見出し画像

【♯2】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用━ 【第1章 過去とのつながり】 -1

第1章 過去とのつながり

 

 「はじめに」でも述べたように、私たちは写真を見ることを通して過去に撮影された対象物と繋がっているような感覚を覚えることがある。これは写真がその誕生から現在まで私たちを魅了してきた一つの要因であると考えられるが、私たちが感じるこのような感覚は一体どのような理由から来ているのか。このことはカメラの成り立ちとその仕組みから考えていくことができる。


1−1 写真の成り立ち

 まず、写真技術の成り立ちを見ていく。Webサイト『Canon Global カメラの歴史を見てみよう』1)と『Nikon デジタル一眼レフカメラの構造』2)を参考にすると、およそこのように説明されている。紀元前から針穴を通した光が反対側の景色を壁に投影することは知られていたが、15世紀ごろこの仕組みがスケッチの補助装置として画家の間で「カメラ・オブスキュラ」として流行した。この装置には像を定着させる機構はなく、その代わりに画家が投影された像をなぞって絵を描いた。カメラ・オブスキュラを積極的に使った画家としてはヨハネス・フェルメールが挙げられる。この後、フランスのニエプス兄弟がカメラ・オブスキュラを改良し、投影された像をアスファルトを板に塗布した感光版に定着させ世界で初めての写真を撮影した。撮影には8時間を要したようだ。1839年にはフランスのルイ・ダゲールが感光材料に銅版を使用する「ダゲレオタイプ」を発明し露光時間を30分に短縮した。1841年には現在のフィルム写真の仕組みと同じ「ネガポジ法」をイギリスのウィリアム・タルボットが発明し、ダゲレオタイプではできなかった焼き増しが可能になる。19世紀後半に入ってからカメラの改良が続き、1888年に巻き取り可能なロールフィルムがアメリカで開発され現在のフィルム写真の形態につながることになる。その後1980年代には「画像を電気信号に変換して記録する」ビデオカメラの発展に伴い、静止画にも電子式カメラ(スチルビデオカメラ)が登場した。デジタルカメラも基本的にはフィルムカメラと同じ構造をしており、フィルムカメラがフィルムで像を定着させる代わりにデジタルカメラは撮像素子と呼ばれる部品が被写体の光学像を電気信号に変換し表示する仕組みになっている。現在ではボタンを押せば撮ったものを即座に確認することができるが、上記のような写真の歴史からわかるように、撮影によるイメージは「光の投影」と「感光材への定着」という2つの大きなステップを踏んで初めて成功するものである。ボタンを押せば撮れる様になった現在のカメラも結局は全てこの工程を経ている。


1−2 光による繋がり

 このような写真の成り立ちをもとに、写真に写る像とその写真の鑑賞者の関係を考えていきたい。写真の基本構造はその歴史からも分かるとおり、物体が反射した光をレンズを通して感光材に定着させることであり、フィルム写真に関してはその後、光が定着したフィルムにもう一度光を通すことによって印画紙に像を焼き付けるという仕組みである。つまり最初撮影を行った際に取り入れた光の反射から最後の像の定着するところまで、レンズを通して光をつなげていることがわかる。
 このことから、写真の中の存在が単なる紙の上の色の組み合わせでなく、"撮影対象から取り入れた光の痕跡"であるのだ。

 写真が絵画や彫刻によるポートレートと一線を画している理由は先ほども述べたとおり、写真が実世界に存在する(した)対象が実際に反射した光を像の定着の材料として使用していることにある。これに比べて絵画や彫刻のポートレートに使用される材料は絵具や粘土、樹木などであり、制作者の目を通していると言えど、完成した像そのものとその対象との科学的なつながりによる関係はない。比べて写真は過去実際に世界に存在した放射(物体が反射する光波)の記録である。被写体を反射しレンズを通った光は化学物質によってフィルムに定着し、フィルムにもう一度光を通すことによって像となって我々の目の前に過去の光の反射の様子が復元される。つまり私たちが見ている紙の上の像と、過去の実世界に存在した被写体は光によって"科学的に"繋がっているのである。この光の軌跡を辿ることで理論上では我々は過去の被写体まで到達することができる。我々は写真を通して「過去の被写体を実際に見ている」と言えるのではないだろうか。親友が死んだ際に彼女の写真を必死に集めて眺めた行為は、写真の中にこのような彼女との実質的な繋がりを無意識に求めていたのではないかと考えることもできる。
 もちろん、デジタル処理を挟まず最後まで物質的なメディアであるフィルム写真の方がこの「光による繋がり」は強固である。最近では若い世代の間で「エモい」という言葉と共にフィルムカメラが流行っている。それはもちろんフィルム写真の色合いや粒子感、単純な機械そのものや質感の一昔感によるものも大きいだろうが、やはりデジタルな画像が溢れ、撮影と鑑賞、保存までもがデジタル上で行われることが常態となった現代で、デジタルの写真にはないフィルム写真の"過去の被写体と繋がっている"という感覚に、若い世代は少なからず価値を感じているのではないかとも思う。


引用
1)『Canon Global カメラの歴史を見てみよう』 2021年7月25日アクセスhttps://global.canon/ja/technology/kids/mystery/m_03_01.html

2)『Nikon デジタル一眼レフカメラの構造』 2021年7月25日アクセス https://www.nikon-image.com/enjoy/phototech/manual/01/01.html


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?