被災者になることもあるわけです。

 そのような環境下で対人支援をするわけですから、セルフケアは必須です。ぜひ、自分のニーズに気づき、状態管理をした上で、援助に臨みましょう。決して無理をしないこと。自分もちゃんと人の援助を受けることです。僕も必要なサポートを受けながら、現地で活動してきましたし、逆に現地で支援している人を、後方からサポートするような活動をすることもあります。

 支援する上で、もう一つの課題は正確な情報の収集です。現在何が起きているのか?今後どうなりそうなのか?どこにどんなサービスがあり、何が得られそうなのか?

 可能な限り正確な情報を収集し、共有しながら、援助活動をしたいものです。そのためにも、情報リテラシーは重要ですし、どこから(誰から)正確な情報が得られるのかがわかると良いですね。

 PFAに関しては以下に素晴らしいマニュアルがありますので、ぜひ目を通しておくことをお勧めします。

 今回はPFAを中心に、コーチである私たちができる被災者支援について考えてみました。ぜひ事前に必要な準備をしておきましょう。

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