マガジンのカバー画像

キネマ備忘録

33
映画を観て、広がった世界のこと
運営しているクリエイター

#映画評

孤独と空虚が隣り合わせ

 最近、名作といわれている作品を日がな時間がある時に鑑賞している。その中で先日観た作品が、『タクシードライバー』という映画。本作品は、映画.comの評価を見ると星が3.7となっており、ALLTIME BESTにも選ばれている。 でも、わたしはどうしてもこの作品が好きになれなかった。  単純に作品の雰囲気が嫌いなのだという感想で終わってしまうと、そこで思考停止だ。そこで、改めて自分の中でなぜ好きになれなかったのかということを問いかけてみた。  まずは、『タクシードライバー

真夜中の五分前

大好きなバラエティのひとつに日テレ系でやっているAnother Skyという番組がある。もう誰もが知る長老番組になりつつあるが、わたしは普段あまりテレビを見ないのだけどこの番組だけずっと見続けている。 とは言いつつも、ここ2年くらいずーっと撮り溜めしていてなんだかんだ忙しいことを理由に全然見られていなかった。ところが家に籠るようになって、これまで過去の分をひたすら見続けている。 その中で行定勲監督が出演された番組があって、彼が撮影した『真夜中の五分前』という映画が気になっ

映画#9. 家族を超えた愛(『湯を沸かすほどの熱い愛』)

このコロナ禍が収まった暁にはやりたいことがいくつかあるが、そのうちのひとつが銭湯にいくことである。 昔ながらの、下町でやっている銭湯がとてもすきで、ネットで調べてはよくふらりと立ち寄っていたものだ。先日見た映画『湯を沸かすほどの熱い愛』では、その舞台が銭湯。友人に紹介されたのだが、そのときには実は見ることを躊躇していた。 というのも、よくあるガンで余命宣告を受けて…という構成の流れで、お涙頂戴的なありふれたエピソードだと思っていたからだ。実際に映画を見てみると、良い意

形が輪郭を持つこと

最近、コロナ禍の影響で家に篭るようになってから、ただひたすらいろんな家がを見続けていた。調子が出ると、4本くらいぶっ通しで見たこともある。 それまではどちらかというと、本の虫だった。まあ過去形でもなくて、今も相変わらずいろんな本を興味あるものから片っ端から読んでいるのだが。もともとそれほど読むのが早い方ではないので、1日に300ページくらい読めれば上出来というかんじ。 それでも、本を読むペースが映画を見るペースを超えることはここ数年全くなかったのに、それが一変した。わたし

差別と偏見にまつわる人の心

先月、アメリカ・ミネソタ州にて黒人男性のジョージ・フロイドさんが、無抵抗にもかかわらず白人警察官によって殺される、という事件が起こった。その結果、アメリカ国内でたくさんの人たちが、人種差別に対する抗議デモを行う事態に発展している。 21世紀に入ってからは、20世紀以前に起こった出来事を背景に、「人は皆平等、差別を止めよう」という動きが広がった。だけど、たぶんこの手の問題は依然として解決の糸口が見えていないように思う。 確かに今回の事件は痛ましい出来事であることに変わりはな

#7. 思い悩むこと(『道』)

ふと振り返ってみると、あの時ああすれば良かったのに、と自責の念に駆られることがある。 以前、森川葵主演の『チョコリエッタ』という映画と黒木華主演の『日々是好日』という映画を見ていたときに、どちらの映画にも一つのオマージュ的な役割として巨匠フェデリコ・フェリーニの『道』という映画の存在があった。その時からずっと気にはなっていて、この度晴れて時間ができたために早速鑑賞してみた。 あらすじ 怪力自慢の大道芸人ザンパノが、ジェルソミーナを奴隷として買った。男の粗暴な振る舞いに

#6. 追いかけた先。(『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』)

気づけば、言葉の響きを探している。 元々学生時代の頃から、小説を習慣的に読むようになり、言葉の海に溺れるようになった。そして、物心ついた時から好きな言葉のひとつが「ピーナッツバター」である。 その魅力は深く語ろうとすると長文になりそうなので、次回に回したいと思う。 簡単に触れるとまず「ピーナッツ」というどこか硬質で男前な感じ、そしてバターはどこか柔らかいとろけるようなそんなイメージが伝わってくる。その二つの言葉が合わさった「ピーナッツバター」は、まさに剛と柔を組み

#5. 人とのつながり。(『しあわせのパン』)

急にお腹が減った。最近朝ご飯はもっぱらご飯ばかりを主食としていたのだが、そろそろパンを食べようと思う今日この頃。そんな中、友人から教えてもらって見た映画。田舎暮らしの素晴らしさを再認識させられる作品でもある。 あらすじ北海道・洞爺湖のほとりの小さな町・月浦を舞台に、宿泊設備を備えたオーベルジュ式のパンカフェを営む夫婦と、店を訪れる人々の人生を四季の移ろいとともに描いたハートウォーミングドラマ。りえと尚の水縞夫妻は東京から北海道・月浦に移住し、パンカフェ「マーニ」を開く。尚が

#4. 喪失の向こう側(『Perfect Sense/世界から猫が消えたなら』)

コロナウイルスに罹るとその症状のひとつとして、嗅覚と味覚が低下するということが挙げられるという。そんな時にぱっと思い浮かんだのが、『Perfect Sense』という映画だ。2011年イギリスにて作成されたデヴィッド・マッケンジー監督によるパニック映画。 少しずつ感覚が消えていくことこの映画は少し、今の状況と似ている。 ある日突如として、全世界の人々の間で原因不明の感染症が広まり始める。嗅覚を皮切りにして、味覚、聴覚、視覚が失われていくという話である。(触覚は最後まで失わ

#3. 心揺らすもの(『あやしい彼女』)

「あの頃はほんとうに良かったなぁ」 と、わたしの父親世代の人たちは時々お酒片手にぼやく時がある。1960年代後半から1980年代にかけて、日本の音楽シーンで一台ムーブメントを興したフォークソング。どこか胸を締め付けられるような、かつ懐かしくなるような気持ち。わたしは彼らがそう呟くのもなんとなく理解できる気がするのだ。 わたしがまだ幼い頃から、父親の車の中ではいつもチューリップが流れていた。その影響からか、わたしも自然と物心ついてからもその時代に流行ったほかのフォークソ