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負担になることは、無理して引き受けないこと #5

朝から疲れた表情の自分にショックを受けたフー子は、
リビングに戻って食事を前にしても、気持ちが沈んだままだった。
ダイジョーブタがフー子の前に座り、諭すように話かける。

「さっき、大丈夫、大丈夫って言ったよね」
「・・・うん」
「大丈夫じゃない時って、人はだいたい2回繰り返すんだよ」

ドキッとしたフー子は、反論する言葉が見つからなかった。

「朝ごはんって、今日も1日頑張るために食べるものだって知ってる?」
「・・・そうだよね」
「急いで仕事に行くよりも、今日1日をいい日にするために、おいしく朝食をとろうよ」
フー子はこくんと頷きながら、シャワーを浴びて身だしなみを整えてくる、と立ち上がった。
「たしかに!髪の毛もすごいはねてる!」
フー子の片方だけはねた髪を、ダイジョーブタがやさしく触れてニコッと微笑んだ。

******

柔らかな日差しの下、フー子とダイジョーブタがトイレに乗せた朝食を中庭のテーブルまで運んできた。
「あ、先に食べてて!」
ダイジョーブタが中庭の木に実っているラズベリーをいくつかつまみ、急いで家に戻っていった。

「いただきます」
手を合わせて、改めて朝食を取り始める。

中庭には、こんなに色とりどりの花が咲いてたんだ・・・。
最近時間に追われる日々を過ごしていたからか
花を愛でる時間に追われる日々を過ごしていたからか
花を愛でる時間など全くなかったフー子は、何もかもが新泉に映った。
「フーちゃんの好きなラズベリースムージーも作ったよ」
ダイジョーブタはグラスにきれいな赤いスムージーを注いで持ってきた。
「こんな鮮やかな色になるのって、すごいね」
作りたてのスムージーを飲み込むと、体にスーッとビタミンが取り込まれた感じがしてくる。
「とってもおいしい・・・」
うん、と頷いたダイジョーブタが、フー子をまっすぐに見つめて
大事なことを言うからね、と口を開いた。

「フーちゃん、自分のことは自分がちゃんと大切にしないと」
「え?」
「自分が無理をしてする親切は、長く続かないんだよ。さっき鏡見たでしょ?」
「・・・うん、ひどい顔、してた」

「心から頼まれてもいないのに気を利かせちゃうのは、親切とは違うよ」

「・・・・」
「フーちゃんも苦しいし、相手もまた同じことを繰り返すからいつか苦しくなってしまう。
フーちゃんにとって負担になることを引き受ける必要はないんだ。
それをやってあげちゃったら、相手も成長できなくなっちゃうよね?」
「私、親切なことをしているんだって思い込んでたのかも・・・」
「見分け方はね、それを引き受けてどこまでも心がモヤモヤしないか、だよね」
「心がモヤモヤ?」
「だって、フーちゃんも僕との大事な約束、あったじゃない?」
「そうか・・・私がダイジョーブタとした約束は、小さなことだって思ってた」
「でも、とっても楽しみにしてたでしょ?自分のことを大事にするって、そういうことだよ」
「うん・・・もっと自分を大事にしていいんだね」

「そう!自分を大事にできるから、人にも親切にできるんだよ」

ダイジョーブタの言葉に頷いたフー子が、今日は早く帰るね、とスムージーを飲み干し、フォークとナイフを手にしてゆっくり味わいながらパンケーキを口に運んだ。

負担になることは、無理して引き受けないこと。
それは「親切」とは違うよね
あとでお互いにとって、もっと大きな負担になることもあるよ。

                             <おわり>

イラスト:かわい ひろみ
物語作 :今西  祐子

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