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緊急エリアメールが鳴った日々

「今日は防災の日。関東大震災から100年経ちました。」

そう言って前施設長は市の防災マップやプリントをみんなに配った。

 
緊急時の時はどこに逃げるか。何をしたらいいか。
施設近辺で土地が低い場所はどこか。

そんなことを確認した翌週の月曜日のこと。
その日は週はじめなのに、朝から雨が降っていた。出ばなを挫かれる感覚だ。

 
午前中、車で利用者と買い物に出掛けたが
買い物をしている間に雨は強まり
施設に戻ってからはまるで嵐のように雨風が強まった。

 
天気予報を見る限りでは
ここまでの雨風ではなかったため
窓の外を見ては驚いた。

 
お昼を食べ出すと
一斉にメールが鳴る。
ティンティロティンティロ鳴り出すから驚いた。
基本的にはみんなマナーモードにしている。

 
私はポケットからスマホを取りだした。

どうやら短時間で雨量がものすごいらしく、土砂崩れに気をつけた方がいい場所や避難エリアが書かれていた。

まさかそんなにひどい雨とは思わなかった。
だが確かに窓の外はひどい天気だ。

 
エリアメールの音が苦手な利用者はお昼の気分どころではなくなった。
私はよしよしと慰めた。

 
雨風は確かにひどく
更に追加でエリアメールが来た。
LINE情報によると、どうやら県内各地で雨風がひどいらしい。

ベランダは冠水状態でおびただしい水がたまり、流れきれなくなっていた。

 
利用者は作業どころではない。

「真咲さん、雨見てみろよ、ヤベーよ。」

そう言って私の服の裾を掴む。

 
作業をしながらも気が気じゃなかったのは私も同じだ。
利用者の前だから気を張っていたにすぎない。

 
やがて風はおさまった。
送迎はなんとか行けそうだった。

「真咲さん、送迎行ける?代わりますか?」

優しいリーダーはそう言ってくれたけど
雨くらいで甘えていられない。

 
ヒヤヒヤしながら送迎に行った。
空はまだ黒い雲で覆われていたし、雨は降っていた。

「さっきは雨すごかったですね。」とか「○○方面が今ひどいらしいです。」とか保護者と話し
気をつけて帰りましょうと言い合った。

場所や時間帯によっては道路は冠水していたらしい。

 
 
次の日の火曜日は日中は気温がグッと上がり、暑かったのに
夜になると激しい雷雨だった。
地響きするような雷や激しい光の雷にビクッとする。

場所によっては停電したり、落雷したらしい。

 
 
二度あることは三度ある。

水曜日は朝から雲行きが怪しく、降ったり止んだりを繰り返していた。
送迎出発前になるとどしゃ降りになり、私は頭を抱えた。
その日、送迎車は遠くに停まっていたから。

 
気休めにジャンパーを着て、大きな傘を持ち、意を決して送迎車に向かう。
打ちつけるような雨だ。
レインシューズを履いているから靴下はやられないが
車に乗り込むだけでずぶ濡れだ。

 
うちの職場は玄関前に車を停められない。
遠くに停めている駐車場から近くに停め直し
今度は利用者を傘で一人ずつ誘導する。

 
車に向かうまでの間
敷地内は冠水し、水たまりや浅い川を渡るような感覚で利用者を席に誘導した。
最後に自分が乗り込む。やはりずぶ濡れだ。

 
気を引き締めて車の運転を始めた。
前がよく見えない。
雨が強い。

慌てずにゆっくり行こう。

そう思ったら
施設を出発して割とすぐに道が冠水しており、早速私は洗礼を受けた。

 
えぇぇぇぇぇ。

冠水した道を通り過ぎて別道に入るとそこもまた冠水していた。

 
冠水していた道が大きな道だったので私は焦った。
これは迂回するべきか、はたまたこのまま正規ルートを行くべきか。

 
走るごとに水がタイヤからブワァと出る。
前の車もバシャバシャタイヤから水を出している。

 
迷った。
よりによってその日はロングルートの送迎だったからだ。

 
徐行しながら私は賭けに出た。
いつもの送迎ルートを選択した。

すると途中から冠水がいくらかマシになった。
ラッキーだった。

 
一人目の送迎は15分遅れて到着。
よりによってこの日から送迎場所が新しくなり、余裕を持って到着したかったのにとんだ目に合った。

 
移動支援の方は移動支援の方で冠水により迂回路が渋滞しており
到着が40分も遅れた。

 
いつも移動支援の方は必ず先に着いているので
渋滞が想像以上だったと分かる。

 
平謝りされたが、冠水が本当にひどかったですねと言い合い
利用者の日中の様子を伝えて引き渡した。

お互いに気をつけて運転しましょうと別れた。

 
新施設長から電話が来た。
どうやらこの先の送迎正規ルートは更に冠水しているらしい。

 
急遽初めての道を通り、迂回して目的地を目指す。
二人目の利用者の送迎場所は冠水により変更になった。

 
他の利用者はたまたま休みで
その休みの利用者は遠方だったため休みでたまたまラッキーだった。

もしもその人も乗っていたら大幅に戻りは遅くなったし、冠水リスクは上がっただろう。

 
緊急エリアメールはまた何回も届いた。
なんて週なんだ。

防災マップをもらったのがもはやフラグに思えてくる。

 
雨はやや弱まり
なんとか迂回して新しい目的地に着いた。
二人目はあまり濡れずにすみ、いいタイミングだった。
保護者と気をつけて運転しましょうと言い合い、別れた。

 
施設に戻る道中
やはり道は冠水していた。

冠水箇所が多すぎて
もはやどの道なら安心かサッパリ分からなかった。

 
施設に戻る頃には雨が弱まっていた。
雨に振り回されたとんだ時間だった。

送迎ルートはどこも大変だったらしく
みんな戻りは遅くなった。
それから他の業務をこなしたら
あっさり残業になった。

 
たまたまだが
月曜日も火曜日も緊急会議があり、残業だった。なんてこった。

 
仕事帰り、空にはうっすらと虹がかかっていた。
同僚と空を見上げた。

一日が無事に終わり、ホッとした。

 
帰り道はどこを通るか迷ったが
もう冠水はしておらず、なんとか帰宅できた。よかった。

 
今週は台風の影響で天気は悪そうだ。
明日はどんな日になるかな。

いい日になるかな。


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