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家の中に警察がいた

毎年作る職場のチラシを
利用者と職員で近隣の方に配る。
活動や作業の様子が書かれ、期間限定製品の申込書がついている。

 
大抵は留守だ。
配る時間帯は日中だから仕方ない。
居留守を使われたり、露骨に迷惑がられることもある。
たまにあたたかい反応をされると逆にビックリする。

それでも私達はポストに入れるだけにはしない。
必ずチャイムを鳴らし、相手がいるか確認し、一軒一軒に挨拶をする。
そういう地道さがやがて実を結ぶかもしれないから。

 
その日もほとんど留守か、「忙しいからポストに勝手に入れておいて。」といった反応だった。

 
あと二軒で終わり、というところで
ある方からあたたかな反応をされた。
なんと、その方は一緒に配りに行った利用者の家族と同僚だという。

知人ゆえの優しい反応か。
でもいい。
例えそうだとしても
それまでろくに相手にされなかったから嬉しかった。

 
さぁ、あと一軒で今日は終わりだ。
寒さでやる気低下の利用者を奮い立たせる。
私だって寒い。早くおわして早く戻りたい。

 
最後の家は扉が開いていた。
ということは家の人がいるのだ。
利用者にチャイムを鳴らすよう伝えた。

 
中から出てきたのは………

まさかの警察だった。

 
予想だにしない展開に利用者は硬直し、私はドキドキした。

「このお宅に何かご用ですか?」

私は一部始終話した。

 
「そちらの施設をこちらの家の方が利用されているんですか?」

否定した。
訪問したのさえ初めてだ。

 
「今家の方に事情を聞いているのでお会いすることはできないんですよ。」

私と利用者はチラシをポストに入れて
そそくさと後にした。

 
なるほど、その家から少し離れた場所にパトカーが停まっていた。
ちょうどチャイムを鳴らした時は死角で気づかなかった。

 
足早に立ち去ってから利用者は口を開く。

「強盗かな?詐欺かな?部屋の奥に科捜研の女いたのかな?」
「牛乳とあんパンで張り込みかな?犯人はカツ丼食べてる?」

呑気なものだ。
だけどその呑気さに救われた。

この出来事を共有できる人がいてよかった。

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