ひとりはなんでもできる至福のとき #2
まだ夜が明けたばかりの薄暗い部屋の中、
小さなトランクを手にしたフー子が玄関のドアを開けようとすると
「フーちゃん?」
と物音に気づいたパジャマ姿のダイジョーブタが、
眠い目をこすりながら出てきた。
「もうっ、なんで起きちゃうの?静かに出て行こうと思ったのに〜」
「声かけてくれれば、朝ごはん作ったのに」
キッチンに置いたパンを手にするダイジョーブタに
「いいの!・・・見送られると寂しくなるから、送らなくていいからね!」と、フー子は寂しさを紛らわすように喋り続けた。
「たった2泊だから、全然大丈夫だよ!別に一人でも問題ないし!ひとり旅って流行ってるみたいだしね。私もしたいって思ってたんだよね〜」
「フーちゃん、強がってる?」
「そんなわけないよ!私だっていい大人なんだし、寂しいとかそんなのないし」
誰よりもフー子と長く一緒にいるダイジョーブタは、フー子の気持ちが手にとるようにわかっていた。
「やっぱり、一緒に行こうか?」
「いいって!全然平気だし。デジタル断捨離もしようと思ってるんだ。だからメールも電話もしないから」
「うん、会社のことが気になっても、メールチェックとかしちゃダメだよ。それじゃ有給の意味がないからね」
「・・・うん」
メールを見ないのは仕事が原因なわけじゃないのに・・・
とふと思うフー子だったが、とにかくダイジョーブタに心配かけないようにと、笑顔を向けた。
「行ってきます!」
「気をつけてね。よい旅を!」
パタン、とドアを閉めると、すぐに寂しい気持ちが込み上げてきた。
「大丈夫だよ、ひとりは気楽だし・・・」
せっかくの有給休暇をとったフー子だったが、不安そうな表情を浮かべつつ
駅へと歩き出した。
駅のホームに立ち、やってくる電車を待っている間も、
なんとなく手持ち無沙汰でつい携帯を手に取ろうとしてしまう。
「ダメダメ。まだ地元の駅なのに、もう携帯を気にしちゃうなんて」
電車に乗り込み、空席のボックス席を探して座ると、いつもの癖で話しかけてしまっていた。
「ダイジョーブタ、窓際座ってもいい?
・・・あ、今日はひとりだったっけ・・・」
発車のベルがなり、動き出した車窓に広がる景色を、
フー子はただぼんやりと眺めていた。
<つづく>
イラスト:かわい ひろみ
物語作 :今西 祐子
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