私のあだ名が『ウンコマン』になった話
小学2年生の時の話である。
昼休み、教室で読書をしていると、複数の同級生が威圧的な口調で私に話しかけてきた。
「大悟お前ウンコ流してないじゃろ!流せよ!」
「…へ?」
あまりにも突拍子もない話なので、一瞬理解出来なかった。
私は、今日学校で大便をした覚えは無い。
大便は今朝、自宅のトイレでひねり出してきたはずだ。
「俺ウンコしてないよ?」
私がそう答えると同級生は私に向かって声を荒げた。
「いいからトイレ行け!」
問答無用とばかりに私は男子トイレに連れて行かされた。
「トイレ見てみぃ!お前のウンコがあるじゃんか!」
同級生に言われた私は、男子トイレの一番奥にある大便用の個室を覗いてみる。
便器の中には大層立派な一本の大便が流されずに放置されていた。
これは流すには惜しい立派なブツだ…。誰が産み出したのかは知らないが、もしかしたらこのウンコはわざと流さなかったのではなかろうか。
そう考えさせてしまうほどの特盛な大便だった。
しかし何故、この立派な大便が私の出した大便と決めつけられたのだろうか。
「これ俺のウンコじゃないんだけど…」
大便を指差しながら私はポツリと呟いた。
しかし同級生たちは私の発言に全く聞く耳を持たない。
「いいから早く流せよ!お前のウンコ!」
「えぇ…」
どういうわけか同級生たちの中では、この大便は【大悟が流さなかった大便】という図式が成り立っているのだ。
これが私のひねり出した大便ではないという事は、どう弁明しようが信じてもらえそうにない。
『やってもいないことを証明すること』は『やったことを証明する』よりも遥かに難しいことだ。
私は幾ばくかの不満を感じたが、同級生に言われるがまま大便を流すことにした。
冤罪を晴らそうと意地を張り、大便を流すまでトイレに軟禁状態にされるよりはマシだ。昼休みが終わってしまう。
私は無言でトイレに備わっている水栓レバーを下に降ろした。
便器の側面から勢いよく水流が溢れ出し、大便を押し流す。
誰のものか分からない立派な大便は、水流と共に音を立てながら下水道に繋がる管の中へと消えていった。
「今度からちゃんとウンコ流せよ!ウンコマン!」
大便が流されたのを確認した同級生は、唾を吐くように私に汚い言葉を浴びせ、その場を去って行った。
その後、トイレから教室に戻ると、私の悪評が広まっていた。
『大悟はウンコを流さない汚い奴』という実に不名誉かつ、事実無根の話が教室全体に広まっていたのだ。
その日を境に、私はしばらくの間『ウンコマン』と呼ばれ続けた。
世界は理不尽に満ち溢れている。
子供ながらに私はそう思ったのだ。
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