ダメージを纏って。
「こんなのはじめて。」
この台詞を女性に言ってもらう為に男という生物は存在している。
半年前に何とか予約がとれたフレンチをご馳走したり、
誕生日にとっておきのサプライズとプレゼントを渡したり、はたまたベッドの上で。
この台詞は雄として他より秀でていると同意義で、ヒエラルキーの上位に立つことを意味するのです。
この台詞を引き出す為に男達は働き、学び、今も眉間に皺を寄せながら凄まじい速度で脳を回転させています。
ここで僕が聞いた瞬間に思わず両の親指を立ててしまった素晴らしいエピソードを紹介しましょう。
・・・
男は駅からほど近いバルに向かっていた。
時間通り、いや少し遅れるかもしれない。
会社を出る間際に上司に捕まってしまい十五分ほど奥さんの愚痴を聞かされたからだ。
歩幅は大きくなり、地面を蹴る速度は速くなる。
それは遅れるかもしれないという理由だけではない。
今夜の合コン相手の三人の内一人が相当な美女らしい。
足取りが速くなるには十分過ぎる理由だ。
男は早歩きと小走りの中間ほどのスピードで人混みに消えていった。
バルに着き、案内されたテーブルには見慣れた顔が二つと見慣れない顔が二つ。目鼻立ちのハッキリとした"美"という文字がよく似合う顔が一つ。一瞬で"美"の虜になった。
男は見慣れた顔二つの隣に座った。幸運にも"美"の真正面だ。
合コン自体は教科書通りに進み、盛り上がりは教科書以上だった。そして教科書通りの質問が隣の見慣れた顔から飛んだ。
「みんな好きな男のタイプってある?」
一人は優しい人と答え、一人は面白い人と答えた。そして大注目の"美"は頬杖をつきながら、パルプフィクションのユマ・サーマンよろしくな角度で一言呟いた。
「顔に傷のある男。」
二次会まで続いた合コンはお開きとなった。
全員でLINEグループを作ったから、一先ず"美"への連絡手段は手にした。
帰り道、顔に傷のある男を思い浮かべたが緋村剣心と杉元佐一しか出てこない。
自宅まであと数分のところで右ポケットが鳴いた。
スマホを取り出すとガラスのタッチパネルには"美"からのメッセージが映し出されていた。
「明日、暇だったら20時に来て。」
短い文章の下には居酒屋のURLが貼られている。
脈ありかもしれない。いける。
「顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷顔に傷….」
気付けばカッターを手に自宅の鏡の前に立っていた。
出来ない。
それなりには酔っているが出来ない。
いや、もう酔いなどとうに覚めるほどの時間ここに立っている。外は明るくなっているどころか陽が沈みかけていた。朝になって、昼になって、夜になろうとしている。
十八時間鏡の前にいる。カッターを握りしめて。
男はクローゼットへ向かった。
一着の服を取り出し、カッターを振り下ろした…
男は駅からほど近い居酒屋に向かっていた。
時間通り、いや少し遅れるかもしれない。
カッターで服をズタボロにしていたからだ。
居酒屋に着くとこちらに気付いてヒラヒラと手を振る目鼻立ちのハッキリとした"美"という文字がよく似合う顔が一つ。
「遅れてごめん。」
「いいよ。なぁに、その服?」
「あぁ…君さ、顔に傷のある男がタイプって言ってたじゃん。でも、顔に傷をつける勇気はなかった。だから…その代わりというか…服に、傷をつけてきた…」
「…ふふっ、あははっ!だからってそんなにズタボロにする?」
「君に…君に好かれたかったから。」
「……こんなのはじめて。じゃあ乾杯しましょ。」
・・・
素晴らしいエピソードですよね。
顔ではなく、服に傷。
好かれるための、斜め上のアイデアです。
最近、従来のダメージ加工を通り過ぎたような、よりハードなダメージを与えたアイテムをよく見かけます。
atelier daidye(d)は4年ほど前からハードなダメージのアイテムを作り続けています(もちろんカッターは使いません)
それを例えばどんな人に着て欲しいかなと考えた時に、このエピソードに出てくる男のような人に着て欲しいと思いました。
好き対してに一生懸命で真っ直ぐ。
それは、時に狂気に感じるほど。
男女問わずですが、自分の好きなものや信じたスタイル。
そういったものに不器用なまでに実直な人。
そんな方にはきっと似合います。
最後にatelier daidye(d)のダメージアイテムを紹介させてください。
見ればきっとこう言ってしまうのではないかな。
こんなのはじめて。
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