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エッセイ 告〇 その3 終


私は、意見を噛みしめてから
「料理は地球 確かにね そんな事考えたこともなかった 
言われてみればな 納得ですね~」と
そのセンスに感心したような笑顔を見せて、返答した。

芸術家は、お前と俺が違うんだから、そりゃそうだろという顔。
そんなんじゃ喜ばないよという素振りで、また目を瞑る。

私は「食べるということを、今一度考えてもらうというも大事だし
   国産に拘らず、外国産の野菜など使い 
   見知らぬ国を知る機会にするのはいいですね 子供の勉強になるし
   知るという事は差別をなくす第一歩になりますし 
   こういうの打ち出すということで、どうですか?
   反対の意見があれば教えていただきたいです」

芸術家の意見を自分が考えたように発言した。
自分を自身を浅ましく思わせたかったし、
似たような奴に嫌な思いをさせられた経験なんで誰にでもあるもの。
可能なら、その記憶をフラッシュバックさせたかった。
なんでもいいから、イライラさせて、隙を生みたかった。

若者は聞いてない素振り、老婆は私という巨大な不条理を前に虚無に
芸術家は目を開き、私を睨む。 

私は気にせず続ける
「反対がなければ、もう一度自分で意見をブラッシュアップして
 報告しますけどけど」

露出狂のような手柄取りに、芸術家がやっと吠えた。

「地球をイメージするって、どうやるの? 具体的にイメージできてる?
 地球を表すなら、自由も表さないとならなし、全員違って全員いいって
 メッセージも入るはずだし ただ、地球を表してもいみないよ
 地球にいる人間の進む未来を表さないと 
 俺がいってる地球ってそういうこと わかってる?」

最後の方で、この意見は自分のだという主張を織り交ぜられて
私は瞬間的にイライラしたが、まぁこれは想定内。

「そこなんですよね
 そこをどうするかっていうのは考えないと思ってたんですよ」

ハッキリとどこなのかはわからないけど同意した姿勢を見せる。

芸術家は完全に私を見下して、教えてやるよの冷笑と共に話し出す。
「自由って選べるってことだから、小鉢をヒジキでも半熟卵でもトロロでも
 何種類か用意してさぁ そこに自由を作るんだよ
 まぁ作った自由は自由なのかってところはあるから 話すのがそこだよ
 わかってる? 自由って何よ」

自分で言っている中で自分の疑問を提示する。
何言ってるの?というのを雰囲気でごまかす 
これがそれなりにモテる秘訣だ。
芸術家はそれなりの人にそれなりにモテてきたんだろう。
それなりと言っても、街ですれ違う分には極上だし
職場では人気者だ。 

それなりにも全く届かない過去と今。
わかっていても出来ない苦痛。 芸術家を必ずやらなければならない。

やるためには懐に入らなければならない。

「選択する場所が一度しかなければ、自由とは言えない。
 ただ、選択する箇所を複数にすれば、作られた自由の中でも
 自分だけの道を 個性を出せる それは自由といっていい気がします
 ただ、どこに選択肢を作ればいいかはわからないです 理想論ですかね」

芸術家は目を瞑り、手を額の前に持ってきて指を動かしだした。
芸術家に憧れている人がいたら真似したいポーズ。
やがて、指が止まり 

「米かパン 米も各県の米を用意して、もちろん玄米も用意
 パンも何種類か用意 そんな感じで一個一個細かく・・」

やれる。 
「定食券ですね。 滅茶苦茶いいじゃないですか。 なんていうか
 老人にも配る意味を理解できるというか 
 奇をてらった券なんて意味ないんですよね メッセージが届かない
 平凡な券でこそ メッセージが届くというものです。
 それで行きましょう さすが芸術家さん」

世にいうネオ褒め殺しだ。
芸術家にとって、センスのない中年男性に絶賛されることほど、
嫌なことはない。  
わかられてはならない。わからないと言わせないのだ。
芸術家は何歳になっても若いと思っていたいのだ。 
最先端でいたいのだ。  

芸術家の唇が震えている。
私は尊敬のまなざしで、芸術家を見続ける。 

世にいうネオ褒め目だ。 もう少しだ。 ネオ褒め握手でやれる。

ゆっくり芸術家に近づくと
あと一歩というところで、急に若者が話し出した。
「定食券だと、1万円ぶん配ったら、10日分とかになるじゃん。
 お肉券なら1万円ぶん配ったら、1日で使うかもしれないし
 その方が貰った感じするよ。 
 自分の金じゃ買わない肉買うとかの方がいい 中年さんの意見に賛成」

狩人による突然の仲間にしれください発言。
世界初の事が起きて、かなり動揺する私。
けむに巻ければよかったのに、完全勝利を手にすることが出来るとは
人生何があるかわからない。 諦めないでゴネてみるもんだ。

老婆は、膝をさすり、芸術家はリップを塗っている。
全員興味がなくなっていた。 
そして、お肉券は決定し上へ報告することに
若者の目が死んでいないことが若干気になったが、
私は完全勝利の美酒に酔いしれた。

そして世間に発表したら、あの反応だ。
若者に嵌められたと、そこで気が付く。

完全勝利に浮かれてしまってかんぜんしょうr
お肉券は元は帰るために考えた意見だったことを忘れてしまっていた。

どんな理由であれ、
自分で考えた意見には情が湧くというのも作用したのかもしれない。

完全勝利は地獄の始まり。
案の定、呼び出され、言い訳も纏まらないまま会議室に向かうと

老婆はミニスカートをはき、芸術家は8ミリビデオを回し
若者は机の上に座っている。
全員、ニヤニヤニヤニヤしている。

私は言った。
「予想通りの展開になりましたね。 いや、予想以上かな
 怒り、失望したでしょう それが大事で そこで気が付くんですよ
 自分の身は自分で守らないとならないということに。
 1人1人の意識を最大限に高めるための券とも言えますね。
 それが立ち向かう上で、最強の手段です 
 自分の評価を高めたい人には出せない券です。
 嫌われて,馬鹿にされてもいいという覚悟ないと出せない券です。
 私たちは私たちの評価を落とすことによって、
 大事なものを守ったのです 
 胸を張って馬鹿にされましょう 胸を張って首になりましょう
 100年後も笑われましょう 
 100年後、自分たちを笑う社会があるなら、私たちの勝ちです
 胸を張りましょう」

その場で、責任を押し付けられるのが嫌で、自己保身の塊の言葉たち
醜いだけの感情から出た言葉たちだが、あながち間違っていないと思う。
一石何鳥なんてろくなことがない。
一石一鳥だ。 皆さんには自分だけを守ることをしてほしい。
しばらくは腹が立つことしか起きない。
全ての怒りを、自分を守るために使ってください。

落ち着いたら、若者と老婆と芸術家と私とアナタでバーベキューに行こう

おしまい

~~~~~~~~~

あとがき

小説に憧れたけど、小説にもならない、よくわからない文を書いた。
とても面白かったけど、非常に疲れた。
こんなもんでも疲れることに、驚いた。
お肉券から派生して定食券のアレコレを書きたくて書き始めてみたものの
書き始めると、枝が伸びて伸びて 纏まらない。
なんでも自由にできる権力を持ったら、
舞台でやりたいくらい好きな話にはなった。

書いてみると、小説として出版されている文の凄みがわかる。
夏目漱石さんは夏目漱石さんの本を読まず、あそこまで書いたんだ。とか
真似するものが少ない中で、あのクオリティーはさすがだ。とか

自分は、台詞を書くのが好きなんだということも知れた。

このご時世、生活の事を考えると気が滅入るけども
失敗しそうなやってないことをやるには最適だ。
誰も覚えてないし、挑戦したということだけが残る

馬鹿にされないことが確定している失敗ほどありがたいものはない

この時期に、力を蓄えようとすると気づかれしそうなので
自分はご自愛のみでやろうと思っています。

自分はアナタを好きなので、
自分の好きなアナタに、アナタが優しくしてくれたら、自分は嬉しいです。

                        冨田雄大



 



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