マガジンのカバー画像

晴読雨読

61
晴レノ日モ雨ノ日モ、私ハ本ヲ読ム
運営しているクリエイター

#人生

先の見えない山を見て、息切れする件について

 ついついぼーっとしていたら、親指の先を切ってしまった。パン切り包丁で。包丁とはいえ、切れ味はさほどではないと思っていたから迂闊であった。プツリと切れた指からは、するりと真っ赤な血が滴り落ちる。思わず流れ落ちた血をまじまじと見た。止めどない赤。 *  最近読み終わった本の余韻に後ろ髪を引かれている。  小説と一口に言っても、さまざまなジャンルに分岐していて、その奥深さを語るだけでも一晩以上はかかることだろう。それほどまでに思えば私は言葉の不思議に魅入られて、気がつけば物

ありえないものたちの分解

 夜の虫の鳴き声は哀愁が漂っていて、漣が立つ。  近頃は少しずつだけど、人が密集しない場所で友人たちとご飯を食べにいくようになった。流石に東京は怖いので、大体は地元の友人たちと時間を共にする。久しぶりに会うと話が弾み、会わなかった期間が嘘ではないかと思ってしまう。  今年3月に見た映画のことが何故か頭にパッと思い浮かぶ。花束みたいな恋をした。終電を逃した男女が共に朝まで時間を過ごすことになり、お互いの好きなものを言い合うと恐ろしいほどにぴたりと一致する。  いやいや、こ

カモミールティーで目を覚ます

潮だまりの輝く砂、月に照らされて漂うボート。(早川書房 p.267)  途方に暮れるような悲劇から、物語はゆっくり動く。  私たちの日常においても言えることだが、かくも恋愛というものは、複雑で奇奇怪怪。容易には説明できないものである。  よく男はどうたら女はどうたらと無闇矢鱈に性別の傾向をもとに分析をしようとする人がいて、それを聞くとなんとなくそうかもなあと思ったりもするけど、結局最近そんなものはなくて一人ひとりの個性に準ずるのだろうと勝手に結論づけている。  きっと

言葉の時雨に降り振られ

 突発的な雨に、傘のない私は濡れるままだ。  思えば昨年noteを始めて半ば習慣的に文章を書くようになってから、時にはうんうんと頭を悩ませながらも言葉を捻り出すことに不思議な安堵感を覚えるようになった。  本当は1年間毎日描き続けたら一旦この習慣をリセットしようと思っていたのに、気がついたらパソコンの前に座ってパチパチと文字を打っている。1年続けるまでは正直毎日どんなことを書こうと頭を抱えていたのに、そのしがらみがなくなった途端、むしろ文章をとにかく書きたいという思いに駆

ショートショート:夜の陽炎

陽炎(名)・・・春や夏に、日光が照りつけた地面から立ちのぼる気。  夜の熱気を浴びて私は頭がクラクラした。  コロナで一時静まりかえっていた街も、気がつけば喧騒を帯びて再び活気を取り戻していた。辺りには酔っ払いの男どもが騒ぐ声。うるさいったらありゃしない。  昔は酒を浴びるように飲んで記憶を忘れるくらい騒いで朝に帰るというのが日課だったけど、さすがに三十路を越えたあたりから昔の悪い男たちの縁も切れた。最初は何か自分の一部を失ったかのようにちくりと胸が痛んだけれど、その痛

いつだって心躍りたいではないか

 遠くから聞こえる雷鳴の音。気がついたらPCがプツンと切れて、それまで作業していたことがパァになり頭が真っ白になった。数秒後に再び電気が供給され始め、再び電源をつけると幸いなことに自動保存していた。危ない危ない。  とは言いつつも、そもそもの話雷が鳴ってる中で電化製品を使うことはすなわち故障のリスクを抱えていることがわかったため、今後はもう少し気をつけよう。油断大敵。 *  いつだって私はワクワクしながら生きていたい。仕事だってプライベートだって苦しいよりは楽しい方がい

ムクドリの逆襲

【前書き】 特に実のある話でもなく、私の周りで起きた出来事を振り返る回です。  駅への道を歩くたびに、「キイキイキイキイ」と声がする。何だかめっちゃ近くに鳥がいる!と思っていたら、続いてその声に呼応するかのようにそこから少し離れたところから「キイキイキイキイ」と声がするではないか。  こんな至近距離で愛の囁きを交わしているのか、それならば近づいて一緒に行動すれば良いのに。と若干呆れた。すると次の日も同じ場所から同じような声がするではないか。  変だなと思って調べてみたら

あたまの中の栞 -水無月-

 早いもので新しい年を迎えてから半年が過ぎようとしている。「光陰矢の如し」とはきっとこんな時に使うんだろうな。6月に入ってからは毎日のように雨が降っていて、正直な話気が滅入った。もう地面が陥没してしまいそうなくらい雨が降り続けて不安が胸を掠める。  ここ一ヶ月長い物語を書いているうちに気がつけば1日が終わっている、という日々が続いた。物語を書くのは全然私にとっては苦ではなくて、あー私生きてるって思ってしまった。なんて単純なんだろう。自分が紡ぎ出す物語の世界に没頭することによ

シエラレオネの祈り(後編)

<前書き> 今回の記事は「戦争」について触れています。この手の話が苦手な方は、後ろを振り返らずに、そっと記事を閉じていただければと思います。またあくまで私が読んだ本を参考にしており、全てが事実かどうかは分かりませんので悪しからず。今回は2部作のうちの後編です。 ↓ 前回の話はこちらです。  そういえば昔よく近所の子どもと掴み合いの喧嘩をしたことを思い出した。喧嘩の原因はよく覚えていない。たぶん、些細な主張のすれ違いがきっかけだったように思う。その頃、私は自分の考え方がまか

シエラレオネの祈り(前編)

<前書き> 今回の記事は「戦争」について触れています。この手の話が苦手な方は、後ろを振り返らずに、そっと記事を閉じていただければと思います。あくまで私が読んだ本を参考にしており、全てが事実かどうかは分かりませんので悪しからず。またちょっと長いので、2部構成としました。  私が生まれた世代では、日本の中で幸運にもこれまで血が飛び交うような争いが起こるなんてことはなかった。だが今こうして息をしている中でも、地球の裏側ではたくさんの子供たちが毎日生きるために必死になって暮らしてい

聞こえぬはずの声を聴く

 昔カナダのバンクーバーから1時間程度の場所にある、ヴィクトリア島に留学していた時がある。  その当時仲良くなったメキシコ人から「ユー、ホエール見に行かない、ホエール」と誘われ、半信半疑でゴムボートに乗って見に行った。その時一緒に乗ったクルーのひとりがブラジル人で、明らかに顔色が悪く「おおぅ、大丈夫だろうかこの人」と思っていたら、案の定数分経ったのちその人の中にあったものが盛大に海へ還っていった(詳細省く)。  その後はもう眩しいくらい、彼がスッキリした顔をしていたことを

腐海の中をひたすら彷徨って

 どちらかというと呟きにも近くなってしまうが、最近『風の谷のナウシカ』の漫画版を読んだ。その昔映画版は見たことがあったけれど、漫画版で読むことは初めてだった。かなりの分量で、漫画とはいえどものすごい時間を要した。読み終わった瞬間、肩からゆるゆると力が抜けた。  果てしない世界観だと思った。この世の中にはファンタジーと呼べる作品が有象無象で存在しているけど、『風の谷のナウシカ』の紡ぎ出す世界はただただひたすら深いと思った。うまく言葉にすることができない。たぶん1回だけ読んだだ

私が、きっと息をしている理由。

 昨日の昼間あたりから急にお腹が鈍い痛みを訴えるようになった。それは今日までぼんやり続いており、仕方がなしにコロンと丸くて黒い小さな球を3つほど飲むハメになった。どうしても見た目が良くないので、飲むときに躊躇する。なんで私はこんな目に遭ってるんだろうな、と頭を回らしたときに思い至ったのが昨日食べた西瓜だった。一玉の半分も食べてしまったから胃袋がきっとびっくりしてしまったのだろう。無理矢理そう思うことにした。 *  正直、お腹がチクチクと痛む時、仕事をするのはどうにもしんど

あたまの中の栞 -皐月-

 そろそろ春の暖かい季節も通り過ぎて、ジメジメとした季節に突入しようとしている。5月は個人的にはとても好きな季節。都会ではあまり見かけなくなったけど、私が住んでいる田舎町ではところどころで鯉のぼりを見ることができる。柏餅も食べることができるし、黄金色に輝く休みだってある。  なかなか贅沢かつ楽しみが詰まった月だと思う。例年であれば、だいたい休みを数珠のように繋げて、海外へ特に目的地を定めるでもなくプラッと飛ぶ。残念ながら依然として「名前を言ってはいけないあいつら」が猛威を振