吐き出すために、吸うように、書いている
ぼくは好奇心が旺盛だ。
知りたい、という欲求が強い。
本当にすべての感情を知りたいと思っている。興味が湧いて、知りたいと思ったことを知ることに対する衝動はものすごいと思う。
ぼくが世界を切り取ってみるから、なにを思うか。だれかがなにかを感じてくれたらと思う。
※
”知る”ということは、人それぞれ形が違う。
ぼくの場合は、自分自身で体感することももちろん大事にしているが、感情を聞いたり、知ったり、そうしてその世界を感じて、自分がどう見るかを、文章にどう切り取るかが楽しみで仕方がない。
ぼくは今日、人生で初めて”たばこを吸ってみたい”と思った。
ドライブ・マイ・カー、という映画を観た。
物語のなかでは、たばこが吸われていた。
吐き出すために、吸う。そんなふうに見えた。
心とか、感情とか、本来見えないものを、隠していることを、だれにも知られたくないけど、知ってほしいものを。
そんなふうに見える形にできるのがたばこなんじゃないかと思えた。
たばこを吸っている者同士でしかけっしてわからない、通じ合えるものがあるんじゃないかと思えた。
たばこを吸う人。1日1ケース吸う人。数本しか吸わない人。もらいタバコする人。飲んでいるときだけ吸いたくなる人。コーヒーを飲みながら一緒に吸う人。疲れたら吸う人。朝起きて吸う人。暇だから吸う人。イライラしたら吸う人。
きっといろんな人がいるなと思うし、ただ同時に、たばこを吸うということは呼吸をするようなものなのかなとも思う。携帯を逐一見てしまうのと同じ。ただの生理現象。
別に理由もなければ、そこに意味もなんてない。
そこにあったから吸った。それが続いている。やめる理由もない、やめる必要性だって特に見当たらない。
どちらかはわからないし、どちらでもないかもしれない。吸ってみるしかなかった。
※
ぼくは強く惹かれていた。
吸うことでなにを感じるかを感じてみたくなった。吐き出してみたくなった。
それが自分の抱えているなにかなのか、煙なのか、なんなのかはわからない。
気がつけば、コンビニいた。
わからないから名前を知っているものを選んだ。セブンスター。
昔コンビニでアルバイトをしていたときのことを思い出す。銘柄で頼んでくる人が多いので、わからなくて、ちょっと覚えようかなと思ったが、すぐに諦めた。興味がないことは、仕事でも覚える気がまったく起こらないことを知った。ちょうど消防士のとき地理を覚えなかったように。
ぼくは仕事だからといって分別できるほど、器用でもなければ、柔軟でもなかった。そんなことを思い出していた。
たばこを買う。はじめての経験だった。なんだかいけないことをしているような気がした。偏見が残っているようだ。ぼくも人間だからしょうがない。
ビニールを剥ぎ取り、口を開く。たばこを一本つまみ、引き出して、人差し指と中指で挟んでみた。ビルのガラスに映った自分を見る。なんだか様になっていない。
くわえてみる。
たばこをくわえたのも初めてだった。
なぜだか緊張する。
ああ…
気がついたときぼくはもうたばこをくわえていなかった。
あるべきものがない。
だから落としたたばこを拾い直して、おもいっきり吸った。ちょっとだけたばこの味がした気がした。
※
前にコンビニで、たばこを吸っている女性を見かけたことがある。たしか朝の8時頃のことだった。
その女性は30代前半くらいで、細身で身長が高めだった。色は白くて、切れ目だった。たぶん仕事に行く前に、一服していたんだえろう。きっと寝起きで肩を丸めて気だるそうに、吸っていた。
ななめ上を見ながら、吸って、吐き出していた。
彼女は、空を見ていた。
綺麗だと思った。
ぼくは一吸いもしたことがない。ただ単に吸わない人生を歩んでみたいと思ったのと、においが得意ではなかった。服につくのは好まない。あんまりたばこが充満した中にいると頭が痛くなる。
だからたばこはそんなに好きではない。
たばこを吸う人を嫌だと思ったことはない。吸っていても好きな人もいる。そこに差はない。
ただ、いいなと思うことはなかった。綺麗だと思ったことはなかった。
でもとても綺麗だった。美しかった。
見惚れてしまった。
キスを、したくなった。
※
ああ、きょうも書けた。
だれかがたばこを吸って、吐き出すように。
ぼくは書いて、吐き出しているみたいだ。
それでいい。これからも変わることもない。変える必要もない。
ぼくは吸いたいと思ったら、やっぱり書きたいのだとわかった。
わるくない。
「本当に他人を見たいと望むなら、自分自身を深くまっすぐ見つめるしかないんです。僕はそう思います」
ああ、そうだ。
世界を文章で切り取るために、ぼくはまっすぐに書くことと向かい合っていこう。
そうやって生きていくしかなんだ。
ぼくは書きたい人なんだから。
悩んで、悩んで、悩めばいい。大事なものを迷わないように、悩んで生きよう。
大丈夫、ぼくらはきっと大丈夫だ。
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迷うあなたへ
悩む物書きより
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ドライブ・マイ・カー(女のいない男たちより)
代筆屋の仕事
執筆した小説
代筆屋をやる理由
あとんす!きっとうまくいく