クリスの物語Ⅳ #10 黒のつなぎ
最終的な判断はぼくに任せるというように、沙奈ちゃんと桜井さんが『どうする?』と、思念を飛ばしてきた。
正直、なんとも返事のしようがなかった。
もちろん、本当にクリスタルエレメントが奪われてしまったのであれば、それを奪い返さないことには地球が滅亡させられてしまう危険がある。仮にそうならないとしても、地球は闇の勢力に乗っ取られたままで、人類は闇の勢力に洗脳され続けることになる。
それを阻止するためにも、クリスタルエレメントを取り戻さないといけないとは思う。
でも、はっきりいって危険が多すぎる。
クレアたちがいない中、ぼくたち子供3人で闇の勢力の本拠地に乗り込むなんて、自殺行為だ。
『もちろん、私たちもお供いたします』
心配するぼくの気持ちを察してか、マーティスがいった。
『それと、こちらもご用意してございます』
マーティスは、しゃがんで足もとに置いたバッグを開けた。中から黒い布を取り出すと、ぼくたちにそれぞれ寄越した。
ぼくはベベを地面に降ろして、それを受け取った。
『ピューネスです。飛翔力と防御力を強化したベースに、皆さんそれぞれのピューラの特性を織り込んであります』
広げてみると、それはポケットがいっぱいついた上下黒一色のつなぎだった。
これを着てサングラスでもかければ、少年スパイにでもなれそうだ。
沙奈ちゃんのも桜井さんのも、まったく同じデザインだった。
ベベ用のつなぎも用意されている。黒のブーツも手渡された。なんだかまるで、どこかの特殊部隊に加入させられようとでもしているみたいだ。
それらを抱えて、ぼくたちは顔を見合わせた。
いつの間にか、もう協力するような流れになっている。
すると、沙奈ちゃんがはっとしてマーティスに質問した。
『行くとなったら、今から行くのですよね?』
『はい。勝手で申し訳ありませんが、取り返しのつかなくなる前に奪い返す必要がございますので』
マーティスはそういって、頭を下げた。
『でもこの次元でのことになるわけだから、時間は同じように過ぎていくわけでしょう?』
沙奈ちゃんのその質問を聞いて、ピンときた。
そうだ。今回は次元の違う別都市へ行くわけではないから、元の時間に帰ってこられるということはない。しかも、行き先は海外だ。
何日滞在することになるのかわからないけど、いくら夏休みだとはいっても海外へ行くなんて親に絶対許可してもらえない。夏休み中の部活だって、そんな何日も休めない。
そんなぼくの思いと同様のことを沙奈ちゃんが伝えると、マーティスは『心配いりません』と答えた。
『それについては、すでに手を回しています』
『どういうことですか?マーティスさんがわたしたちの親をすでに説得しているとでもいうのですか?』
沙奈ちゃんのその質問に、マーティスは首を振った。
『いえ、私からあまり詳しいことはお伝えできませんが、これから皆さんには別の並行現実へと一時的にシフトしていただきます』
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!