そっちがキミのメインルート#5
「ヤッホー!」
さんかく山の頂上に着いて、
清々しい表情を浮かべながら、フー子が向かいの山に向かって叫んだ。
「登りきったね!気持ちいーーーー!」
ダイジョーブタはリュックからコッヘルやバーナーを出して
さっそく昼ごはんの準備に取り掛かっている。
カレーのレトルトをコッヘルに入れて火にかけると、すぐにいい匂いがしてきた。
「お腹空いた〜!途中からずっとお腹がなってたんだ!」
「それはよかった。さ、すぐに出来るから準備手伝って?」
二人で昼食の準備をしていると、視線の先に登山口で見かけた二人の山ガールがいた。
「上級者ルートを選んだ二人だ。もう食べ終わってる・・・やっぱり着くの早かったんだね。」
少し羨ましそうに見ているフー子の耳に、二人の会話が聞こえてきた。
「やっぱり私たちにはハードだったかも・・・」
「うん・・・ハシゴから足を踏み外した時は、もう終わったって思っちゃった」
「ちゃんと帰れるかな・・・」
「登るだけでバテバテになっちゃったね」
そんな会話を聞いて、いても立ってもいられなくなり、思わずフー子が立ち上がった。
「あの、初心者ルートもとてもよかったですよ!きれいな花も咲いてて気持ちい良いルートでした」
「そうなんですか・・・?」
「上級者ルートより時間はかかるけど、初心者ルートもオススメします!」
フー子の勢いに戸惑う山ガールを見て、いそいそとダイジョーブタの元に
戻ってきた。
フー子の目の前に、カレーライスが置かれた。
早速カレーを頬張りながら、ダイジョーブタが口を開いた。
「ねえ、フーちゃんは初心者ルートを選んでどうだった?」
「うーん・・・最初は時間がかかるし、険しめの方にチャレンジしてみたかったけど、今の私にとっては初心者ルートを選んで正解だったかもって思った」
「そうだよね。長い目で見ると、初心者ルートの方がフーちゃんにとっては最短ルートってこともあるよね」
「最短ルート?どういう意味?」
「時間だけでいうと、最短ルートは上級者の方だよね。
でも、心が疲れてるフーちゃんが今必要なのは、心の栄養だよね」
「うん」
「険しい山道を登って、ハードな登山をするのは体力がある人にとっては
最短だと思う。でも今のフーちゃんがそっちを選んだら・・・」
「もっと体が疲れるところだったかも・・・」
そうだよね、とカレーを皿によそいながら、ダイジョーブタは言葉を選びながら話を続けた。
「ツラい思いをした先にゴールがあるのも大切だよね。
でもさ、今のフーちゃんは心が元気になるのが一番だと思うんだ」
心が元気に・・・フー子はそう呟きながらはっと気づいた。
「・・・花を眺めたり、鳥の声を楽しんだり出来るルートを選ぶのが
今の私にとっては正解だったのかな」
「そうだと思うよ。時間はかかっても、今回のルートを選んだことで
心が豊かになったよね。それで心にエネルギーをチャージできたんだと思うんだ。そうしたら明日の仕事にも、絶対にいい影響が出ると思うんだよね」
「そうか・・・遠回りだと思っても、自分にとっては必要なルートってことがあるんだよね。だからそれが実は最短ルート。」
「でもこれで終わりじゃないよ。山は無事に下山するのが大切だから
カレーで元気をつけて帰りも楽しく行こう!」
「うん・・・このカレーすっごい美味しい!」
久しぶりに食事がおいしい、と思えたことに感動しながら
二人は頂上からの絶景を堪能しつつ山ご飯を堪能していた。
<おわり>
イラスト:かわい ひろみ
物語作 :今西 祐子
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