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ハイバイワークショップ『手を読む』を見学

ハイバイワークショップ『手を読む』を見学してきました。
これは一般の人向けに脚本家で演出家の岩井秀人さんがやっているワークショップの一つです。
彼の代表作の一つでもる『手』の本読みをやるというもの。
 
参加者は、SNSなどで応募してきた人たち。
俳優、教師、看護士、学生、ニート、大学講師、娘の代理の主婦、など職業も年齢もさまざまな人たち10人。
男女比はちょっと女性が多い感じでした。
演劇経験がある人もいれば、そうでない人もいます。
 
最初は自己紹介から始まりました。
僕のような見学者も何人かいて、同じように自己紹介しました。
みなさん初めて出会う人たちなので、最初はちょっと緊張している感じでしたが、岩井さんのフランクな話術でみるみる緊張が解けていきます。
自己紹介の時に、自分の目的を大きくして言ってくださいという岩井さんの提案がありもりあがりました。
ちょっとフィクション入れていいということが、自己紹介の緊張を解いたと思います。
 
ファシリテートする岩井さんがそれらの参加者の人たちに適当に役をふりわけて、本読みがスタートです。
 
『本読み』とは、読んで字のごとく、脚本を声に出して読むということです。
 
俳優にとっても、実際に声に出して読み、他の俳優の出す声でセリフを聞いたときに自分の中で起きるものを感じることができます。
そして脚本家にとっては、自分が書いたセリフを人に音読してもらうことで、客観的な視点で作品を見ることができるので、とても参考になります。
実際に岩井さんも、11月に劇団ハイバイで公演するための台本修正作業に参考にさせてもらうと言っていました。
 
そんな感じで始まった本読みですが、自己紹介では演劇から離れて二十年とか、昔ちょっとだけやったことがあるくらいです、と言っていた参加者の人たちが、やたらうまいのに驚かされました。
俳優さんがうまいのは当然なんですが、素人だと言っていた人たちが、見事にセリフを発するのです。
なんなんだ、これはって感じです。
素人なんて言ったのは、嘘やろッ! と、つっこみたくなったくらいです。
 
うまいだけではなく、存在感がすごかったです。
生活者の存在感というか、生きていた時間が彼らの肉体や表情にあるわけです。
セリフを読むということをしているだけなんですが、じわじわと彼らから役の存在が立ち上がってきました。
 
岩井さんが、アドバイスをして、同じところを返したり、配役を代えたりしながら脚本をぐいぐい読んで行きます。
 
参加者の人たちも、しだいしだいに乗ってきて、身振り手振りも加わっての、熱演になりました。
 
男性の役を女性が読んだり、逆もありました。そういうのもふくめて、役を演じるということの楽しさを参加者の人たちが感じて演じているのが伝わって来ました。
 
午後五時から始まったのですが、気がついたら九時でした。
僕は舞台を観に行っても、だめなやつだと10分でいらいらし始めて、ついにはいたたまれなくなって劇場を出てしまうような堪え性のない男です。
それが素人の人たちもまじった本読みを、集中を切らすことなく、最後まで見続けていました。
それくらい面白かったのです。
 
これもまた演劇だと、思いました。
 
演劇を見る側だったファンの人が、演じる側をやることで、さらに演劇を好きになったりする効果もあります。
演劇は、さらにコアなファンを得ることになるわけです。
 
いま大劇場小劇場もふくめて、演劇のチケットの値段はかなり高くなっています。
不景気な日本社会のなかにあり、エンタメ業界も厳しくて、チケットの値段をあげざるを得ないということもわかります。
しかしなかなか演劇を観に行くことができなくなっているというのも現実です。
これでは演劇に触れたくても、なかなか触れられないということになります。
これでは演劇のすそ野は広がりません。先細っていくでしょう。
 
岩井さんは、そんな演劇の世界に、こういう演劇があってもいいんじゃないかという提案をしているのではないかと思います。
 
彼がプロデュースしている『いきなり本読み』も、この『本読み』の企画も、それぞれに演劇のすそ野を広げる活動になっているのではないでしょうか。
 
岩井さんだけでなく、脚本家は、この本読みの企画をどんどんやって演劇のすそ野をますます広げていくべきだと思いました。
 
演出家や脚本家のみなさん、低料金チケットで、一般参加の本読み企画をバンバンやりましょう。
小学生や中学生、高校生対象でいいと思います。
これはきっと演劇という公園への入り口になるはずです。


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