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キネマ備忘録

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映画を観て、広がった世界のこと
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#人生を変えた出会い

車窓から覗く胸の痛み (『ドライブ・マイ・カー』考察)

 車の中から、窓の外を見る瞬間が好きだ。  晴れだろうと雨だろうと、私は守られている存在で、一歩引いた姿勢で景色を楽しむことができる。流れゆく折々の場面は、ひとの人生を体現しているようにも思えて、ほんの少し切なくなることもある。高速道路を猛スピードで駆け抜ける車、突如として広がる海の青さ、激しい雨が窓を穿つ音。  自分で運転をすることも好きだけど、誰かが運転をする車に乗ることも同じくらい好きだ。外を眺めることに集中することができる。巡りめく景色の中で、自分がこれまでどのよ

今も、気がつけば側にいるような

 僕の伯父さんは変わっている。少し、いやだいぶ変だ。  今のこの時代、安定した職を持つ事が当たり前。貯金だってそれなりに持っているべきだということは、見通しのつかない将来を考えてみても世間一般の通説だ。決まった仕事もなく、年がら年中どこほっつき歩いているのかわからない人がいるのであれば、その人は否でも応でも世間では白い目で見られる。生きづらいことこの上ない。  そんな風潮にも関わらず、伯父さんはひたすら決まった職を持たずに、全国各地を渡鳥のように練り歩いていた。  他の

時間を旅する人たち

水の上に石を落とすと、静かに波紋が揺れる。 ちょうど日常のちょっとした変化に対して、それがまるで波紋のようにだんだんと異なる影響をもたらすことをバタフライエフェクトというそうだ。 そういえば昔『時をかける少女』というアニメ映画を見たことがあるけれど、主人公が過去に起こした出来事によって未来が大きく変わってしまうという、そんな道筋だったように思う。3作品にわたって制作された『Back to the future』もそうだ。 タイムスリップをネタにした話なんてものはこの世の

海の上で生きるピアニスト

他の記事でも不慣れな短編で題材にするほど、海という存在はわたしの中でとても大きい。今住んでいる場所は、海からそれなりに距離のあるところなので、おいそれと海のある街へ行こうにも時間をかけて電車に揺られながらその場所へ向かうことになる。 個人的には家にいるよりも、比較的移動する方が好きなので電車に揺られている時間はわたしからしたら全く苦ではない。そのため、好きな音楽を聴きながらのんびりと自分だけの時間を過ごしている。そして海が近づくに連れて開け放たれた窓から潮風が舞い込んできて

お勧めのインド映画 5選

最近家で過ごすようになってから、貪るように見始めた映画の数々。中でもお気に入りは、インド映画だ。コロナ禍であまり外に出ることができなくなってから、どうしてもストレスが溜まるようになってしまった人もいるかと思う。 そんな時、そうしたストレスを和らげる方法の一つとして、やっぱり最後明るく終わる映画というのは有効だと思っている。そして、そんな映画は何かと聞かれると、ハリウッドならぬインドで作成されたインド映画・ボリウッドである。 自粛中は、30作品ほど見た。たぶん、日本で見られ

映画#9. 家族を超えた愛(『湯を沸かすほどの熱い愛』)

このコロナ禍が収まった暁にはやりたいことがいくつかあるが、そのうちのひとつが銭湯にいくことである。 昔ながらの、下町でやっている銭湯がとてもすきで、ネットで調べてはよくふらりと立ち寄っていたものだ。先日見た映画『湯を沸かすほどの熱い愛』では、その舞台が銭湯。友人に紹介されたのだが、そのときには実は見ることを躊躇していた。 というのも、よくあるガンで余命宣告を受けて…という構成の流れで、お涙頂戴的なありふれたエピソードだと思っていたからだ。実際に映画を見てみると、良い意