なにをやめるかで、大切にしているものに気づく
久しぶりに予定のない休日。
「天気もいいし、今日は1日部屋の片付けしようかな〜」と
朝からフー子はエプロンをつけて、部屋の掃除をしていた。
どこから手をつけよう・・・と雑誌を手に取り
”整理整頓術”特集のページをめくると、
大きく書かれたキャッチコピーが目に入ってきた。
”まず自分の持ち物を把握する。きちんと知ることが大切です。”
買い物に行くと、とりあえず何かを買わないと気がすまない性格の割に
物を捨てることに罪悪感があるフー子は、いつか使うかも・・・
としまっておくのが癖だった。
クローゼットを開いて物をどんどん床に出していくと
積み重ねた洋服やバックなどでなだれが起き
なだれが落ちたらまたその上に乗せて・・・を繰り返していく。
「フーちゃん!どこにいるの?」
ダイジョーブタの声が、どこからか聞こえてきた。
「ダイジョーブタ、物があふれてて、前がよく見えないよ・・・」
着ていない洋服や、読んでいない本をかきわけて、
ダイジョーブタが近づいてきた。
「クローゼットにつめつめにしていたみたい・・・、
このワンピース、買ったことも覚えていない・・・」
まだタグがついたままのワンピースを広げて、フー子がため息をついた。
「ねえ、それ本当に欲しかったの?」
「んー。ちょうどこういうの流行っててね。それで買ったんだけど、結局買ったことで満足しちゃってたっていうか・・・」
これも覚えていない・・・とカットソーやパンツを手にして
フー子はどこから手をつけていいかわからずに、思わずため息をついた。
ダイジョーブタがふと窓の外をみると、隣に住むマキ、ミキの二人が鼻歌を歌いながら部屋の掃除をしているのが見えた。
「フーちゃん、ちょっと」
ダイジョーブタがフー子の手を取り、
物を踏まないようにしながら玄関の外に出て、マキ、ミキの部屋を
二人で覗くと、物がほとんどなくすっきりしている。
「二人暮らしなのに、持ち物があんなに少ないんだ・・・不思議!」
不思議そうに見るフー子。すると、マキが裁縫箱を取り出して
洋服の綻びをぬい始めた。
「ちょっと聞いてみようよ」ダイジョーブタが部屋をノックした。
「マキさんって、洋服何着もってるの?」
「今着ているのとこれだけよ」
マキが、綻びのできているシャツを広げた。
「それだけ?」フー子が目を丸くした。
「うん。好きなものがはっきりしているからね。それを大切に着ていたらいろんな物も丁寧に扱うようになったって感じかな。」
フー子が部屋を見回すと、
年季の入った家具がきちんとメンテナンスをされてそこにあった。
「持ち物はとにかく減らして、部屋をスッキリさせるのがいいのかもしれないね」
頷きながらフー子が言うと、そうとは限らないかも・・・と
ミキさんが口を開いた。
「フー子ちゃん、大家さんのお宅も行ったことある?」
「うん。すごいたくさん置物とか絵が飾ってあって、
ヨーロッパのお家みたいよね」
「でも居心地いいんでしょ?大家さんがお持ちの物には、ひとつずつ物語があるんだっておっしゃってたわ。」
「”初めて海外に一人旅をした時に出会った物置”とか、そういう物語がね」
それを聞いてフー子はハッとした。
「物を選ぶ時に、私みたいに流行っているから、とかなんとなく買うことはないのかも・・・大事なのは、流行りとかに周りに流されないで、自分が本当に欲しいものを見つけるアンテナをちゃんとたてておくことかもしれないね。」
ダイジョーブタが大きく頷いた。
「自分が大切にしたいものが何かに、気づくことができると思うよ」
イラスト:かわい ひろみ
物語作:今西 祐子
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