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フランスに行った母親の料理の記憶

そんな母親の手料理についての記憶である。
うちの母は、はっきり言ってしまうと料理はあんまり上手じゃなかった。これは本人にも当時話していたし、本人も認めていることである。
幼少期のことを思い出しても、「お弁当がなんか他の子と違う」「他の子の家でごはんを食べたらうちと全然違った」「うちのウインナーは一回もタコじゃない」という記憶が色濃く残っている。子供心に、もう少し、もう一工夫なんとかならないのか、といつも思っていた。
まあ、55でフランス人と結婚した母の生涯という記事でも書いたとおり、母はなかなかに波瀾万丈な人生だったので、まぁ正直人生のウエイト的に「ゆっくり料理」どころじゃなかったというのは、これはでもわかる。
というより、実際離婚して母が仕事に行くようになってからは、物理的に食事の時間に家にいることがほとんどなくなり、母が料理自体をすることが少なくなってしまった。
ちなみにじゃあその頃、小学6年生だった自分と2年生だった弟のごはんはどうしていたのかという話だが、これは全部ぼくが作っていた。
だってそうしないとごはんなんかないんだから仕方がない。
お金もあまりなかったので、豚こま→銀鮭→お惣菜のコロッケというローテーションをひたすら地獄ループしていたのをよく覚えている。
だから、「自分の子供の頃のごはん」というと、むしろ自分で作った鮭のマヨネーズ焼きの映像がぱちっと浮かんできてしまう。
なお、50円コロッケに関してはそれだけではさすがにみすぼらしかったのか、子供心に少しでもゴージャスにしたかったとみえ、卵とじにしてカツ丼風のどんぶりにしていた。
後日、自分の結婚式だか会食だかの時に、母が当時を思い出して、「息子は結構自分なりに工夫する時があって、小さい頃にコロッケ丼をですね・・」という話を、寿司屋さんであるうちの奥さんの家族に向けてし始めたので、恥ずかしいからもうそんな話やめてくれ、と言った哀しい記憶がある。


さて、そんな母親だが、フランスに行ってからはまるでウソのように料理が上手になった。フランスに遊びに行って振る舞ってくれる料理はどれもこれも極上に美味しいものばかりだ。
ポトフ。ラタトゥイユ。ポテトとイタリアンパセリのガーリック炒め。トマトとチーズのサラダ。きゅうりのマスタードドレッシングあえ。
おいしいフランスのパンとチーズ、ハムやパテとの相性も抜群で、今までのはなんだったんだというくらい掛け値無しにどれもおいしかった。
やっぱり、愛情があると料理って全然変わるもんだなぁ。。とつくづく思ったものである。毎日楽しく一緒にマルシェに買い物行って、作ったらものすごい褒めてくれて、皿洗いはやってくれる、こんな環境だったらそりゃ料理も楽しくなるしやる気だって出るであろう。そりゃそうであろう。


その後母親は病気になった。
家族で看病もかねてフランスに遊びに行った時、母はやっぱりもう食欲があまりなかった。アンドレが色々工夫してくれていたが、なかなか食が進まず、そのせいでどんどん弱っていっているようだった。
何か食べたいものある?と聞いたら、餃子が食べたいという。そこでうちの奥さんが、ありあわせの材料で餃子を作ってあげたら、もうおいしいおいしいといって、うそみたいにたくさん食べていた。そしてその後はすごく元気になった。実際とてもおいしかったし、元気になる母の様子を見て、その時だけで来てよかったなぁと思った。おいしくって、ちょっと涙目になるくらいおいしかったな。


ちなみにだが、フランスで餃子を作るのはなかなかに難儀だった。まず第一、いわゆる日本のスーパーで見る「餃子の皮」が売っていないのだ。
そこで、うちの奥さんは皮を小麦粉でイチから作ることにした。ひき肉と、ニラがないからキャベツかセロリにしたのかな、とにかく工夫して、水餃子くらい分厚い皮の焼き餃子を作って、日本風に酢醤油で食べた。大変だったけどこれはうまくできたと思う。
これに気をよくして、うどんもイチから作りましたが、これまたおいしくできました。母親感激して完食していました。

この餃子、母親だけでなく、むしろアンドレがそれはもう気に入って(初めはいぶかしげだったが、一口食べて漫画のように表情を変えた)、うちの奥さんを「あなたはすごい料理人だ!」と大絶賛。その日家に来た客人にも「信じられないくらい美味いものをこの子が作っている」と初めからハードルを上げまくって振る舞い、それでもやはり皆口を揃えて「こんなにうまいものを食ったことがない」と絶賛していた。フランスの中華料理ベトナム系だから焼き餃子知らないのかな…。これからフランス人に手料理を振る舞う予定のある人は、ぜひ焼き餃子にしてみるといいと思う。


さっき出てきた母親のメニュー。
ポトフ。ラタトゥイユ。ポテトとイタリアンパセリのガーリック炒め。トマトとチーズのサラダ。きゅうりのマスタードドレッシングあえ。
これは、うちの奥さんがフランスで母に教えてもらって、全てレシピを引き継いでいる。そして、母親のメニューは我が家のメニューに姿を変え、今も現役で働き続けている。
ちなみに、鮭マヨネーズもたまにやる。
コロッケ丼はもうやらない。


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