質問から逃げない(後編)

 前編を読んでくれた方へ。。。
 質問から逃げないというタイトルなのに、質問返しして、逃げてるように見えるかな(笑)。

 逃げないというのは、真正面から取り組むということで、そのためには、質問者の意図や目的を確認するために、こちらも質問せざるを得ないし、相手に答えがありそうなら、それも出してもらった上で、それにプラスアルファできるものがこちらにあるなら、それを出したいのです。

 そうでないと自分なりの回答を相手に提供しても「それは考えました」「それはしてみたんだけど、効果ありませんでした」「他にはありませんか?」みたいな終わり方になっちゃう。もしくは、納得感のない顔をしながら帰っていかれる。もしくは「ありがとうございます!」って言われるけど、相手の人生は変わらない。。。

 ということで、今回は講師として相手の前に立ったときに、参加者からの質問にどう答えるかについての指針をシェアします。

①日々勉強

 いきなり身も蓋もないやつですね。僕はコーチング業界に19年いますが、今でも毎日勉強です。コーチングカウンセリング関連の書籍や論文などだけでもキリがないし、関連領域に手を伸ばしたら、一生の中では到底学び尽くすことはできません。

 僕はコーチングの先生なので、コーチングのことだけでも知りたいと思いながらも、それですら難しいのが現状です。

 だから日々勉強ですね。専門書を読むのも大切ですが、良い先生が書いたわかりやすい教科書を読むのも大切です。情報を知っているだけはなくて、全体が整理されていること。それを相手に合わせてわかりやすい言葉で表現できることが問われているわけです。

 なので、アウトプットを前提に、勉強し、整理をし、さまざまな相手に対する、いろんな切り口での説明の練習をするのです。

 このような姿勢でいると、質問回答も謙虚になります(ならざるを得ません)。コーチングという山を登っているとしたら、僕は7合目を登っていて、参加者は3合目を登っているみたいな状態なわけです。そして相手が登っている3合目は僕が登ったのとは違う場所だし、違う上り方なので、相手の状況をしった上で、こちらのこれまでの経験を活かして一緒に考えるしかないのです。

 そして、それを少しでもうまくやるための日々勉強なわけですね。そして日々勉強していると、専門分野とは言え、不明確なところがたくさんあることに気づいてきます。そうなると、回答内容も回答の仕方も謙虚になると思います。

 それがいいんですよね。断定調で行かずに一緒に考える。そして必要を感じたら「より正確な情報を調べてみますね」と言って後日回答にすれば良いのです

②何をどう答えるためにいるのか

 例えばコーチングカウンセリングに関して知識が膨大になると、参加者からの質問に対しても、延々と関連知識を伝え続けることができるようになってしまいます。

 もしくは知識が乏しかったり曖昧なときは、何も答えることがないような気持ちになってしまいますよね。

 どっちも勿体無い。それを避けるためには、自分の質問回答が何を目的としているかを明らかにしたらいいんです。僕はスクールの場合は

質問者が実際に困っていることに対して、具体的な打ち手があきらかになること

質問回答の目的

 を基本的な目的にしています。相手の状態によっては、違ったことを目的に回答することもなくはないですが、基本線はそれです。

 だから、回答をしすぎてクライアントが混乱したりすることも避けたいですし、クライアントの実践につながらない回答をしても仕方がないわけです。

 例えばこのような姿勢で質疑応答に望むのであれば、「コーチングを実践していく上でのポイント」を整理しておいて、どんな質問が来ても、その「実践ポイント」に結びつけて回答するようなスタイルになるわけです。

 このことが大切なのだと思います。自分の質疑応答の目的に沿った落とし所に回答は誘導すればいいのです。だって、無目的に回答するために時間を使っても勿体無いだけですよね

 だから、質疑応答時間の目的も参加者に開示すれば良いし、目的と無関係な質問については「この時間の趣旨と外れるので、いまは扱いません」と言ってもいいわけです。※もし時間があってそうしたいなら「休み時間に話しませんか」とか「講義後に必要ならききにきてください」としてもよいですね

 目的をベースに、その範囲で回答する。これはシンプルに回答するためにも、質問回答の時間を効果的にするためにもとても大切な考え方ですね


③誰のために答えるか

 質問は質問者のために答える。それが基本です。僕も休み時間に受ける質問など1対1ならそうしてます。全体の前で受けるときは、ちょっと違います。

 僕は先生からこのように教わりました

質問を入り口に、全体に対して、伝える必要のあることを伝えるんだよ

質問回答は何の時間か

 この考えが絶対に正解だというつもりはありませんが、僕はこれを指針にしています。講義講演は参加者全体のための時間なのです。だから質問者の個別具体の事情から質問を皮切りにしながらも、全員に役立つメッセージにしたいわけです。

 全体へのメッセージとは何でしょうか?

 全員に伝えたいこと、知っておいてもらいたいこと。それに結びつけるということです。

質問者「うちの母は頑固者で、全然こちらの話を聞かないんです。これまで色々試みたのですが、まったく言うことを聞かなくて、どうしたらいいんでしょうか」

と質問がされたとしましょうか。その時に考えるのです。この問題を通じて、みんなで何について理解を深められたらいいかな?と

 ・課題の分離をすることが大切
 ・まずは相手を理解することが大切
 ・理解されるような言い方をすることが大切
 ・本当に望んでいることは何か?から考えるのが大切

 その講演のテーマや、参加者たちの状況から考えて、何を伝える時間にしたら一番役立つのかなと考えて、それについて説明する時間にしたらいいのです。

 その際に「ご質問ありがとうございます。これは◯◯という点で、ご参加の皆様多くにとっても考える価値ある質問だと思います。いまからそんな方向で一緒に考えてみたいと思います」※◯◯には上に例を挙げた観点が入ります

 などと伝えてみてもいいですね。そうすると、みんなのために伝えるという枠組みで回答できますし、聞いているほうも何がポイントか理解できてよいと思います。

 僕はこのような考えを持つことで、質問者のことだけを過度に考えて回答しようとすることがなくなりましたし、みんなにとって良さそうなことを、適切な時間枠で回答するという指針が持てて楽になりました。

④答えられなくていい

 質問回答をしていく上で、一番大切だと思うのはこれです。答えられなくていい。

 chatGPTなど生成AIが「本当のような嘘を回答する」事象がありますね。実はあれって、すごい困りものなわけです。それっぽく適当なことを言われると騙されてしまうし、間違った前提で進むようになってしまうわけです。

 それだったら、わからないものはわからないでいいのです。「それはわかりません」「そのことはまだ整理ができてません」「◯◯の部分はわかりますが、××の部分はよくわかりません」とか平然といいましょう。

 全てのことを完璧に知っている人はいないのです。大学の先生などは専門分野についてはよく知っていますが、彼らでもわからないことはあるし、専門家だからこそわからないことを自覚しています。むしろそれがいいのだと思います。

 「先生だから何でも知っていて、何でも教えられるのがいいんだ。そうあるべきなんだ」は叶うことのない夢です。手放しましょう。

 もちろん最初に述べたように、日々勉強して知識を蓄え、整理し、いろんな形で取り出せるようにしていくことは大切です。でもそれは一生かけてコツコツ進めていくことです。私たちはいつでもその道の途中ですから、答えられないことがあるのは当然ですし、それを不正確な形で答えて誤魔化す必要はないのです。

 苦手な人は「わかりません」という練習をしましょう。「わからない」ということになれましょう。

 コーチであれば、それは簡単です。どこに向かって何がやれたら良さそうかの仮説をつくることが僕たちの仕事なのです。

 だから質問に対して、バシッと答えられなくても、その代わりに、質問者の望んでいることを聞き、その実現方法を一緒に考えれば良いのです。

 とは言え、こちらでちゃんと調べたり整理したりして回答した方がいいような質問もあるでしょう。その際は、時間をおいてあらためて回答すればよいのです。

 「それはわからないので今答えられません。自宅に戻ったら関連する資料がありますので、それを確認した上で、次回にそれをお伝えすることにさせてください」とか

 「わかりやすく説明するには、ちょっと整理のための時間が必要です。午後のコマでお伝えするので、そのときを待っていてください」

などと伝えてみるので良いのではないでしょうか。あとは、回答するという約束を忘れないようにすればいいですね(自戒を込めて)

 また

 「詳しいことはわからないので、どなたかわかる方にきいてもらいたいのですが、だれにきいたら良さそうですか」とかでも良いわけですし、

 「いま正確には答えられないのですが、◯◯という本に関連することがあったと思います。よかったら参考にしてください」

 とかでもいいんですよね。あなたが答えなくてもいい。あなたの内側にリソースがなかったら外側のリソースを使えばいい。僕のスマホなど出して「ちょっと今確認しますね」とやることもあります。

 さらに言えば、参加者の中のリソース、参加者の外側のリソース。それらを参加者が活用できるようになることのほうが価値があるのかもしれません。自分だけで何とかしようを手放しましょう。いま先生だけが特権的に知識をもっているような時代(そうあるべき時代)ではないのです。


 僕たちは、どんな質問にも正確な答えを、瞬時にするためにそこにいるのではありません!!むしろ完璧ではない部分を当たり前のように開示しながら、一緒にできることを探していく姿を見てもらった方が良いのではないかと思います。

⑤コーチングが必要

 じつはほとんどの質問に対しては、コーチングをすればいいし、それが一番本質的な関わりだと思っています

質問者「うちの母は頑固者で、全然こちらの話を聞かないんです。これまで色々試みたのですが、まったく言うことを聞かなくて、どうしたらいいんでしょうか」

 これに対して、おかあさんとのコミュニケーションについてアドバイスしたり、質問者の考え方が変わるように諭したり、いろんなことができるわけです。

 でも大切なのは、本当は質問者がどう生きたいのかを明らかにして、そこに向かって動けるようになることなんですよね。

 だって、本当はお母さんから自由に生きたいのかもしれない。だったら、自由に生きる路線で、何がしたいのかを明確にして、それができるようにしつつ、お母さんに対しては、どの範囲でどう関われたらいいのかを考えて整理していけばいいわけです。

例えば次のような質問でも同じです

質問者「自己一致ってどうなっている状態ですか」

 これに対して「カール・ロジャーズによると自己一致の定義は。。。。」などと回答することもできるのですが、

 「それがわかると何に役に立ちそうだと思って質問してくれたのですか?」とか「何に困って、自己一致について考えたいと思ったのか教えてくれますか?」とかきいてみると

 質問者がコーチングしたり、コミュニケーションしている時に、課題として感じたことが出てくる可能性があるわけですね。本当はその課題が扱われることが大切だし、その話をよくよく聞いてみると、別に自己一致の問題では無かったりすることもあるのです。

 ということで、僕は常々、質問にはコーチングをするということを基本としています。

 僕はコーチでありたいのです。相手からの質問は、相手が知りたいことです。それを知りたいと思う背景とか事情が相手にはあるのです。その答えによって、何か人生が変わると思っているわけです。

 だからダイレクトにそれが知りたいし、そのことについて考えたい。そう思っています。そして、どうせだったら、そのプロセスの中で、質問者の人に「自分の中にも答えがあった!!」という体験をして欲しいのです。なんだ、別に質問しなくても、内省したらちゃんと自分の中にも答えがあった!!そんな体験をしてもらうことで、自己肯定感や自己効力感をアップしてほしい。

 こっちのことを先生だと思ってくれてるんなら、先生の前で自分の中にある答えを披露できて「すごい!!私もそれは素晴らしいアイディアだと思います」と言われる体験をしてほしい。

 僕の回答はその後でよい。そう思っています

⑥これは自分がやりたい仕事か?

 最後に大切な問いかけはこれです。自分が心からやりたい仕事なら、質疑応答は楽しいはずです。別に華麗な回答ができなくても、そもそも普段からいっぱい考えているし、セミナー中でも一生懸命考えて回答するし、セミナー後も参加者と延々話したりできるし、一緒に進んでいける。

 なんか、質疑応答がしんどいな、大変だな、どうしよう。と思ったときには、これが本当にやりたい仕事なのか?と考えてみてほしいのです。

 もしそうなら、やりたいことに向けて①から⑤の姿勢で取り組めば、よい結果に結びつくと思います。

 もしあなたの答えが「これはやりたい仕事ではない」だったら、終わりを決めて次に行きましょう。もちろんその際にも①から⑤を参考にしながら、自分なりにやったほうがいいと思うことをするのは大切ですね。

終わりに

 コーチングのルーツの一つはソクラテスです。ソクラテスの得意技は、相手に考えさせること、相手に答えを導かせる関わり方でした。ソクラテス式問答法(ソクラティックメソッド)と呼ばれます。

 コーチはソクラテスのようにありたいのです。自分が教えるのではなく、お互いに論争するのでもなく、相手が自分で答えを導くのを手助けする。それができるから相手から重宝されるのです。

 自分が誰でありたいか。相手にどんな影響を及ぼしたいのか。そのことに向き合うことが大切ですね。承認欲求があってもいいと思いますが、「すごい知識量」とか「立板に水の解説力」とかで承認されるよりも「あの人といると、自分の中にも答えがあるとわかる」とか「あの人といると自信が持てる/自分を好きになれる」という承認の方が魅力的では?と思うのです。

 ぜひ、相手の質問を恐れることなく、質問を入り口にして、一緒にできることを探してみてください。

おしまい

 僕たちと人生を変えるコーチングが学びたい方は


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