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独ソ戦と映画

いつから独ソ戦に興味を抱き始めたのか。あまり定かではないが、帰国後の隔離中に見たラリーサ・シェピチコ監督の「処刑の丘」の衝撃はいまだに覚えている。

ソ連は知名度は低いものの、かなり多くの傑作戦争映画を輩出している。恐らく世界に存在する戦争映画の中で三本指に確実に入る、エレム・クリモフの「炎628」。ちなみにラリーサ・シェピチコはクリモフの奥さんである。あとアレクセイ・ゲルマンの映画群も独ソ戦に無意識ながらも重心を置いてるように受け取れる。

ソ連映画はとにかく日本で見ることが困難で、タルコフスキーの作品や(彼のはだいぶ普及してるけど)先程あげた炎628、ミヘイル・カラトジシュヴィリの鶴は翔んでゆく、テンギス・アブラゼの作品群などなど、見れないが故に神格化された傑作たちが数多く存在する。

ソ連映画の評価でよく目にするのは抜き出た映像美である。タルコフスキー作品群や冒頭で衝撃を受けたと書いた処刑の丘など、どれも息を呑む構図とカット回しが作品内に存在し、説明するというよりは魅せることに徹していると感じた。またどの作品も共通して「ソ連の悲しさ」が作品全体を淡く包んでいる印象。正直その映像美と独ソ戦には、ほぼ繋がりはないと感じていたが、最近ミラノ氏に借りた独ソ戦の本を読むうちに、映画表現の工程においても何かしらの影響、もしくは懺悔があったのでは示唆している。

本題

第二次世界大戦を題材にした作品はいくつもある。その中でも注目されるのはアメリカ映画もしくはホロコーストなどに焦点を当てたドイツ映画(アメリカが作ったものも多い)だろう。シンドラーのリスト、プライベートライアン、ライフイズビューティフル、1917などなど。

これらの作品の多くに共通して言えることは、一つの英雄論があることだ。特に第二次世界大戦を題材にしたアメリカ映画はわかりやすい。誰かが何かを救うもしくは倒す。ヒューリーのように限界まで追い詰められた戦車のボスを描いたもの。仲間を助けに行く。1917(第一次世界大戦だけど)のように国の命運を若者が握る、的なものが多い。

英雄的存在に右往左往しつつも最終的に物語が集約し、国として勝利を掴む。先程第二次世界大戦を題材にしたアメリカ映画は…と書いたが、同国のベトナム戦争映画は全く違う作風のものが多いのだ。英雄論とはかけ離れており、むしろ英雄の墜落を描くものが多い。イケイケな学生が地元乗りで志願したら大変なことになった系と言えば安直ではあるが…。ディアハンターや地獄の黙示録、プラトゥーンやフルメタルジャケットなど、救われない地獄のような作品が多い。

では独ソ戦に勝利したソ連映画に、英雄論は存在するのか?

アメリカ映画ほど露骨には無い(もちろん存在する作品もあるはず。今まで見てきた中ではの話です)。

勝ったはずなのに不思議である。そう考えればベトナム戦争映画に近しい雰囲気も感じる。この世の終わりのような希望もない世界。ただベトナム戦争映画ほどわかりやすくなく、より荘厳で見れるものなら見てみな…という待ちの姿勢を感じる。もしかしたらソビエトの監視下の元で、戦争を取り扱った作品を簡単に作れなかった可能性もある。そこはもっと勉強したい点。

独ソ戦は人類史上最大の戦いと言われるほどで、ソ連の死者は2700万人らしい。ちなみに今の東京の人口は1400万人なので、その恐ろしさがわかる。終戦間際には女も子供も全員駆り出されてたらしい。タルコフスキーの初期作、「僕の村は戦場だった」でも、戦意に駆られる幼い男の子が描かれており、独ソ戦がいかに泥沼化し限界を迎えていたかを目の当たりにできる。

絶滅戦争と当事者が呼んでいた程の大戦争を勝ち抜いた国として、もう少し英雄論の見える映画を作っていてもおかしくないが、何故かどの作品も(のちに傑作と呼ばれる物)敗戦国のような空虚さと、自分自身(描かれる兵隊自身、もしくは作品を作った監督自身)との葛藤が滲み出ている印象である。その点、第二次世界大戦後のソ連の管理の厳しさが伺えるので、対戦後の流れを勉強した上でなければここは結論づけれないだろう。

これはかなり個人的な予想だが、あまりにも戦死者と被害が大きすぎたのも、空虚さの要因なのではと思う。いや勝ったけどさ…と思ってしまう程の被害(精神的なものも含め)を受けていたとしたら、割とそういった社会の流れに繊細であるべき映画人が、意気揚々と勝利映画を作ることはできまい(アメリカがそうだということじゃないです…)。

タルコフスキーも晩年はお母さんの話や哲学の話など、かなり内向的で空想的な内容に入り込んでいる印象であり、むしろソ連で生きる現実を忘却したい意志すら感じる作風だ。

もしかしたら、映画人にとって独ソ戦はあまりにも大きすぎる傷だったのかも。戦後すぐに映画を出した人がいないかを調べてみるのも面白くなりそう。

繰り返しになるが、独ソ戦を描いた映画にこそ戦争の恐ろしさは詰まっていると感じる。より生々しく残酷な、そして空虚で、いかに人間が意味のない殺し合いをしたのかを、目撃者として目にできる。

現代を生きる人間として、人類史上類を見ない殺し合いが起こった事実は、目に焼き付けておかねばと思う。

余談だがポーランド映画もかなり素晴らしい。

卒論でイタリアドイツ映画を狙っているが、時間があればポーランド、あとはチェコとかも探っていきたい。

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