揉め事嫌いの僕が、揉め事を扱う仕事に

 今日の記事は、いくらかの教訓は含まれていますが、僕の思い出話のたぐいです。ちゃんとコーチングの勉強したい人は別の記事をどうぞ(笑)

揉め事が嫌いだ

 多くの人は揉め事なんて好きでないと思うけど。僕もそうだ。だいたい揉め事がちゃんと解決したことをほとんど見たことがなかった。

子どもの頃から「話し合い」に希望が持てるような体験が乏しかったのだ。結局一方が我慢したり妥協するか、もしくはお互いにイライラしながら時間が解決してくれるのを待つ。。。でも、嫌な思いをしたほうは心に決めている。

 「お前あのとき、ああ言ったよな。俺は絶対忘れないからな」

 そうなるのが嫌で、なるべくヘラヘラして、問題に巻き込まれないようにしていた時もある。でも、不意打ち的に揉め事に巻き込まれる。だから

 こりゃ。人とは徹底的に距離をとったほうがいいな。

 そうは思っても、一人では生きていけない。だから、面倒な相手にはヘコヘコして、その分、そうでない人間には高圧的になる。最悪だ

 そんな人間がコーチになった。

 自分は自分。他人は他人。それぞれの人と適切な距離感がある。仲良くなる方法もあるし、距離を取る方法もある。揉め事を減らすようなコミュニケーションの取り方もある。

 そんな世界観に希望を感じたし、確かに自分のコミュニケーションも変わった。

 とはいえ当時仕事を手伝った、とある著名コーチは裏にまわると「率直な話し合い」の名のもとにパワハラコミュニケーションを繰り返していたし、結局スキルより人格なんだな、と思わざるを得なかった。

なんで揉め事を扱ってるか

 今でも揉め事が嫌いだ。なるべく平穏に暮らしたい。人がイライラしてるのを見たくないし、自分もイライラしたくない(まだまだイライラすることも多いけど。。。。)

 なのに、今となってはコーチとして率先して「揉め事」を扱っている。仕事のことでも、家族や友人関係のことでも、「揉めてる案件」が持ち込まれると、なんだか自分の出番のような気がして、スイッチが入る

 ひどく揉めてると、嫌でしかたがないけど、やっぱり引き受けてしまう。自分でも、どうしてなんだろうと考えることもある。

 自分が揉め事が嫌いだから、人の「揉め事」も放って置けなくて、手伝えそうなら手伝うのかな。なんだか不思議な感じだが、揉め事嫌いが、揉め事の調停を延々としている。

 すると年々、揉め事を調停するスキルが上がってくる。ますます頼まれ、そして放って置けなくて引き受けてしまう。

 ちなみに、今でも、揉め事が嫌いなのは変わらない。仕事以外では本当は関わりたくない

温泉での教え

 駆け出しコーチだったころ、ある宿泊セミナーに参加したら、温泉で先生と一緒になった。

 どうしてそんな流れになったか忘れたが、風呂に入りながら、カップルセラピーのコツを教えてもらうことになった。

 素晴らしい考え方で、風呂にノートを持って入らなかったことを後悔した。

 けれどもそのおかげで、忘れないようにと頭の中で復唱しまくったため、結局記憶に焼きつくことになった。

 教えのうちの1つは

 「良い関係になることを目的に関わる、ということに合意をとる」

 というものだった。要は「喧嘩の続きがしたいなら、自分たちですればよい。別れるなら弁護士に相談したらよい。仲良くなりたいというなら、そのためには協力します」というポジションを取るわけ。

 この合意さえ取れれば、話し合いの途中で揉め始めても

 「仲良くなるために、話し合いをすると合意しましたよね。非難する形ではなく、相手にわかってもらいたいこととして、伝えてもらえますか?」

 などと介入できるわけだ。ちなみにそれでも非難が止まらなければ

 「今日はやめて、仕切り直しましょう」でも良いわけだし

 「一旦、一人ずつ話をきいて、それぞれ考えや気持ちを整理しませんか?そのあとまた3人で話しましょう」とかやることもできる。

 とても便利なので今も使っている。

突然の掴み合い

 とはいえ、うまくいかない体験もいくつもあった。懇意にしていた小さな通販会社の社長に頼まれて、社内会議のオブザーバーをしたときのこと。

 事前に社長からは「生意気な新人がいて、先輩社員がイライラしているので、なんか揉め始めたら、間に入って話を整理して欲しい。僕もちょっと中立な立場では入りにくくて」と言われていた

 「社長もイライラしてるんだろうけど、優しい人でもあるから、なんとか穏便に済ませたいんだろうな」と思っていた

 会議が始まった。別にみんな普通に話している。仕事だから当たり前といえば当たり前。最初からキレ散らかしているほうが珍しい。「あれ、別に大丈夫そうじゃん」と思った

 一通り議題が進み、このまま終わるかなと思った頃、一人の社員が例の新人に向かって「なんか意見ないの?」と言った。そんな訊き方しなきゃいいのに、と思ったのも束の間、新人は自説を述べ始めた。

 まぁ、正しいといえば正しい意見。部外者としては、そういう意見もあっていいよなと思う。だけど言い方が不味かった。そういう言い方したらうまく行くもんも行かなくなるよね、という感じ。

 案の定「お前、現場分かってないのに、よくそんなこと言えるな。お前にできんのか?」みたいなことになり、新人は「おかしいものはおかしいじゃないですか。良かれと思って言ってるのに、そんな言い方してたら、何も変わりませんよ」とか言ってる。

 あらあらと思っていたら、あっという間に、掴み合いになった。仕方なく僕は掴み合う二人の間に割って入る。

 「とにかく、喧嘩はダメです」

 とか言ってみたけど、二人ともやり合う気満々だし、社長も止める気配ないし、体力のない僕ではどうにもならなかった。

 周りの人に協力を依頼して、二人を引き離してもらった。そして

 「ちょっと僕が、外で新人さんの話をきいてみますから、みなさんは◯◯の件について話をすすめていてもらえますか?」

 とやって、会議室の外に出た。

 そこで新人くんの話をきいたが、こちらも不満だらけで、この会社でやっていく意思がすでに乏しかった。その後、社長との話し合いの結果、会社を辞めることになった。疲労感でいっぱいだった

 反省点は二つあった。1つは掴み合いになる前に、とっとと仕切りに入るべきだったこと。ヒートアップすることなど、予測の範囲内なんだから、遅くとも新人くんが意見を言った直後に「ちょっといいかな?」と介入を始めて、彼の意見を「伝わる言い方」に変える関わりをすれば良かった。

 もう1つの反省は、そもそも会議の前に各々の状態をもっと知ろうとしておくべきだったこと。何の事前情報もプランもなしに現場に行かずに、社長、先輩社員、新人くんのそれぞれの状態をヒアリングした上で、よい話し合いができるようなプランをもっていき、こちらから仕掛けたらよかった。それができるポジションだったのに、何も積極的主体的に取り組まなかった。大反省だった。

 温泉で先生から習ったことも全然活かせていなかった。

 こうして、少しずつ失敗から学んでいった。

お客さんはどう思います?

 揉め事には、いつ何時巻き込まれるか分からない。スクールの卒業生と一緒に近所の居酒屋に行った時のこと。

 小さい店で普段は満席近いのに、久々にはいったその店はガラガラだった。店内には、見慣れない男性スタッフが一人いて

 「あれ、今日は店長はどうしたの?」

 と訊ねると「前の店長は辞めました。今は僕が店長です」という。

 気にせず飲み始めたけど、こちらがオーダーの声をかけても反応がイマイチだし、料理を出すのも遅い。前の店長が感じの良い人だったため、ちょっと残念な気持ちになった。

 とはいえ、卒業生と楽しく飲んでいたら、別のお客さんが来た。おじさんと若い女の子。彼らはカウンターに座って飲み始めた。

 気がついたら、なんか揉めてる。そして僕はカウンターのおじさんに声かけられた。おじさんは新店長を指差しながら、僕に対して

 「お客さん、こいつのことどう思いますか?」

 と言っている。あぁ、この人はオーナーなんだと直感した。僕は酔っていたのか、不用意なことを言った

 「前の店長のほうが良かったですね。元気だったし」

 おじさん(オーナー)は僕の加勢を得て、「ほら、俺のいうとおりだろ!もっと何とかしろよ!」とか言ってる。

 若い新店長は、不服そうな顔で黙ってる。おじさんの隣の女の子は、その様子を困ったような顔で見ている。

 僕はまた直感した。

 この女の子は、おじさん(オーナー)の娘で、新店長の彼女なんだ。で、結婚前提で付き合ってて、オーナーとしては嫌なんだけど、後継者候補として、育てようとしてるんだ

 あーあ。オーナーにきかれるままに変なこと言っちゃったな、と僕は後悔した。

 その後、二人はさらにヒートアップした。「そんな態度なら、もう店やめろよ!」とおじさんが言っている。娘さんに対しても「なんでこんな奴がいいんだ」とか言ってる。

 新店長は不服なのか、何か言い返しそうだ。オーナーはカウンターから立ち上がった。あ、手を出すかもしれない。

 気がついたら僕はオーナーを後ろから羽交い締めにしていた。

 「まぁ待ってくださいよ。ちょっと彼の言い分もきいてあげましょうよ」

 オーナーは、突然の客の介入に驚いたみたいだった「ほっといてくれ」とか言っている。僕は僕で「かかわちゃったんで放っておけません」とか言ってる。

 新店長に言いたいことを言うように促すと、本当に言いたいことを言いはじめた。相当不満が溜まってもいたのだろうが、こんな言い方ではうまくいくものも行かない。娘さんをちらっと見ると、嫌な顔をしている。

 「あのさー。そういう言い方だと伝わらないよ。ね、オーナー。これだと怒っちゃいますよね?」

 とオーナーに声をかける。オーナーは怒ってる。

 「あなたさ。お店任せてもらってるんだから、納得できないこともあるかもしれないけど、分かってもらえるように伝えなきゃ。ほら、何が分かってもらいたいの?」

 と話しかける。オーナーには「あなたの店だから何を言ってもいいと思うけど、一回は店長の話をきいてからにしましょう」と声をかける。

 これが揉め事嫌いの人間のやることかな、と自分でも思う。本当はやりたくない。でも始まったらしょうがない。

 こうして二人に順番に話してもらって、その間に立って交通整理をした。途中からオーナーは羽交い締めしなくても、ちゃんと話をしてくれるようになった。

 とりあえずお互いが言いたかったことを伝え合って、理解し合えたので、「良かったですね。これからも来ますんで、いい店つくってね」と店長に伝えて、自席に戻った。

 卒業生からは「だいじゅさん、いつもこんなことやってるんですか?すごいですね」と言われた。いつもやってるわけがない。体がいくつあっても持たない。

 でも気持ちは晴れやかだった。本当はちゃんと話し合ったら人は分かり合えるのだ。それを助けられる自分になっていることが嬉しいかったのかもしれない。

 帰り際、今日はお会計はいらないと言われた。それだけでなく結構な額のお食事券をいただいた。オーナーからは「こんなに俺の気持ちをわかってもらえたのははじめてだ」と言われた。やっぱりちょっと嬉しかった。

大学野球部 選手と監督

 とある大学の野球部関係者から講演を頼まれたことがある。当日行ってみると、いきなり監督からダメ出しをされた。

 講演を頼まれて、でかけていった僕が、初対面の監督からダメ出しされるという謎の事態。

 ダメ出しの理由は、僕が金髪であるというもの。

 「野球というのは、サッカーなどと違って、精神性が云々」「だからあなたみたいな風貌の人間は指導者として云々」みたいな話を結構強い口調でされる僕。

 こっちから頼んでやらせてもらってるわけでもないし、監督よりは遥かに年下だけど、まぁそれにしても、そんな風に言われる筋合いは何一つなかった。

 「じゃあ帰りますね」と言って帰っても良かったが、僕に依頼してくれた人の想いもある。だから監督にきいてみた

 「どうしましょうか。僕は◯◯さんからご依頼いただいたので伺ったのです。監督が僕の見た目が不適格だから帰れとおっしゃるなら帰りますけど、どうしましょうか」

 監督は一瞬困った顔をした。僕は言った

 「僕自身は野球に関わらせてもらったことはありません。だから野球の常識はわかりません。見た目も監督のご趣味ではないことはわかりました。ただ僕はオリンピックアスリートはじめ、スポーツ選手のメンタルのことには関わってきました。僭越ながら何かお役に立てることはあるのではないかと思ったので、今回の講演のご依頼を受けました。どうでしょう、もし見た目のことに目をつぶっていただけるようなら、予定通り話をして帰ります。もし話の途中で、内容的にも野球の役に立たないと思うなら、遠慮なく言ってください。すぐにやめますから」

 監督は「余計なことを言って失礼した。予定通りお話しください」と言ってきた。

 予定通り講演した。選手の反応を見ながら、監督の苛立ちも多少は理解した。ちょっと温度感が違うんだよね。世代が違うんだろうし、監督のやり方に対する反発もあるのだろう。

 でも選手たちが野球に対するモチベーションを新たにし、チームでチャレンジできるように、僕は一生懸命話した。選手たちの表情は変わり、僕は手応えを感じていた。

 講演が終わると監督が前に出てきた。そしてマイクを持って選手たちに

 「お前ら宮越先生の話を理解できたか!!おれがいつも言ってることと同じだぞ。今日から宮越先生の教えを守って、もっと自主的に行動しろ。俺に言われる前に云々」

 選手たちの表情はたちまち澱んだ。苦笑している選手もいる。僕の話した内容と監督の言っていることは真逆のような気もしたが、ここで監督にそれをいっても仕方ない。

 どうしようかと思っていたら、監督が僕のところにきた

 「宮越先生。先ほどは失礼しました。大変すばらしいお話で、まだ伺いたいこともありますし、お礼もさせてもらいたいので、一席もうけさせていただきたいのですが」

 僕は「ありがとうございます。それなら生徒さんたちとも話がしたいので、何人か同席してもらうことはできませんか?」と言ってみた。

 監督は、キャプテンと、各学年のリーダー格の選手、そして信頼をおいているという女子マネなどにも声をかけてくれ、一緒に監督行きつけの寿司屋にいくことになった。

 乾杯の後、僕は監督に言った「今日はお会いできて良かったです。僕にとっては野球の世界のストイックさに触れる体験でした。先生は監督が長いとききましたが、その情熱はどこからきているんですか」

 監督は野球人としてのバックグラウンドや、学校、そして生徒たちへの想いを熱く語った。その中には、いくつもの苦労話もあった。ひとしきり監督の話を聞いたあと、僕はワイワイと飲んでいる学生たちに話しかけた。

 「君らはさ、監督のこと、ぶっちゃけめんどくさいおじさんだなと思ってるでしょ」

 シーンとなる宴席。「いやいや。大丈夫。そんなことは僕もわかってるし、監督もわかってる。酒の席だし、僕が言っていることだから、監督もこんなことで怒りゃしないよ」

 監督を見てみる。怒ってない。僕は続ける

 「でもさ、君たちは監督の情熱についても知ってるでしょ。こんなに熱いおじさんいないよね」

 僕は監督がチームの練習環境を整備するために、どれだけ身銭を切ったり、OBに頭をさげて回っているかについて彼らに話した。たった今仕入れたばかりの話だ。

 選手たちは頷いている。「だから、うるさいなと思いながらもついてきてるんだもんな?」と問いかける僕。

 「でも、それじゃダメなんだ。監督は君たちにちゃんと意見を言ってほしいと思ってる。言うことをきくだけじゃなくて、チームについても練習についても、自分たちで考えて、その意見をきちんと口にしてほしいと思ってる。。。そうですよね?監督」

 頷かざるを得ない監督。僕は続ける

 「本当にすごいことだと思う。陰ではやれることを全部やりながら、君たちの意見もきこうと思ってくれてる。それなのに君たちはなんで言わないんだ。この人はちょっと頭の硬い昭和のおじさんかもしれないけど、君たちがちゃんと考えを伝えていけばチームは変わっていくんだぞ。さっきも監督は、君たちは中心メンバーで、君たちにチームの未来がかかってると言ってた。だから酒飲んで寿司食ってるだけじゃダメだ。ここでちゃんと監督に普段思ってることをきいてもらって、明日からチームを変えよう。そうしたら監督は君たちの一番の応援者になってくれる。ねぇ監督?」

 監督は笑ってる。僕の強引さに呆れたのかもしれない。でもいい機会だと思ってくれてるようでもあった。

 で、ここからは一人一人に思いを口にしてもらった。言葉足らずのところは、僕が確認を入れ、監督と分かり合えるようにサポートした。

 とても良い夜になった。選手たちは今後の可能性に手応えを感じたと思う。監督にも僕が本当に伝えたかったことを理解してもらえたようだった。

 揉め事嫌いの僕が、揉め事に入っていく時、鉄則にしていることがある。それは全員の味方であろうとすること。一人一人の味方であり、一人一人の幸せのために、みんなに協力してもらおうと動き続けること。そのためには相手の懐に入り、相手の素晴らしい部分を知ろうとする。その上で、こっちも腹を割って、率直に思いを伝える。

 できるだけ早い段階で、そのように動き始めたら、なんとかなる。自分にそう言い聞かせて、動くようにしている。

 おわり

僕たちと人間関係を変えるコーチングコミュニケーションを身に付けたいかたは


 

 



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